12-1 ゼノルスとの最終決戦
ソルディアス教団の指導者ゼノルスが、教団員たちを率いて戻ってきた。それだけではない。彼はイグナリス王国の軍勢――かつて僕たちと共に戦った仲間たち――をも完全に操り、従えていた。
城を前にして教団の旗が無数にはためき、重苦しい威圧感が漂っている。その兵力は約五千。対するこちらはわずか五人。前の戦いの時のように、味方の兵団はどこにもいない。しかし、僕の隣には、一騎当千の仲間たちがいる。
「ここで……決着をつける」
僕はゼノルスの姿を睨みつけながら呟いた。その視線の先には、彼を守るように立つ最後のソルディバイン――ネフティス。その後ろには、操られたイグナリス王国の兵士たちが整列している。彼らの中には、オルト騎士団長の姿もある。かつて僕たちと共に戦い、この国を守るために剣を振るった仲間たちが、今はゼノルスの手に落ち、僕たちの敵となっている。
「イグナリス軍まで操られてるなんて……」
エリナが苦しげに呟いた。彼女の声には、悲しみと失望が混じっている。ゼノルスの策略によって、かつての盟友が敵に回るという残酷な現実が、僕たちの心に突き刺さっている。
僕たちはルミナス城から出て、ゼノルスとその軍勢に相対した。
「よもや、あの状況からこんな少人数でルミナス城を奪還してしまうとは……。君たちの執念には全く恐れ入ります」
ゼノルスの冷たい声が響き渡る。彼の薄い笑みは、冷酷さと余裕をこれ以上なく表現している。
「だが、どれだけ抗おうとも無駄なのです。最終的には、全てが私の味方になってしまうのだから」
その言葉には、圧倒的な自信が込められていた。
「シン君、ひとつ聞いてほしい話があるのです」
ゼノルスは僕を見据え、嬉しそうに語り出す。
「教団という形態は、もう卒業することにしました」
僕がその意味を測りかねていると、ゼノルスは満面の笑みで続けた。
「イグナリス王国を下した今、これからはルミナス王国とも併合した新たなる帝国――ソルディアス帝国を設立するのです。そして、私こそがその初代皇帝となる、ゼノルス・セクトール・ソルディアスです!」
僕は返す言葉もなかった。全国民を自分の意のままに操る新しい国を作ると言うのか。
ゼノルスはゆっくりとその手を挙げ、まるで指揮者のように兵士たちを動かし始めた。かつて僕たちの仲間だった彼らが、操り人形のように進軍を始める。
「ルミナス城はすでに私たちのものです。さあ、返してもらいましょうか」
彼の声には揺るぎない確信があった。
「できれば傷つけたくはない相手だ……まずは数を減らす」
ーー重力屈折ーー
グラヴィスが静かに手を敵に向けると、重力の向きが変わり、大地が傾き始める。
だが、その効果は敵軍を前に突然遮られた。
「無駄よ」
冷たい声が響き、ネフティスの周囲から影が蠢き、黒い波のように広がっていく。その影が教団員たちの前に立ちはだかり、グラヴィスの重力操作を無効化してしまった。
「ならば……!」
アリアとエネルが同時に動き出す。
ーー増幅の福音ーー
ーー魔気波ーー
アリアの魔法で百倍の威力に強化されたエネルの魔気波は、もはや対要塞兵器だった。視界を埋め尽くす極太の魔力の波動は、城さえも破壊できそうな威力を持って放たれ、轟音を伴って影に向かっていく。しかし、その攻撃も、ネフティスの影に触れると跡形もなく消え去ってしまった。
「くそっ……威力は桁外れにデカいはずだが、前と同じだ。何も通じない!」
エネルが拳を握りしめ、苛立ちを隠せず唸る。
「この影、まるで……底なしの虚無そのものです……」
エリナが息を呑み、戦慄した表情を浮かべる。ネフティスの影は、あらゆる魔法を無効化する。
「では、こちらからも行くとしましょう」
ゼノルスが冷たい笑みを浮かべながら手をゆっくりと挙げた。その瞬間、操られた兵士たちの中から、一斉に氷、炎、雷の魔法が放たれる。空気が凍りつき、燃え上がり、轟音と共に雷が弾ける。まるであらゆる大自然の災厄が僕たちに襲いかかっているようだった。
「!?」
教団員一人一人の魔法はそれほど強力ではない。だが、これは千人以上によるシンクロ攻撃だ。僕たちの視界は魔法の嵐に覆われる。
ーー増幅の福音ーー
ーー光の盾ーー
アリアの増幅魔法で百倍に強化されたエリナの光の盾が、僕たちを包み込むように展開される。その盾はまるで城壁のように巨大で厚い。だが、千人を超えるシンクロ魔法に対してはそれでも分が悪かった。魔法が命中するたびに、盾は大きく抉られ、瓦解していく。それでも教団員達から放たれる魔法は止むことがない。
「グラヴィス、アリア、頼む! なんとか凌いで!」
僕は二人に呼びかける。
「任せろ」
ーー増幅の福音ーー
ーー重力揺らぎーー
グラヴィスは冷静に答えると、強烈な重力場を生み出した。アリスの魔法による強化を受けた彼の重力操作は、放たれる魔法の軌道を次々に捻じ曲げていく。降り注ぐ教団の魔法は、強力な重力の影響でくるくる回転しながらあらぬ方向へと逸れていった。
「重力の影響は、あらゆるものに均一に働く」
グラヴィスの冷静な声が、頼もしさを感じさせる。
だが、攻撃の嵐を一度凌いだところで、その勢いが衰える気配は全くなく、次々と攻撃を繰り出してくる。もしこれが烏合の衆の五千人であれば、今の僕たちなら対処可能だろう。しかし、ゼノルスが指揮するこの軍勢は、一人一人が彼の魔力で結びつけられ、まるで一つの巨大な生命体のように連携し、動いている。ゼノルスにとって、彼らは仲間ではなく、自身の力を五千倍に増幅するための媒体なのだ。そしてネフティスという最強の盾も持っている。
このままでは、以前の戦いの悪夢が再び繰り返されてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
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