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14-1 念話ブロードキャスト

 僕は太陽の祭壇の中央にある水晶に手を置き、深く息を吸い込んだ。これからの僕たちの動きが、世界の運命を左右する。


「アリア、増幅の魔法を頼む」

「いよいよやな! 任せとき!」


 ーー増幅の福音(ブーストーン)ーー


 アリアが魔法を発動し、その力が僕に流れ込む。


 ーー念話接続(マインドリンク)ーー


 百倍に増幅された僕の念話の魔法は、水晶を介して太陽の祭壇の増幅装置に送り込まれる。さらに、太陽の祭壇自体の増幅効果が約二十倍。二つの増幅が掛け合わさり、僕の念話は二千倍の力となる。その念話の波動は、ルミナス城上空に浮かぶ巨大な魔法陣から広範囲に放射された。


 行ける……!


 僕は確信した。この力は大陸全土のみならず、世界全土に届いている。僕はこの世界に生きる約十億人の全てに念話で接続を試みた。そして、それは成功した。


 世界中の人々の思念が一気に流れ込んでくる。様々な感情――悲しみ、怒り、戸惑い――その中で最も支配的だったのは、苦しみだった。

 改めて気付かされた。ここルミナス王国は今は真冬。それなのに、灼熱の太陽が容赦なく照りつけ、空気が焼けるように熱い。もちろん、世界の中には今、真夏の国もある。そういった地域に住む人々はどれほど過酷な状況に置かれているのだろう。

 僕の念話を通じて見える光景には、干上がった川や湖、人々が焼ける地表から逃れるために地下へ潜り、何とか息をつないでいる様子が見えている。

 膝が震える。この熱波の中、僕の念話が繋がっているまさにこの間にも、無数の命が次々に消えていくのが分かる。この灼熱の地獄から今すぐに人々を救わなければならない。

 決意を胸に、僕は次の行動を開始した。


『えー、太陽の暑さに苦しんでいる世界中の皆さん』


 いよいよ全人類へのプレゼンが始まる。緊張で手が震えそうだが、そんなことを言っている場合ではない。


『僕の名前はシン・ユニマグナス。念話使いです。今僕は、念話で世界中の全ての人々に同時に話しかけています』


 深呼吸をして言葉を続ける。


『太陽はこれからさらに暑くなります。この未曾有の危機から世界を救うためには、皆さん全員の協力がどうしても必要です。どうか、耳を傾けてください』


 思いのほか言葉がすらすら出てくる自分に驚く。そして気づいた――今の僕の心には、ゼノルスの意識が微かに混ざり込んでいるのだ。あの雄弁さと説得力。ゼノルスが得意とした演説の片鱗が、不本意ながら役に立っている。


『皆さんの魔法を、この念話経由で僕に送ってください。どんな魔法でも構いません。火の魔法、水の魔法、光の魔法……種類は問いません。僕はその力を取り出し、この世界を救うために活用します』


 声の調子を少しだけ上げて強調する。


『僕たちにはもう時間がありません。どうか、今すぐ、力を貸してください!』


 念話を通じて世界中の人々の思念が揺れるのを感じる。不安、疑念、希望、恐れ――それらが渦巻く中で、次第に多くの人々から魔力が送られてきた。特に、真夏の地域で命の危機に直面している人々は、藁にもすがる思いで魔力を送り込んでくれている。

 しかし、まだまだ足りない。

 当然だろう。突然念話で話しかけられ、すぐに信じろという方が難しい。特に、ルミナス王国やイグナリス王国周辺の人々にとって、僕への信頼は容易に生まれるものではないだろう。ほんの数分前まで、彼らはゼノルスの支配の魔法によって念話を通じて操られ、体の自由を奪われていたのだから。さらに、イグナリス王国では僕はお尋ね者だ。ゼノルスの陰謀に巻き込まれたとはいえ、太陽の異常を企んだ張本人と見なされている。


「シン、私にも話させてください!」


 エリナが力強く申し出た。その真剣な眼差しを見て、僕は迷わず彼女の思念をブロードキャストする。


『私はルミナス王国の王女、エリナ・シア・ルミナスです。ルミナス王国はこれまでソルディアス教団という組織に支配されていましたが、私たちはつい先ほど、その指導者ゼノルスを打倒し、解放されました。そしてその解放を導いた最大の功労者が、このシンなのです! 彼は信頼できる人物です。どうか皆さん、彼に力を貸してください。少しでも早く、苦しむ人々を救いたいのです!』


 エリナの心からの訴えが世界中に響き渡る。ルミナスの聖女の知名度は高い。彼女の言葉に呼応して、新たな魔力が集まり始めた。しかし、まだ決定的な力には至らない。


「シン、俺にも話させろ!」

「私もひと肌脱がせてもらうわ!」


 次にエネルとアリアが手を挙げる。僕は彼らの声もブロードキャストした。


『お前ら、聞いてんだろうが! 魔法をさっさと送れ! 俺は最強の戦士、エネル・バルカンだ。もたもたしてたら、全員まとめてどやすからな!』


『あたしからも頼むで! 私はアリア・ノエル。魔法を送ってくれたら、あたしの増幅サービスで百倍や!』


 だが、残念ながらエネルの荒々しい呼びかけも、アリアの軽妙なお願いも、ほとんど効果はなかった。残念ながら、一般市民からの認知度の圧倒的な不足だろう……

 そこでグラヴィスが僕の肩を軽く叩いた。その静かな合図に応えるように、彼の声を念話にブロードキャストする。


『あー、あ、聞こえているか? 俺はグラヴィス・ノクターンだ。みんな、不安に思っているのは分かる。だが、今は一つにならなければならない。本当に時間がないんだ。俺からも頼む。シンを信じて、力を貸してやってくれ』


 その瞬間、魔力の流入が一気に増加した。さすがは英雄グラヴィス。その信頼と影響力は絶大だった。


 すると、別の念話接続が入る。聞き覚えのある、声――父親のゲン・ユニマグナスだ。親父の言葉もブロードキャストする。


『私は、ゲン・ユニマグナスです。各国の皆様、いつもお世話になっております。シン・ユニマグナスは私の息子です。まだ若いですが、彼の覚悟と信念は私が保証します。どうか彼に力を貸してください。世界が一つになる時です』


 父親の話の後、父親の念話経由でさらに別の声が響いた。


『余はイグナリス王国の王、アストライウス・エス・イグナリスだ。恥ずかしながら、余もあのゼノルスにたぶらかされ、屈辱的な支配を受けていた。だが、余を救い、イグナリス王国を取り戻してくれたのがシン・ユニマグナスだ。余は彼を真の英雄と認める。どうか、派手に協力してやってほしい』


 親父とイグナリス王、二人の影響力は計り知れないものだった。親父は普段から念話を使って各国の要人たちと繋がりがあり、信頼も厚い。そしてイグナリス王はとても人気のある人物だ。続くように、各国の要人たちから自国民への呼びかけも始まった。

 うーん、なんだかんだいって、親父は凄いかもしれない……


 世界中から次々と魔力が送られてくる。そして、ついに十億人分の魔力が僕の中に集まった。

有名な格闘技の世界チャンピオンがいたら、もっと簡単に集まったかもしれませんね。


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― 新着の感想 ―
皆で意思統一して、上手くやれたらというのは浪漫ですよね。太陽の暑さがまた尋常ではない季節もリアルの方は近づいてきて、それを彷彿とさせました。物語の中ぐらい、上手くいってくれたら、と思います。今回もとて…
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