11-5 決戦準備
太陽の祭壇の調査を続けるうちに、少しずつ希望の光が見え始めていた。僕たちが持つ力――僕の念話の魔法、エリナの浄化魔法、エネルの魔力放出、アリアの増幅魔法、グラヴィスの重量操作、そして太陽の祭壇の力。その全てを組み合わせれば、太陽の危機を回避する方法を導き出せるかもしれない。
だが、まだいくつか足りないピースがある。その確認をするためにはもう少し時間が必要だ。
ふと視線を上げると、エリナが窓辺に立っていた。その表情は感慨深く、どこか遠くを見つめているようだった。
僕もそっとエリナの隣に立ち、彼女の視線を追った。窓から見える城下の光景――かつて繁栄を誇った街並みには、戦いの爪痕があちこちに残されていた。崩れた城壁、焦げた地面。美しかったであろう城の庭も荒れ果てている。
「まだ、全てが終わったわけではないのですが……」
エリナがぽつりと呟いた。
「ルミナス城を取り戻し、再びここに立てる日が来るなんて、夢のようです」
エリナの言葉は静かだったが、その声には胸の奥から湧き出るような深い感慨が滲んでいた。窓から見える城下の様子は、かつての栄光とは程遠い。それでも、この場所を再び自らの手に取り戻せたことは、彼女にとって何にも代えがたい喜びなのだろう。
「ゼノルスに奪われたものが多すぎて、それを思い出すたびに胸が痛みます……」
エリナはそっと目を伏せた。その表情には、王女としての責任と、失ったものへの悲しみが交差していた。
「でも、失われていたルミナス王家の誇りを取り戻すことができたこと……それが今は何よりも嬉しいです」
彼女の声は小さかったが、ゼノルスによって奪われた日々の悔しさと、それを取り戻した喜びが同時に響く。
「エリナ、ここまで来られたのは君の強い意志があったからだよ」
僕は静かに声をかけた。その言葉に、彼女はすぐに首を振った。
「いいえ、私一人では何もできませんでした。シン、そしてみんながいてくれたからこそ、ここまで来られたのです。本当に……ありがとう」
彼女のその言葉は僕たちの胸に深く染み渡るようだった。エリナの瞳に浮かぶ感謝の光は、僕たち全員の努力を真に肯定していた。
広間の中央で、エネルが腕を組み、軽く首を回しながら大きく息を吐いた。
「いやぁ、イグナリスからここまでの道のりは長かった。だか、この城を奪還できたことは大きいな。ゼノルスもこれには流石に慌ててるだろうぜ」
彼の言葉には少し余裕が感じられたが、アリアが広間の隅で戦いの後片付けをしながら、その声に応じる。
「そうやけど、気を抜いたらあかんよ。ゼノルスは簡単に諦めるような相手やない。それに、今回のことで余計に奴を刺激してもうたと思うし」
アリアの指摘に、僕も静かに頷いた。
「その通りだね。今回の勝利は確かに大きいけど、まだ終わりじゃない。ゼノルスがこの事態を知ったら、すぐに動き出すだろう」
そう、太陽の危機の対策を考えるだけでなく、僕たちはあの強敵ゼノルスの反撃にも備えなければならない。その言葉に応えるように、グラヴィスが一歩前に出た。
「ゼノルスとの戦いに備えるために、この城の構造を完全に把握しておこう。敵をどこに誘い込み、どう攻めるのがよいか、どこが弱点になりうるのか――それを徹底的に考える。時間はそう多くないはずだ」
彼の冷静で的確な指摘に、広間にいた全員が一斉に頷いた。僕も改めて気を引き締める。ゼノルスの知略や魔法の恐ろしさは計り知れない。だが、彼は前の戦いでいくつかの手札を見せている。予めその対策も考えておかなければならない。
「ありがとう、皆さん」
エリナが再び礼を述べた。その声には深い感謝だけでなく、これから訪れるであろうゼノルスとの再戦に向けた強い覚悟が込められていた。
「さあ、準備を始めよう」
僕がそう言うと、全員が静かに頷き、それぞれの役割に取り掛かった。
僕は念話を張り巡らせ、周囲を警戒する。ゼノルスの動きを探るために意識を集中させると、すぐにその存在を感じ取った。やはり、予想通りだった。
「近づいてきている……」
僕の言葉に、全員の動きが一瞬止まる。エネルがすぐに駆け寄ってきた。
「ゼノルスか?」
「ああ。本隊がこちらに向かっている。凄い数だ。あと数時間で、ここに到達する」
その言葉に、広間の空気が引き締まる。エリナが窓の外を見つめながら静かに口を開いた。
「お願いします。この城を、そしてルミナス王国を、私たちの手で守り抜きましょう」
彼女の言葉に、僕たちは全員が力強く頷いた。それぞれの顔に浮かぶ決意は明らかだった。
広間の大きな窓から、朝日の光がゆっくりと差し込み始める。城内を照らし出すその赤い光は、次の戦いがすぐそこに迫っていることを静かに告げているようだった。
11章も終わり、いよいよ最終決戦が始まります。
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