12-2 城内の戦い
「いったん城の中に退避しよう」
僕はそう提案した。
ルミナス城の中に入れば、通路を通れる人数は限られる。外のように五千人による同時攻撃を受けることはないはずだ。それに、彼らの目的が太陽の祭壇にある以上、城そのものを破壊するような行動には出ないだろう。この動きは元々の計画の一部でもあった。
僕たちは教団員たちを引きつけるように城内へと誘導した。そして、防御を固めながら少しずつ後退し、教団員たちをさらに奥へと誘い込んでいった。この狭い通路での戦闘なら、一度に攻撃を仕掛けられる人数はせいぜい二十人程度に制限される。
ーー光の盾ーー
この程度の攻撃魔法であれば、アリアの増幅魔法で強化されたエリナの防御魔法で十分に防ぎ切ることができる。
ーー重力揺らぎーー
さらに、グラヴィスが冷静に手を上げ、狭い空間に強力な重力場を作り出し、敵の侵攻を押し返す。狭い通路での一進一退が続いた。
そこで、業を煮やしたゼノルスとネフティスがついに前に出てきた。
「この城は、もはや私の第二の家のようなもの。籠城したところで、地の利はこちらにもあるのですよ」
ゼノルスが冷淡な声で宣言しながら近付いてくる。
「みんな、ゼノルスに近づきすぎないで! 5メートル以内は絶対にダメだ。操られる!」
僕は未来予知で見た情報をすぐに仲間たちに伝えた。ゼノルスの魔法は、彼の近くにいる者を完全に意のままに操る力を持っている。僕たちは距離を保ちながら攻撃を続けたが、ネフティスの影がそれらをことごとく遮る。その一方で、教団員たちの攻撃も僕たちには通じない。しかし、ゼノルスの前進に対して、後退を続けるうちに、ついに太陽の祭壇の手前にある広間まで追い詰められてしまった。
「ここで……父上と母上は倒れました」
エリナが険しい表情で広間を見渡しながら、静かに言った。その声には、過去の悲劇を想起する苦しさが滲んでいた。
「エリナ姫、ここであなたと対峙した日のことが、今でも鮮明に思い出せますよ」
ゼノルスが薄笑いを浮かべながら、ゆっくりと前に進む。
「あの時も、あなたには強力な仲間がいましたね。ですが、すぐに私の仲間になってしまいました。そして今回も、間も無く同じことが起こるでしょう」
その言葉に、僕たち全員が息を飲んだ。ゼノルスにこれ以上近づかせることなく、何とかこの場を死守しなければならない――ここは城の最奥部。ここを突破されたらもう後はない。
だが、ゼノルスは僕たちの距離を保とうとする動きを見透かしているようだった。彼は冷静に、着実に僕たちに近づいてくる。距離を詰められれば、僕たちは確実に操られてしまう。それが分かっているからこそ、ゼノルスには一切の迷いなく、前進してくる。
しかし、前進を妨げようと放つ、エリナの光の魔法、エネルの魔力弾、アリアとアリスの電撃、グラヴィスの重力操作――いずれも絶対的な防壁であるネフティスの影には通用しない。
前回の戦いでは、仲間の数が多かったため、ネフティスが対処しきれないほどの連続攻撃を仕掛けることができた。しかし、今回はその人数が足りない。
「ネフティスの影を突破する方法が何があるはずだ……」
僕は自分に言い聞かせ、目の前の状況を冷静に見極めた。そして、ある可能性に思い至った――僕の得意とする『あれ』なら、この状況を打破できるかもしれない。
『エネル、グラヴィス、聞いてくれーー』
僕は念話で二人に素早く指示を出す。
「ごめんね、エリナ。大切なお城を少し壊すよ」
先にエリナに謝罪すると、彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「いいえ、大丈夫です。今は城よりも、未来を守る方が大切です」
その言葉に力をもらい、僕たちは動き出した。
ーー魔気波ーー
エネルが指示通りに魔力の波動を放ち、城壁の一部を破壊する。城壁は石でてきているため、崩れた壁からは巨大な石が取り出せる。それにグラヴィスが手を触れ、重さを操作する。
ーー重量消去ーー
グラヴィスの魔法により、大きな石は小石のように軽くなった。彼はその大石を僕に手渡してくれる。
「ありがとう。この大きさなら十分だ」
僕は手にした大石の狙いを定めるため、フォレスティアの未来予知に集中する。そう、これは僕の得意技、投石だ。但し、グラヴィスの魔法により、普段ならとても持てないような重さの石を投げることができる。フォレスティアの予知能力により、僕は何度も試行し、最適な投げ方を予測してその通りに投げる。軽くなった大石は簡単に遠くまで投げられるが、ネフティスの影に触れた瞬間、グラヴィスの魔法の効果が解除され、石は元の重さに戻る。しかし、飛行速度はそのまま直進する。
「くっ……物理攻撃か!」
大石の直撃を避けるため、ネフティスがわずかに後退する。その間に、エネルとグラヴィスが次々と大石を僕に渡してくれる。僕はフォレスティアのサポートを受けながら、次々と投石を繰り返した。あらゆる魔法を無効化するネフティスの影だが、物理攻撃は防ぐことができず、ゼノルスとネフティスとは、攻撃を受けるたびに後退せざるを得なくなった。
「小賢しい攻撃を……!」
ゼノルスが不快そうに顔を歪める。そして、冷たい声でネフティスに指示を出した。
「ネフティスさん、前と同じようにシン君の魔法を外部から遮断してしまいましょう」
すると、ネフティスの影がドーム状に大きく広がり始める。これは、外部との念話接続を遮断し、僕を無力化する影。前回の悪夢が頭を過ぎる。
グレードアップした投石でした。
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