10-4 再会
ーー増幅の福音ーー
「うわああああっ!」
莫大な力が体の隅々にまでみなぎる感覚。圧倒的なエネルギーが僕を包み込み、100倍の増幅という言葉に偽りがないことが実感できる。
これが……覚醒したアリアの魔法……
胸が熱く脈打ち、視界も鮮やかに広がっていく。この状態なら、一体どれだけのことができるのだろうか――。
僕はまず、フォレスティアに念話を繋げようと意識を集中させた。しかし……やはりうまくいかない。相変わらず念話の接続は安定せず、声も届かない。ここまで増幅してもらっても駄目なのか……
その時、ルゼント公爵の言葉が脳裏をよぎった。
ーー急に大きな力を得たがために、細かい制御ができなくなってしまう。
確かに、思い当たる節はある。先の戦いでは、僕は2000人、敵味方を合わせれば5000人規模の人々と念話を繋げていた。最初はそれを維持するだけでも必死だったが、戦いが進むうちに、気づけばそれが『普通』になっており、さらに広げられるのではないかという感触もあった。何千人もの意思や感情、情報が自然に頭の中を流れ込むのを、無意識に処理していたのだ。
もしかして、アリアの魔法で100倍に増幅された今の自分なら……。
「どこまでやれるか試してみるか!」
僕は目を閉じ、思い切って全ての魔力を解放し、念話の範囲を可能な限り広げた。十万人、百万人……そして千万人――。
驚くべきことに、ルミナス王国、さらには隣国イグナリス王国の隅々に至るまで、そこに生きる全ての人々の存在が心に浮かび上がった。彼ら一人一人の感情や意志が、波のように押し寄せてくる。
「成功……した……!」
一千万人との念話接続――この規模で可能だなんて、自分でも信じがたい。
しかし歓喜に浸る間もなく、気づいたことがあった。それは、大人数に繋がれる一方で、たった一人への念話が難しくなっているという事実だ。個別の声に集中しようとすると焦点が定まらない。
僕はもう一度目を閉じ、心を深く沈めた。
今度は念話で接続した一人ひとりに丁寧に集中していく。近くにはアリア、エリナ、エネル、グラヴィス、レティ、ルゼント公爵、そしてパーティの参加者たち――それから、アリスの気配があった。
「アリス!?」
僕は思わず驚きの声を上げた。
「なんや、シン君。死んだアリスの名前を叫んで……」
間違いかと思ったが、確かにアリスは存在している。その場所は――アリアの中だった。
信じがたい事実だが、僕はアリアの中のアリスに念話で語りかけてみた。
『アリス、そこにいるのか?』
『……見つかってもうたな。うち、ここにおる』
少しバツが悪そうに、アリスから念話で返事が返ってきた。
「アリア、信じられないと思うけど、君の中にアリスがいる。精神論的な話じゃなく、本当にいる。念話で話せる。君にも繋げるよ」
「な、なんやて!?」
僕はアリアとアリスを念話で中継して、三者で話せるようにした。
『姉ちゃん、元気か?』
『アリスなんやな? なんであたしの中に入っとるんや?』
『うちにもよく分からんけど、転生の神様ってのが出てきて、転生させてくれる言うたんや。でも、うち、姉ちゃんと一緒やないと嫌や!って全力でゴネてゴネて、ゴネまくった。そしたら、こうなった』
『なっ……』
つまり、これは転生の失敗ケースなのか?
『まあ、うちは姉ちゃんの中にいられて満足してる。自由に動けんけど……たまに姉ちゃんが寝てる間に体を借りて歩き回ったりしてたけどな』
『ちょっ……それはアリス、色々と問題があるやろ?』
念話で普段通りの調子で会話する二人。困惑しながらも、アリアは本当に嬉しそうだった。
『ああ、あたしが同時に二人まで増幅できるようになった理由、分かった気がする。中にアリスがおるからやな』
『たぶん、そう。うちの魔力、さっき姉ちゃん使ってた。そしてな、姉ちゃん、多分うちの電磁気の魔法も今なら使えると思うで』
『まさか、そんなことができたら凄いやろ……あ、できたわ』
アリアはすぐに電撃を操ることができた。
つまり、アリアとアリスが合体して、他者を100倍まで強化できるようになった上に、電磁気も操れるようになったということだ。もはやこれ、あまりに凄すぎて新しい英雄がまた一人爆誕してしまったのではないだろうか。
『それにしても、アリスとまた話せるのは嬉しいけど、なんとか分離できんやろか』
『うち、このままでええ』
『いや、ずっとこのままってわけにはなぁ……ほれ、プライバシー的なこととかあるやろ?』
『なんや姉ちゃん、うちに見られたらアカンことでもするんか?』
……仲良し姉妹のことはひとまずこのままにしておいて、念話を取り戻した僕は彼女との接続を試みた。フォレスティアだ。
ーー念話接続ーー フォレスティア!
『シン、ひさしぶりだね!』
その幼く柔らかな声が耳に届いた瞬間、胸の奥に温かな感情が広がった。久しぶりに彼女と話せる喜びが、じわじわとこみ上げてくる。
『シン、すごいね。大きな問題を乗り越えたんでしょ? えらいよ!』
その言葉に少し安心したが、次の瞬間、フォレスティアの声が緊張したものへと変わった。
『でもね、シン……言わなきゃいけないことがあるの。今日、こうして話せて本当に良かったよ……』
フォレスティアが悲しそうに続ける。次の言葉は衝撃的だった。
『ソルはね、あと3日くらいで……死んじゃうの……』
あと3日……その言葉に僕は数秒言葉を失ってしまった。確かに、昨日今日などは、季節は真冬にも関わらず、灼熱の気温となっており、日中はもう外に出られないような異常気象だ。確かに、もう時間は残されていないのだろう。
『ソルはね、もうダメなの。一気に大きくなった後、燃え尽きて、消えちゃうんだ。何かしないと、このままじゃ……!』
ついに、太陽が――世界の終わりが現実として迫ってくる。
『僕たちに、何ができる?』
『だいじょうぶだよ、シン! もう、必要な仲間はぜんぶ揃ってるから。あとは、みんなの力を合われればいいんだよ!』
幼く聞こえる彼女の声には、不思議と強い自信が込められていた。その言葉が、まだ迷いを抱えていた僕を引っ張り上げる。
……何もしなければ、世界は終わる。それなら、まだ確証はないけど、やるしかない。
10章終わり、世界の終わりも近づきました。
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