2-2 エネルとの闘い
僕がエリナと一時の会話を続けていた頃。
『シン……ここにはまだ、すごく強い敵がいるよ』
念話を経由してフォレスティアの幼い声が頭の中で響く。その警告を受けて、僕は周囲に意識を集中させた。念話を応用し、周囲に潜んでいる何者かを走査する。そして、木々の間に隠れている存在――それがじわじわと近づいてくるのを感じ取る。
「エリナ、気を付けて!」
僕が姿勢を正すと、黒い外套をまとった男が姿を表した。冷徹な視線をこちらに向けながら、肩を軽く回している。
「よう、気づかれちまったか。俺の名はエネルだ。まあ、名乗っても仕方ねえか」
エネルの声が低く響いた。
「女一人に大勢で襲いかかるのは俺の趣味じゃねぇ。だから様子を見ていたんだが……お前の力、なかなか面白そうだな」
彼の口調は荒いが、言葉の内容はなかなか紳士的かもしれない。しかし、彼の内に感じる力の大きさは無視できないものだった。彼の周囲に漂う見えない圧力のようなものを感じる。
「悪いことは言わねぇ、その女を渡せば済む話だ」
僕は慎重に、彼の一挙一動を注視する。
「それはできない。ついさっき、彼女と約束したんだ。1人にしないって」
「そっか。ならしょうがねえか。だがな、俺はさっきの連中とは格が違うぜ」
エネルが外套を脱ぎ捨て、戦闘体制に入った。
彼は耐久性のありそうな革製のジャケットの下に、赤い薄手のインナーシャツを着ており、ジャケットの肩や肘の部分には補強用の小さな金属プレートが縫い込まれている。ズボンも同様に耐久性のある黒い革製パンツで、膝部には同じく金属の補強が施されている。また、履いているのは動きやすそうなブーツだ。全体的に無駄のない戦闘に実用的なスタイル。おそらく頭でっかちなインテリ魔法使いではなく、僕が苦手とする体術に優れたタイプだろう。
――魔気弾――
エネルが軽く右手を突き出した瞬間、彼の掌から放たれた魔力の弾が砲弾のように僕たちに襲いかかってくる。魔力をそのままエネルギーに変換したような塊で、速度も非常に速い。しかし、僕は予めフォレスティアの予知能力によって、その攻撃の軌道を読み取っていた。
「エリナ、下がって!」
僕は咄嗟に叫びながらエリナの腕を引き、共に後方に飛び退いた。エネルの一撃は地面に激しく衝突し、土が大きく抉られた。その攻撃力は一般的な炎や氷の魔法を凌ぐものだ。魔力を無駄に別のものに変換することなく、エネルギーそのものとして放出する彼の魔法。その効率の高さは破壊力につながる。
「こいつは、確かに強い!」
僕は焦りを感じながらも、体勢を立て直す。だが、エリナは動じることなく、すぐに魔法を放つ準備を整えていた。
――光の槍――
エリナが放った光の槍が、まばゆい光を纏いながらエネルに向かって飛んでいく。しかし、エネルは動じることなく、それをなんと、素手で弾き飛ばした。
「俺に生半可な魔法は効かねぇんだよ」
彼は嘲るように笑う。やはり、体術に優れた魔法使いだ。僕の石を投げるような戦法では、全く歯が立たないだろう。
僕は思わず舌打ちした。彼の動きは俊敏で、力押しにも関わらず隙がない。
「一発避けられたくらいで得意になるなよ」
エネルはそう言うと、今度は両手を突き出した。
――魔気弾――
そして今度は複数の弾を連続で打ち出してきた。数が多い。だが、予知能力を用いて弾の軌道が事前にわかっていれば、避けることは難しくない。僕はエリナにも適切に指示を出して、それらを全て回避した。
「なっ、何で当たらねぇんだ。当たりさえすりゃ、骨が砕けて動けなくなるんだが」
エネルは苛立ちを隠せず、攻撃を続ける。弾の数は問題ではない。シューティングゲームと一緒だ。狙って飛んでくる弾は、少しでも動けば当たらない。そうでない弾は、動かなければ当たらない。どちらの弾か事前に分かれば、最小限の動きで回避可能だ。
「やるじゃねぇか。なら、これを見せてやるよ」
エネルが両手をボールを持つようにして組むと、その中に魔力が渦巻くように溜まり始めた。おもむろにその手を腰に下ろし、さらにエネルギーを凝縮していく。
「……まさか、これは!?」
その動きに思わず前世の記憶が蘇り、僕の目が輝いてしまった。これは、かめ◯◯波的なやつじゃないか? いけない、そんなことを考えている暇はない。エネルが両手を前に突き出すと、巨大なエネルギーの波動を放ってきたのだ。
――魔気波――
うわぁ、すごい。まさに、あれじゃないか。これをリアルに見られたのは感動ものだ。
僕は予知能力を駆使して、瞬間に飛び退き、エネルの放った波動は、僕たちをかすめた。その後、背後の大木に直撃すると、その幹は粉々になって飛び散った。この威力の大きさは、時速100キロで走るトラックが壁に激突した程度ではないだろうか。などと冷静に解析してしまったが、まともに食らえば、骨が砕けるくらいじゃ済まない。軽〜く即死できる程度の威力だ。
僕は体勢を整えながら、彼の次の攻撃を読み取り続ける。今は余裕ぶって華麗に回避しているように見せているが、エネルの力はあまりにも強大だ。何度未来を読んだとしても、彼の全ての攻撃は防げないかもしれない。
あれにはあこがれませんか?
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