12-5 絶対指揮
「私の『絶対指揮』は、他者だけでなく、自分自身の体も操ることができます。その場合、人体の限界を超えた動きを行使することも可能です。しかし、その代償がこの有様……。私の足は負担に耐えられず、骨は折れ、筋は裂け、もはや魔法なしでは二度と自力で歩くことはできないでしょう――だからできれば使いたくなかった」
彼は一度深く息を吸い込み、話を続けた。
「そして、この太陽の祭壇――既にご存知かも知れませんが、これはただの祈りの場ではありません。ソルの力を借りて、注ぎ込まれた魔法を何十倍にも増幅し、放つ力を持っています。この水晶を介した魔法は、増幅され、城の上空に浮かぶ魔法陣から放たれる」
ゼノルスが水晶を握りしめ、満ち足りた表情を浮かべる。
「この装置の力は奇跡を起こすことも、破壊をもたらすこともできます。民衆を束ねるための絶対的な力としても、強力な兵器としても機能するのです。私がこの地にこだわる理由、そして王家がこの秘密を隠している理由……お分かりですね」
彼の勝ち誇った声が響く。
「さて、私の支配の魔法は今、この水晶を介して何十倍にも強化され、城の上空に広がる魔法陣から広範囲に放たれています。この城の中にいる者全ては、私の魔法から逃れることはできないでしょう」
僕たちは動けないまま、ゼノルスの宣言を聞いているしかなかった。
「さて、両足を失ったのは誤算でしたが、大勢に影響はありません。皆さんの体はすでに私の意のままに動かすことができます。そのうち、心の方も私に従うことになるでしょう」
彼の声は、歓喜に満ちている。その視線が僕に向けられると、不気味な笑みがさらに深まった。
「シン君、覚えていますか? 前回の戦いで、私は君の念話を通じて魔法を直接流し込むことができましたね。あの後、私は素晴らしい可能性に気づいたのです。君の念話を使えば、私の魔法を世界中に届けることができる」
ゼノルスはゆっくりと手を上げた。
「つまり、シン君がルミナス王国、イグナリス王国、そして周辺国の全住民に念話を繋げば、念話経由で彼ら全員に私の魔法を流し込み、支配することができるのではないか、ということです」
確かに、可能かもしれない。そして、それは最悪のシナリオだ。
「では、早速試してみましょうか」
ゼノルスは冷淡に僕たちを操り始めた。
「アリアさん、まずシン君を強化してください。そして、シン君、可能な限り広範囲で念話を繋ぐのです」
ーー念話接続ーー
僕の体はゼノルスの命令に逆らうことができない。アリアの魔法によって増幅された僕の念話の能力は、あっという間にルミナス王国、イグナリス王国、そして周辺の国々全土に届き、五千万人以上に念話が繋がった。
ゼノルスの言葉が、僕の念話を通じて響き渡る。
『皆さん、私はソルディアス帝国の初代皇帝、ゼノルス・セクトール・ソルディアスです。ルミナス王国とイグナリス王国はすでに私の帝国に統合されました。私の声が聞こえている地域の皆さんも、直にソルディアス帝国の支配下に入ることになるでしょう。最初に一つ言っておきますが、私には誰も逆らうことができません』
ーー絶対指揮ーー
念話を通じて、ゼノルスの魔法が広範囲に放たれる。同時に、念話を通じて多くの戸惑いの声が聞こえてくる。五千万人が突然金縛りに遭った状態だ。
『ルミナス城の方角に向けて、私を讃え、敬礼しなさい』
念話越しに、五千万人が一斉に敬礼する光景が目に浮かぶ。人々の意思はもはや関係なく、ゼノルスの意志だけが全てを支配している。
『皆さん、もはや私の許可なく体を動かすことさえできないでしょう。これからは、ソルディアス帝国を築くため、私が与えた作業を日々こなしてもらいます。何、心配は無用です。皆さんは眠っていても構いません。体が勝手に働きますから!アハハハハ!』
ゼノルスの狂気に満ちた笑い声が広がる。それは、悪夢そのものだった。
「最高です。全てが私の思い通りです。そうだ、ソルディアス帝国を支える新たなソルディバインも決めましたよ」
彼はさらに続ける。
「まず、城の外にいるエネルさん――卓越した戦闘センスを持ち、ネフティスさんをも凌ぐ実力者。次に、アリアさん――電磁気力の魔法に加えて、増幅能力は何にも代え難い貴重な力。グラヴィスさん――名実ともに英雄と呼べる存在。そして今は遠くにいるクロノアさん――無敗の騎士と称される貴方。最後に、私の知る限り最強の軍師であり、私の魔法の発信者――シン君」
ゼノルス嬉しくてたまらないという様子で続ける。
「ククク、どうです? この五名は間違いなく最強の布陣ではありませんか。想像するだけで笑いが込み上げてきます。もはや、全世界を手中に収められるという確信さえ抱けるほどに」
そこでゼノルスは笑みを止め、その表情を険しいものに変えた。そして、冷酷な声で告げる。
「しかし、残念ながらエリナさん――貴方は不要です。貴方の魔法は私の支配を打ち消してしまう。そのような存在が私の帝国にいてもらっては困るのです」
その言葉と同時に、彼は長身の剣を手に取り、冷ややかな微笑みを浮かべながら僕に差し出した。
「さあ、シン君。この剣でエリナを貫き、二度と浄化の魔法が使えないようにしてください」
今の僕の体はゼノルスの命令に逆らうことができない。手が勝手に剣を握りしめ、ゆっくりとエリナに向けられる。その瞬間、フォレスティアの未来予知が警鐘を鳴らす。
3秒後――僕は剣でエリナを貫く。
心臓が締めつけられるような焦りが押し寄せる。体は支配され、自分の意思で止めることはできない。だが、僕の思考だけはまだ自由だ。この最悪の結末を回避するために、僕は念話でアリアに語りかける。
『アリア! 増幅魔法を念話で送ってくれ!』
『分かった! すぐや!』
アリアが即座に応じ、増幅魔法が念話越しに流れ込む。その魔法を僕はすかさず遠くにいるクロノアに転送した。
ーー時間操作ーー
クロノアの時間操作魔法は対象者の時間の流れのみを十倍にする。さらに、アリアの魔法で百倍に増幅することにより、時間の流れは千倍となる。僕に付与されたこの魔法により、エリナが命を落とすまでの三秒は、三千秒に引き延ばされた。
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