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8-4 絶望からの離脱

 ゼノルスが放ったシンクロ魔法がアリアに迫る。その前に立ちはだかったのは妹のアリスだった。


「姉ちゃんは……絶対にやらせへん!」


 アリスは鋭い目つきで敵を睨みつけ、周囲の金属片を素早く寄せ集めて巨大な盾を作り上げた。アリアも即座にアリスに強化魔法を注ぎ、さらに守りを固める。だが、数百名の教団員たちの魔法が束ねられた一撃は、強化された金属の盾さえも貫通した。


「っ……!」


 魔力の衝撃がアリスの体を貫き、彼女は苦痛に顔を歪めながらその場に崩れ落ちた。


「アリス!?」


 アリアが駆け寄り、信じられないというように妹を抱き上げた。流れ出る夥しい血から、アリスの傷があまりに深いことを知る。彼女の手は震え、声もかすれがちに呟く。


「アリス……ごめんな……お前を守るのはうちの役目やったのに……」


 その姿を目の当たりにして、僕はただ立ち尽くすことしかできなかった。エリナもエネルも、言葉を失っていた。


 もはや僕たちの連携は完全に崩壊しており、僕の策も尽きている。敵の猛攻は止むことなく続いており、戦況はもう絶望的だった。


 ゼノルスはアリアを仕留め損ねたものの、僕たちの様子を冷静に観察し、戦意が途絶えたことを見抜いたのだろう。彼はゆっくりと右手を挙げ、全ての教団員の攻撃を停止させた。

 そして、静寂の中で、力強く語り始める。


「皆さん、落ち着いてください。我々は無意味に誰かを傷つけたいわけではありません。この混乱の中においても、真実を見失ってはなりません」


 戦場の視線が一斉にゼノルスへと向かう中、彼は穏やかな笑みを浮かべ続け、静かに言葉を続けた。


「実は、この場にいる者の中に、ソルを蝕んでいる張本人がいます」


 周囲の空気が一層重くなる。ゼノルスはその緊張を楽しむかのように、一瞬の間を置き、続けた。


「――その人物とは、シン君です」


 全身が冷たくなる感覚が襲った。

 完全な虚言だか、それでもゼノルスの言葉には、強烈な魔力が込められていた。まるで、その言葉自体が真実であるかのように、周囲の人々の心に浸透していくのがわかる。


「そんなことは絶対にない! 僕がそんなことをするわけがない!」


 僕は必死に叫んだ。しかし、ゼノルスは冷静で揺るぎない口調で語り続ける。


「皆さん、彼の力を思い出してください。なぜ彼があれほどの力を持つことができたのでしょう? それは、彼がソルの力を奪っているからです。そうでなければ説明がつきません」


 周囲の教団員たちだけでなく、イグナリス軍の兵士たちの心にも疑念が広がっていくのが感じられた。


「確かに、シン様の力は異常だった……」


 焦燥感が胸の奥に広がり、僕は急速に追い詰められていく。


「そんなの嘘だ! 僕が――」


 叫んでも、ゼノルスの言葉に対抗できるはずもない。彼の力は、人々の心そのものを操る魔法なのだ。


「彼が、ソルの力を奪った証拠もここにあります。ご覧なさい、私たちの影で太陽の光を遮断した結果――今、彼はまるで何もできなくなっているではありませんか」


 ゼノルスの言葉に、合わせて、周囲の教団員たちも頷く。


「そう言われてみれば……」

「シン様、本当にそんなことを……?」


 ーー偽りの真実(デセプティオ)ーー


 偽りであってもわずかな疑念を何百倍にも増幅させるゼノルスの魔法。イグナリス王国の兵士たちの心も揺らぎ、彼らの表情には失望が浮かんでいた。


「シン君、あなたの罪は明らかです。何か言いたいことはありませんか?」


 ゼノルスは冷酷な笑みを浮かべ、僕に最後の一押しを加えようとしていた。


 このままでは終わらない――!


 僕が今できる唯一のこと、念話でゼノルスに接続し、最悪な記憶のイメージを送りつけること。彼の思考を乱し、この場を打開するための一手を探す。


 ーー念話接続(マインドリンク)ーーゼノルス!


 だが、その瞬間――。

 逆にゼノルスの魔力が僕の心に入り込んできた。


『なっ……!?』


 冷たい笑い声が心の中に響き渡り、ゼノルスが僕の意識を支配し始める。念話を逆手に取られ、僕の精神が侵食されていく感覚。


『さて、シン君。あなたの本性をみんなに見せてあげなさい』


 ーー完全指揮(マスターオーダー)ーー


 僕の口が僕の意思とは関係なく、勝手に動き始める。


「……ナ、ナンテコトヲ……」


 体も全く動かせない……


「コンナ形デ計画ガ台無シニナルナンテ……セッカクいぐなりす王国ニ取リ入リ、そるノチカラヲ手ニ入レヨウトシテイタノニ……!」


 その言葉が、仲間たちに決定的な絶望を与えていく。


「シン様が……裏切り者だなんて……」


 オルト騎士団長も絶望の表情で僕を見つめていた。ゼノルスの冷たい笑みは、勝利の確信に満ちている。


「皆さん、この男を救いましょう。我々の魔法で浄化するのです」


 ゼノルスの指示に従い、教団員たちが一斉に魔法を僕に向けて放とうとする。


 僕は完全に追い詰められていた。


 その時、運命を分けたのは、エネルの機転だった。


「もうここから離れるぞ! シンを救わなきゃ、全滅だ! アリア、今すぐ俺を強化してくれ!」


 アリアはすぐにエネルの言葉に応じ、彼の身体に強化魔法を施した。エネルの肉体に宿るエネルギーが一気に活性化する。


「みんな、俺の足でも肩でもどこでもいい、しっかり捕まれ!」


 アリアとエリナはエネルに掴まり、エネルは片手でアリスを抱き抱え、もう片方の手で強化された魔気波(マギハ)を放出、その反動で僕に急接近した。そのまま僕の体に体当たりすると、放出している魔気波(マギハ)を全開にし、凄まじい速度で宙に舞い上がった。


 風が唸り、空気が裂けるような感覚とともに、塊となって僕たちは飛行した。この離脱はまさに一瞬の出来事で、教団員たちはその動きを見切る間もなかった。瞬く間にネフティスの影の境界に到達する。そして、彼はそのまま影を突き抜け、僕たちを闇の外へと引き出した。


 エネルは止まらない。影の境界を抜けた直後に空中で鋭く旋回し、魔気波(マギハ)を別方向に噴射して、軌道を急転換した。僕たちはそのまま一気に戦場から離脱した。


 その一瞬の出来事に、地上では、ゼノルスが忌々しそうに空を睨みつけていた。その表情には、またもや計画が狂わされた者の苛立ちが滲んでいる。


「ネフティスさん、すぐに影を解除してください」


 しかし、ネフティスが影を解除したときには、僕たちの姿はもうどこにもなかった。


 ゼノルスは口元を歪め、不快そうに低く呟く。


「なんというしぶとい、面倒な連中でしょう……しかし、あなたたちの居場所はもうどこにもありませんよ」

なろうテンプレ無視です。


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― 新着の感想 ―
ゼノルスさんも詰めが甘かったですね。仕留めるなら一気呵成にいかないと。集団と集団との戦いのうえ、メンタルを操る同士なので不思議な戦いですね。某ジャ◯ンプ漫画を思い出しました。今回もとても面白かったです…
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