6-2 シンの指揮
ソルディアス教団の拠点と思われる町外れの廃墟は、薄暗い霧が立ちこめ、冷たい空気が漂っている。廃墟の周囲には倒れた石柱や崩れかけた壁が並び、不気味な静けさが辺りを包み込んでいる。その内部には約400名ほどの教団員が潜んでおり、彼らの中には『ソルディバイン』と思われる強大な魔力を持つ者の気配も感じられる。クロノアが単独で挑んできた前回の戦闘とは異なり、今回は本格的な大規模作戦のようだ。
それに対し、こちらの軍勢も約400人。イグナリス軍の精鋭部隊で構成されたこの部隊は、熟練の剣士と魔導士たちが連携し、攻防のバランスを備えた混成部隊だ。数だけ見れば互角であるが、相手にソルディバインのような圧倒的な力を持つ存在がいる以上、油断はできない。
僕にとっては初めての部隊指揮だが、意外と手応えを感じていた。僕の『念話』の魔法を使えば、部隊全員に瞬時に指示を伝え、かつ彼らの位置や状況をリアルタイムで把握できる。まるで戦場全体を手元の将棋盤のように見渡すように、各戦士の配置が常に俯瞰でき、最も効果的な攻撃手順を即座に考えることができる。ちなみに、僕はボードゲームが大の得意だ。そして、
ーー念話接続ーーフォレスティア
『シン、ボクの力が必要なんだね』
フォレスティアの声が念話で伝わってくる。
ーー実験的未来視ーー
フォレスティアの予知能力により、僕は部隊全員の数秒先の未来を見通すことができる。これは、わずかな判断ミスが命取りとなる戦場では、とても大きなアドバンテージだ。
膨れ上がった緊張の中、その火蓋が切られる。
遠方から放たれたエネルの魔力弾が爆発し、衝撃音が響き渡る。それが戦闘開始の合図となり、周囲の廃墟から次々と教団員が姿を現した。彼らもルミナス軍と同等か、それ以上の精鋭ぞろいで、鋭い視線をこちらに向けると同時に、強力な魔法を次々と放ってくる。空には炎や氷、稲妻など、さまざまな魔法が錯綜し、まるで破壊の嵐が吹き荒れているかのようだ。
だが、さらにこちらには新たな策がある。
ーー念話接続ーークロノア
念話を通じて、イグナリス王国で囚われているクロノアとつながる。彼女の声は冷静で、いつもの厳しさを内に秘めている。
『どうした、私の力が必要か?』
『エリナが教団員に連れ去られた。君の時間を操る魔法を、念話越しに僕に使ってくれないか?』
『了解した』
ーー私だけの時間ーー
クロノアの時間操作の魔法が発動し、僕の時間の流れだけが10倍の速さに変わる。これはとても面白い体験だ。目の前の世界がスローモーションのように遅くなり、迫りくる魔法の弾を軽やかに避けることができる。これがクロノアがいつも見ていた世界……
だが、クロノアの魔法がもたらすのは僕の身体能力の強化のみに留まらない。このスローモーションの世界では、フォレスティアの未来視を使った試行をこれまでの10倍試すことができ、それだけ有効な手を見つけやすくなる。また、部隊全員に指示を出す時間もそれだけ確保できることになる。これは指揮官としてこれ以上ない有利な状況だ。もはや負ける気がしない。
魔法の嵐の中、僕は念話を通じて戦局を冷静に俯瞰し、部隊に的確な指示を送り続ける。
「右の部隊は前進、左は防御を維持」
「五秒後に上から魔法が来る! 左に避けろ!」
「周りを囲んで、後方から攻撃!」
「伏兵がいる! 扉を魔法で破壊して通れ!」
予知できる敵の攻撃は全て対処可能だ。仲間たちが狙われた未来が見えたら、事前に防御結界を展開して防ぐ。厄介な幻術や状態異常系の魔法を察知すれば、速やかに魔導士に狙い撃ちを指示し、敵の術者を排除する。前衛の兵士たちには巧みに回避指示を送り、教団員に接近させる。身体能力の低い魔導士にさえ近づくことができれば、その後の制圧は容易い。
僕らは誰もが無傷のまま、教団員たちの数を確実に減らしていった。斬り結ぶ刃と飛び交う魔法の光の中で、戦況は圧倒的にこちらが有利だった。
しかしその時、衝撃的な予知を見る。
「全員、後退! 防御結界を最大で配置して!」
凄まじい雷鳴とともに、強力な電撃が周囲を駆け抜けた。幸い、僕らは結界で防ぐことができたが、何人かの教団員は巻き添いとなりそのまま黒焦げになってしまった。そこに現れたのは2人の女性だった。
「気をつけろ、ソルディバイン、アリアとアリスのお出ましだ!」
エネルが叫んだ。
ユニマグナス家の力全開です。
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