11-4 太陽の祭壇
僕たちが辿り着いた太陽の祭壇は、ルミナス王家が太陽神ソルへの祈りを捧げるために作り上げた神聖な場所だ。その場に足を踏み入れた瞬間、異世界に迷い込んだかのような静寂と荘厳な空気に包まれる。
広い空間は、天井から降り注ぐ細い光によって神秘的に照らされていた。その光は祭壇中央の大理石で作られた台座を淡く照らし、静けさの中で光の筋が揺れるたび、まるで空間そのものが息づいているかのように感じられた。
中央には、太陽の紋章が精巧に刻まれた巨大な円形の台座がある。紋章は複雑な幾何学模様を描き、天井から差し込む光を反射して、不規則な輝きを放っていた。台座を囲むように立ち並ぶ石柱には、古代文字で刻まれた祈りの言葉がびっしりと記されている。石柱一つ一つが、神聖な力を湛えているようだった。
「ここが、太陽の祭壇です」
エリナが感慨深げに呟く。彼女の視線は、かつてこの場所が象徴していた王家の栄光を見ているのかもしれない。
「かつて、ルミナス王家の者たちは、この場所で太陽神に祈りを捧げていました」
エリナが静かな声で説明する。その視線は、台座の中央に浮かぶ水晶へと向けられていた。透明な水晶のその中では、小さな光がまるで脈打つ心臓のように規則的に輝いている。
「そして、俺の調べによると……」
グラヴィスが説明を加える。
「祈りの力をこの祭壇を通じてソル――太陽に届けることで、見返りとして特別な力を得られるらしい。このことは、王家の中でも極秘だったようだ」
「ソルの力を得る……?」
その言葉に僕は問いかける。
「そうやなぁ、ゼノルスもよくここを使ってたで」
アリアが口を開いた。
「あいつがここで祈ると、なんや知らんけど、どんな話でもみんな信じてまうんや。まるで感動的な聖なる言葉みたいに聞こえるんやで」
その言葉を聞き、僕は確信した。ゼノルスがこの場所を占拠した理由は、太陽の祭壇を使い、自分の言葉をより人々に浸透させ、操る力を得るためだろう。
「エリナ、僕も太陽に祈りを捧げてみてもいいかな?」
僕の問いに、エリナは一瞬目を閉じてから、力強く頷いた。
「もちろんです。ルミナス王家の血を引く者として、あなたにはその資格があると認めます」
僕は静かに水晶へと手をかざし、目を閉じて祈りを捧げた。そして、魔力をゆっくりと水晶に流れ込んでみる。そして、僕の念話の魔法が装置を通じて発動されると、感覚が一気に変わった。
突然、大陸中の人々と同時に念話で繋がった感覚が得られる。その感覚に胸が高鳴り、思わず息を飲む。
「すごい……この装置はまさに魔法技術の結晶だ」
僕は太陽の祭壇の機能を体感しながら、感嘆の声を漏らした。
「ルミナス城を象徴する上空の巨大な魔法陣は、この太陽の祭壇と直接つながっているらしい」
グラヴィスがそう言いながら、視線を巡らせる。僕たちは時間をかけて祭壇の仕組みを調査した。
どうやら、上空に浮かぶ魔法陣には二つの主要な役割があることが分かった。一つ目は、太陽の力を集めて純粋な魔力に変換すること。二つ目は、祭壇の水晶から流し込まれた魔法を増幅し、広範囲に発信することだ。この仕組みは、複数の装置の組み合わせによって成り立っている。
「これを使えば、例えば太陽の膨張から逃れるために、地球の軌道を変えられるくらいのエネルギーを放出することもできるかもしれない……」
僕はふとそんな可能性を考えた。実際に行動に移す前に、フォレスティアの未来予知を使ってシミュレーションを試みることにした。
ーー念話接続ーー フォレスティア
『シン、よく考えたね。でもね、この方法では、まだ力が全然足りないみたい……』
フォレスティアの幼い声が念話を通じて響く。シミュレーションの結果が共有されるが、予想通りではあるが、どうやら現在の力では目標を達成するには遠いようだ。
『昔のソルなら、もっと力を引き出せたかもしれないけど、今のソルは弱りすぎていて、大きな力を得ることができないみたい……』
フォレスティアの言葉に僕は考え込んだ。変換装置から生み出されるのは純粋な魔力だが、現在の消滅寸前のソルではその供給量が限られている。増幅装置で力を引き出すには、十分な魔力源がなければ不可能だ。実際、太陽の神殿による魔法の増幅効果は、十倍以上ではあるが、アリアの百倍の強化効果には及んでいなさそうだ。
ーーもし、増幅装置に僕たち自身の魔力を直接注ぎ込んだらどうなるだろう?
ふと、僕は思い立つ。僕の念話の魔法は、接続した相手の魔力を直接取り出せる特性を持っている。魔力をそのまま取り出しても、それは電気と一緒で何か別の形に変えない限り活用することはできず、すぐに霧散してしまう。だか、それを祭壇の増幅装置に直接送り込めば、何か新しい可能性が見えるかもしれない。
その一筋の光明に希望を抱き、僕は太陽の祭壇の調査と実験を進めた。
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