6-5 魔法の転送
雷鳴のごとく轟く電撃が空間を切り裂き、無数の金属片が砂嵐のように飛び交う。その金属片同士がぶつかるたび、放電が網目状に広がり、全方位から僕たちを締めつけるかのように迫ってきた。イグナリス軍の魔導士たちは必死に多重結界を張り、エネルは空中の金属片を次々と粉砕しているが、その破片はさらに細かい金属片となり、空間を覆い尽くしそうだ。僕たちに残された時間は少ない。
僕はなおも、アリアに向けて説得を続けた。
『ルミナス王国は太陽の異変の原因なんかじゃない。王国を滅ぼしても、太陽は何も変わらなかった。むしろ、異変はますます加速しているんだ』
アリアは少し黙った後、小さく呟く。
『まあ……確かに、今のところ変わってないなぁ……』
僕はさらに言葉を重ねる。
『ゼノルスはただ、理不尽に多くの人を不幸にしている。アリア、本当にこれからも、彼の言う通りに他の国を滅ぼしていくつもりなのか?』
アリアの瞳が揺れた。
『言われてみれば、ほんまにこれでええんやろか……』
いいぞ。彼女の自信が少しずつ揺らぎ始めたのを感じて、僕は手ごたえを感じた。彼女の心の中で何かが確実に変わりつつある。
実は、僕はエリナの浄化の魔法を、アリアとの念話を通じてゆっくりと彼女に転送していたのだ。僕の念話の魔法には、接続した相手の魔法を引き出す力がある。これまでは引き出した効果を自分に適用していたが、今回はその魔法を別の相手に届ける、つまり転送するという新しい試みだ。エリナの浄化の魔法が念話経由でアリアに届けば、彼女の心に巣食う闇を晴らせるかもしれない。
『アリア、ゼノルスのやり方は間違ってる。彼は君たちを操り、自分の目的のために利用しているだけだ。アリスのことを本当に想うなら、彼女の暴走を止めて、彼女を解放してあげてほしい』
『……そうなんかなぁ……』
アリアの心は大きく揺れ始めていた。その一方で、アリスの電撃はさらに猛威を振るい、多重結界ももう最後の一枚を残し破壊されている。
「シン、もう限界だ。俺の魔力が持たない……!」
エネルも膝をついている。絶体絶命かと思われたその瞬間、
『……そうや、よく考えたらおかしいわ。アリスにこんな危険なことをさせるなんて、絶対にあかん。ちょっと考えれば分かることや!』
アリアの目に、再び確かな光が宿った。エリナの浄化の魔法が彼女の心を完全に満たし、アリアが自分を取り戻したのだ。そして、彼女がアリスにかけていた強化魔法を解いた瞬間、アリスの力ほ一気に弱まった。
エネルはその隙を逃さず、鋭い魔力の弾をアリスに向かって放つ。アリスは慌てて金属片で盾を作って防ごうとするが、もはやこれまでのような力はない。エネルの一撃が盾をたやすく粉砕し、その衝撃でアリスは後方へと吹き飛ばされ、地面に倒れこんだ。
「アリス! 大丈夫か!?」
アリアが駆け寄り、アリスを支える。その声には、これまでにない切実さと温かさがこもっていた。アリスは動揺した目で姉を見つめ、震えながら問いかける。
「姉ちゃん……なんでや? なんでこんな……」
その問いには、怒りや反抗心ではなく、ただただ混乱と戸惑いが滲んでいた。長い間戦いに縛られ、孤独と無力感の中で生きてきた、傷ついた少女の姿だった。
アリアはそっと膝をつき、震えるアリスの手を優しく握りしめた。彼女の目には深い後悔と、それ以上の愛情が宿っている。
「アリス、もうええんや。無理せんでええ、戦わんでええんや……」
アリアはアリスを抱きしめ、その背を優しく撫でながら、静かに涙を流した。
こうして、彼女たちの戦いは幕を閉じた。
◇ ◇ ◇
激しい戦いがついに終わり、僕たちは廃墟の中に囚われていたエリナを無事に救い出すことができた。エリナの光の浄化の魔法により、アリスもゼノルスの支配から解放され、ようやく和解の時を迎えることができた。
アリアはアリスをそっと見守りながら、僕の方に向き直り、優しく微笑んだ。
「シン君、ほんまにありがとうな。あたしら、もう教団に縛られることはない。おかげで、自由や」
その笑顔には、今までの混乱や狂気はすっかり消え去り、感謝と安堵の光が浮かんでいた。アリスもまだ少し戸惑いを見せつつも、姉に寄り添い、少しずつ自分を取り戻し始めているようだった。
その時、僕の頭の中にフォレスティアの声が響いた。
『シン、彼女たち――特にアリアは、ボクたちの目的にとってとても大切な存在だよ。アリアを仲間にするんだ』
フォレスティアの助言に僕は頷き、二人に提案を持ちかけた。
「アリア、アリス、もしよければ、僕たちと一緒に戦ってほしい。君達の力が、これからの戦いにどうしても必要なんだ」
アリアは目をパチパチさせ、驚きの表情を見せた。しかし、やがてその顔には期待と決意が浮かんだ。
「あんなに迷惑かけたのに、ほんまにええんか? せやけど、シン君と一緒に行くん、なんや面白そうやし、それに……アリスにもええ影響があるかもしれんし」
彼女は力強く頷いた。
「うちは、どこでもええわ」
アリスは無関心を装って肩をすくめたが、その目には姉と共にいる安心感が確かににじんでいた。
「ほな、これから何が待っとるか分からんけど、あたしたちも一緒に行かせてもらうわ。やれること、やらせてもらうで」
アリアの言葉には、長い束縛から解放された喜びと、新たな仲間と共に歩む覚悟が感じられた。
こうして、アリアとアリスを仲間に迎え、僕たちは次の戦いに備えることになった。今回の戦いで、念話と仲間との連携がもたらした成果には自分でも驚いている。何より大きかったのは、僕の指揮した軍に一人の死傷者も出さなかったことだった。クロノアとの戦いからの大きな成長を感じながらも、僕は心を引き締め、次の戦いへと備える。確実に、僕たちは一歩ずつ前に進んでいるのだ。
6章終わりました。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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