11-3 力量の差
だが、グラヴィスの冷静さは微塵も揺らがなかった。彼はオクタヴィウスが先ほど放った岩石に目を向けると、それらを軽々と拾い上げ、次々と溶岩の龍に向かって投げつけた。
グラヴィスの手を離れた瞬間、岩石は元の重さを取り戻し、龍の灼熱の体に直撃する。溶岩は飛び散り、岩石が触れた部分から冷え固まり始め、龍の体は次第に小さくなり、動きが鈍っていった。
「遅い!」
グラヴィスはその隙を逃さず、鋭い動きでオクタヴィウスとの距離を詰める。オクタヴィウスは動じることもなく、すかさず全身に岩を纏い始める。大地から引き寄せた無数の岩が彼の体を覆い、圧縮され、瞬く間に分厚い石の鎧を形成した。その姿は、まるで巨大な岩の巨人のようだ。
「俺の岩鎧はダイヤモンド並みの硬さだ! どんな攻撃も通じるわけがねぇ!」
オクタヴィウスは勝ち誇ったように笑い、グラヴィスに挑発的な視線を向けた。その笑みには、自分の力への絶対的な自信が滲んでいる。しかし、グラヴィスは無言のまま、手を伸ばしてオクタヴィウスの岩鎧に指先を触れた。
ーー重量増幅ーー
途端に、オクタヴィウスの体に纏われていた岩鎧の重さが、一気に千倍まで増幅された。
「ぬおぉぉぉぉ……!」
オクタヴィウスの叫びが戦場に響き渡る。岩鎧の途方もない重さに耐えられず、膝をつき、拳を地面に叩きつけるも、そこから動けなくなってしまった。彼の大地を操る力も、今は自重を支えるだけで精一杯のようだ。
鎧の重さにより、オクタヴィウスの体は、徐々に地面へと沈み込み始め、やがて地中深くに埋まっていった。
「終わりだな」
グラヴィスは冷徹な声で呟き、オクタヴィウスを見下ろしていた。大地を司る力を持つ者が、大地に飲み込まれて敗れる――皮肉な結末だった。
オクタヴィウスの強さがどれほどのものか、僕たちは正確に見極められていない。だが、彼はソルディバインの一人。その実力は、かつて僕がイグナリス王国の軍と仲間の力を借りてようやく倒せた敵と同等のはずだ。それをグラヴィスはたった一人で、しかも圧倒的な力をもって打ち倒してしまった。彼の強さは、やはり別格だった。
だが、グラヴィスがオクタヴィウスと激闘を繰り広げている間、僕たちも手をこまねいていたわけではない。城内で立ちはだかる教団員たちを、着実に制圧していった。
エネルは、かつての同僚であるキースとトレントを圧倒していた。キースは切り裂く真空波を無数に放ち、トレントは植物を自在に動かして攻撃を仕掛けてくる。二人の連携は見事で、一瞬たりとも油断ができないほどだった。しかし、エネルの身体能力はさらに上を行った。彼は真空波を軽々と回避し、飛び出す蔓や根も魔力の弾で次々に粉砕してしまう。
「おかしい! 俺たちとエネルの力は均衡していたはずだ。二人がかりでなぜ勝てない!?」
キースが苛立たしげに叫ぶ。しかし、エネルは冷静に笑みを浮かべながら応じた。
「悪いな、これが死線をくぐり抜けた数の差ってやつだ」
その言葉と共に、エネルの強烈な蹴りがキースの腹部を捉え、彼を大きく吹き飛ばした。トレントも続けざまに地面へと叩きつけられる。
一方、他の教団員たちも僕たちの前では敵ではなかった。エリナの光の魔法が放たれ、敵の視界を奪うと同時に混乱を引き起こす。その隙にアリアが電撃魔法で強烈な攻撃を仕掛け、教団員たちは次々と倒れていく。僕も未来予測を活用し、仲間たちに適切な指示を与え続けた。
一部強敵もいたが、僕たちの連携は完璧で、次々と敵を押し返していった。
やがて、グラヴィスがオクタヴィウスを打ち倒したことが決定的になると、残っていた教団員たちは一斉に退却を始めた。盲目的な信仰に支えられていた彼らも、さすがに圧倒的な力の差を思い知り、戦意を失ったのだろう。
「さて、埋まったオクタヴィウスをどうしようか……」
僕たちは地面に沈んでいるオクタヴィウスを見下ろした。正直、彼をどうするべきか迷った。他のソルディバインと同じようにエリナの魔法を使って洗脳を解き、仲間にするべきなのか。しかし、彼の荒々しい性格と、その無骨な戦いぶりを思い出し、僕は一抹の不安を覚えた。
そこでフォレスティアに念話で尋ねてみた。
『彼を仲間にした方がいいかな?』
フォレスティアから返ってきた声は、いつもの柔らかい響きを保ちながらも、少しだけ慎重だった。
『彼は……僕たちの目的のためには、要らなそうだね。これ以上、無理に関わらなくてもいいかも』
なるほど。彼を仲間に加えることが必ずしも最善の道ではないということか。僕たちはそのままオクタヴィウスを地面に沈ませたまま、彼の監視を続けることにした。
そして、僕たちは城の最上階へと進み、ついに目指していた太陽の祭壇に辿り着いた。長い戦いの末に到達したその場所には、厳かな雰囲気が漂い、空気そのものが重く感じられた。
さて、ソルディアス教団も執着するこの場所で、何が得られるのだろうか。
僕たちは、期待と不安を胸に太陽の祭壇の前に立った。
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