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8-2 ゼノルスとネフティス

「よくぞここまでの力を付けられましたね。エリナ姫、そしてシン君」


 ゼノルスの言葉が響くと同時に、戦場の空気が一変した。彼の年齢は30歳から40歳くらいだろうか。長身で銀髪、小さなメガネをかけ、黒と金の精緻な模様のローブを纏い、穏やかな微笑を浮かべながら悠然と立つその姿は、支配者の風格に満ちていた。彼のローブの漆黒はまるで夜の闇そのもので、金色の縁取りが威厳を引き立てている。細められた目元には、穏やかな微笑とともに深い計算がうかがえる。


「しかし同志の皆さん、恐れることはありません。ソルのご加護は私たちと共にある。いかなる敵も、我々を止めることはできないのです!」


 ゼノルスの言葉は呪文のように人々の心を引き込む。彼の穏やかな微笑みと同時に放たれた言葉は、教団員たちを信仰心で満たし、その場の空気が一層張り詰めるのがわかった。


 まずい、このままゼノルスを近付かせれば、致命的な何かが起こる……これはまだ予知ではないが、僕は本能でそれを感じ取った。その瞬間、僕のこの感情を察したかのように、エネルがゼノルスに向けて強化された魔力の波動を放つ。


「速攻で終わりだ!」


 強烈なエネルギーがゼノルスを直撃するかと思われたその瞬間、彼の隣にいた影のようなものがふっと動いた。それは、漆黒のローブに身を包んだ女性で、自身の影のようなものを伸ばしてゼノルスの前に立ちはだかった。

 そして、エネルの放った魔力の波動がその影に触れた瞬間、吸い込まれるように消えていった。


「くそっ、ネフティスめ……」


 エネルが忌々しげに呟く。


「あいつはソルディバインの一人、ネフティスだ。直接攻撃するのは見たことがないが、あの影はあらゆる魔法を遮る力を持っている」


 彼女もあのソルディバインの一人……エネルの放つ強大な魔力をも容易く吸い取ってしまうとは、恐るべき存在だ。戦場に立つネフティスはまだ一言も発さないが、その存在が教団員たちをさらに昂ぶらせるのが見て取れた。


「さあ、私たちの番です。同志の皆さん、私に力を委ねて下さい」


 ゼノルスは落ち着いた声で言い、ゆっくりと右手をかざした。すると、教団員たちがそれに呼応するかのように一斉に魔法の準備に入った。まるで超一流のオーケストラが指揮者に合わせるかのような、一糸乱れない動きだ。そのあまりに統一された動作は、訓練などではなく、ゼノルスが教団員たちの意識を操り、一つの生命体のように動かしているように思える。僕の背筋が冷たくなるのを感じる。


『結界の強化!』


 僕はすぐさま念話でアリアに指示し、強化魔法を結界術師に送り込んで強化させた。


 ヴォウウウム!


 直後に放たれる、数百名の教団員によるシンクロ魔法。それはまさに桁外れの威力だった。音圧だけで吹き飛ばされそうなほどだ。アリアの魔法で強化された防御結界も、その圧倒的な威力に耐えきれず、次々と砕けていく。残った魔法の一部が結界を突き破り、こちらの部隊へと襲いかかる。

 結界を強化するだけでは耐えられない。

 アリアの魔法は他者の力を増幅するが、十倍程度が限界だ。一方でゼノルスは、数百人分の魔力をひとつに纏め上げ、圧倒的な火力に変えて打ち出してくる。こちらはイグナリスの精鋭とはいえ、これだけの数量の差は埋められない。


 この場にいる全員が、その魔法の威力に息を呑んだ。もし次に同じような攻撃が来れば、防ぎきるのは難しい。焦りが戦場に漂う中、僕はすかさず指示を飛ばす。


『全員、波状攻撃で応戦する!』


 ゼノルスが全軍を一つの意志で操っているとすれば、こちらはそれを超える手数で対応する。僕はアリアの強化を絶えず切り替えながら、それぞれの仲間に指示を送り続け、教団に強化魔法の雨を降らせる。


 しかし、ゼノルスとネフティスの連携はあまりにも完璧だった。ネフティスの影が闇のように滑らかに戦場を駆け、僕たちの攻撃のほとんどを前線で遮り、無力化する。


「なんて厄介な…!」


 圧倒的な火力を誇るゼノルスと、どんな攻撃でも遮るネフティスの防御力。ふたりの役割は明確で、あまりに強力な連携だ。ゼノルスは、再び穏やかな笑みを浮かべて手をゆっくりと振り上げる。


「では、これはどうでしょうか?」


 その手が振り下ろされた瞬間、教団員たちは再び一斉に魔法を放った。だが、今度はその攻撃は、こちらの仲間一人一人に正確に狙いを定めていた。まるでそれぞれの命を狙い澄ましたかのように。


 くそっ……全員に同時!?


 アリアの強化は一度に一人だけにしか適用できない。敵の攻撃に少しでもタイミングのずれがあれば、僕が強化対象を高速に切り替えて対応できるが、ここまで完璧に揃えられた一斉攻撃には対処しきれない。僕は試行を繰り返し、最善の手段として強化されたエネルの魔力波で前方を一掃させ、さらに各魔導士たちに防御結界を張らせるしかなかった。それでも防ぎ切ることはできず、仲間達への被害が広がっていく。


「まだだ……まだ何か手があるはず……」


 僕はフォレスティアの予知と、クロノアの時間操作を最大限駆使し、敵の攻撃を読みつつ、有効な一手を考える。

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― 新着の感想 ―
シン君自体は凡庸であるという弱みがモロに出ましたね。敵が何かして手の内を晒してくれないと対応出来ない人なので、最初にある程度食らうのですよね。それがどう出てしまうのか。続きも楽しみです。
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