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7-1 指導者の決断

 ルミナス城の太陽の神殿。柔らかな水晶の光の揺らめきが祭壇を照らし、その光の中でソルディアス教の指導者、ゼノルスは微笑んでいた。しかし、その穏やかな表情の裏で、焦りが心を掻き乱していた。


 ゼノルスの魔法は、人間の心に入り込み、意のままに操る力を持つ。目の前にいる者なら本人の意思を無視して完全に、離れていても声が届く範囲ならその影響を及ぼすことができる。そして言葉がより説得力を増すほど、その支配力も増大する。彼はこの力を使い、太陽の異変による不安に付け込んで多くの人々を教団に引き込み、教団の支配範囲を広げてきた。


 だが今、ゼノルスは初めて予期せぬ障壁に直面していた。まだ未熟な力だと見くびっていたルミナス王国の姫が教団の手を逃れ、イグナリス王国に保護されただけでなく、ソルディバインの半数以上を寝返らせ、味方につけてしまっている。そして何より、あの謎の男シン――彼の存在が事態をより複雑にしていた。


 ルミナス王家に伝わる浄化の魔法は、ゼノルスの支配力を打ち消す。そのため、まずルミナス王家を滅ぼすことを優先してきた。しかし、生き残った王女が、これほどまでの力を秘めていたとは……


「エリナ……そしてシン。彼らは、思っていた以上に厄介な存在のようです」


 ゼノルスはあくまで穏やかに、目の前に控えるネフティスとオクタヴィスに語りかけた。その声は静かで威厳に満ちていたが、その内心は激しい苛立ちで満たされている。

 今まで、誰一人として彼に逆らう者などいなかった。自分の力は、一国の王でさえも、容易に手駒にすることができる。すべてが思い通りに進んでいたはずのこの計画の中で、エリナとシンという存在が大きな誤算となっている。


「確かに、奴らはこの短期間で急速に力をつけている」


 冷たく、感情のない機械のような声で答えたのはソルディバインの一人、ネフティス。彼女は常にゼノルスの側に従い、彼を守っている。彼女の目は、冷たく静かな闇をまとっている。


「これ以上彼らを放置しておけば、我々の計画は崩れ去るかもしれません……もはや事態は一刻を争います」


 ゼノルスは意を決したように頷き、続けた。


「そう、今こそ我々自らが動く時です。ネフティス、私と共に進軍しましょう。教団員の大半を率い、イグナリス王国を制圧するのです。元々先の計画には入っていましたが、その時期を早めざるを得ません」


 ゼノルスは、厳かに宣言する。


「ルミナス王国を制圧した今、次にイグナリスを手に入れましょう。私たちの障害を完全に排除するために」


「仰せの通りに、ゼノルス様」


 ネフティスは即座に返答した。その声には迷いがない。


「私の影がある限り、何者の攻撃もゼノルス様には届かないでしょう」


 彼女の冷たくも確信に満ちた言葉に、ゼノルスは満足げに頷く。だが、その時、低くうなるような声が響いた。


「おい、俺を忘れちゃいないか?」


 巨体を揺らしながら、残るもう一人のソルディバイン、オクタヴィスが前に出て拳を鳴らす。その力に呼応かのように大地が微かに揺れた。


「俺の魔法で奴らなんて一瞬で潰してやる。ゼノルス、俺にも出番をくれよ」


 その屈強な体格と魔法の破壊力には確かに並外れたものがある。しかし、ゼノルスは静かに首を振った。


「オクタヴィスさん、あなたにはこのルミナス城を守ってもらわなければなりません。ここ、太陽の祭壇は我々の計画の要。失うわけにはいかないのです。あなたが守るべき場所はここです」


 ゼノルスが心の中で本当に危惧していたのは、オクタヴィスがエリナたちと対峙することで、さらにソルディバインが減ってしまうのでないか、ということだった。それに彼の短絡的な性格にはやや不安もある。


 オクタヴィスは不満げに拳を握り締めたが、やがて納得したようにため息をつく。


「……仕方ねぇな。ま、任せておけ。ここを守るのが俺の仕事だ。だが、奴らがここに攻め込んでくるなら、その時は俺が必ず仕留めてやるさ」


 ゼノルスは満足げに微笑み、静かに祭壇の前へと進む。彼は太陽の光に手をかざし、その光をまるで吸い取るかのように祈りを捧げた。


『この世界のすべてを、必ず我が手で支配する……』


 その瞳には冷たい輝きが宿り、絶対的な支配者としての果てしない野心が見え隠れしていた。

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― 新着の感想 ―
シンとゼノルスの戦いはさながら将棋のようで他の登場人物たちは、さながら将棋の駒のようですね。手駒がどっちに転がるかみたいな様相を呈しているように、この場面で感じました。今回もとても面白かったです。
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