1-2 ユニマグナス家と地味な魔法
――時は少し遡り、同日の夕方
砂塵が風に舞い、乾いた大地に小さな音を立てる。街の外に広がるのは荒涼とした風景。枯れた草が無造作に散らばり、熱を帯びた空気がじわりと肌にまとわりつく。町外れの道を一人で歩きながら、僕はふとため息をついた。既に日は傾き、真っ赤な太陽が地平線に沈みかけているのに、日が沈んでも一向に暑さが収まる気配はない。徐々に膨張している太陽のせいだ。
僕の名は、シン・ユニマグナス。かつて名軍師を輩出した名家とされる、ユニマグナス家の末裔だ。しかし、今やその名はすっかり色あせ、過去の栄光となりつつある。そして僕が受け継いだのは、ご先祖様が代々誇りにしてきた『念話』の力――だが、これがどうにも地味な魔法だ。
ここイグナリス王国では、炎や雷、氷など目に見えて派手な魔法が尊ばれる。まるで派手でなければ力とみなされないかのように、誰もが見た目にインパクトのある壮大な魔法に憧れている。だが、僕の使う念話は、ただ人と心でつながり、声を使わずに言葉の意味を伝えるというものだ。地味な、見えない力であるがゆえに、この国では軽んじられ、あまり評価されない。
同級生からは『念話しか使えない地味シン』なんて呼ばれていたし、街のギルドのマスターは『念話しか使えないんじゃ仕事は任せられないな』とからかってくる。とても不愉快だ。
それに、僕自身もこの力をどう捉えてよいのか分からない。なぜなら、僕には『前世の記憶』があるからだ。前世では、僕は『日本』という国で暮らす普通の大学生だった。その時代では誰もがスマホを持っていて、遠くの人と簡単に連絡が取れる。だから、僕にとってこの念話の魔法は、ただの便利な道具――まるでスマホの電話機能のようなもので、全く特別な力だと感じられないのだ。
『――そういえば、父親とまた喧嘩してしまった』
僕の父、ゲン・ユニマグナスは50歳で、ユニマグナス家の現当主。彼は念話の魔法に絶対的な誇りを持っている。数時間前、僕と父はそのことで口論になり、僕は家を飛び出してきたところだ。
「ユニマグナス家の魔法は誇りだ! たしかに派手さはないが、危機的な時代こそ、この力が真価を発揮するのだ!」
父はいつもそう言う。けれど、僕にとってそれは、時代遅れの古臭い考え方に思えてならない。昔から、僕はユニマグナス家に新しい力を取り入れるべきではないかと思っている。
「でもさ、父さん。かっこよくない魔法は、この時代じゃ求められていないんじゃないの? 昔のご先祖様も、うちの家の名前を『ユニウス』から『ユニマグナス』に変えたんでしょ? 言葉の響きを良くするためにさ。これって結局、かっこよさを追求したんじゃないの?」
「やかましい。確かに昔、そういうことがあったかもしれんが、今とは関係ない話だ。ユニマグナス家の力は、時代に関係なく重要で必要なものだ! お前が受け継いだ念話は、目に見える以上の力を秘めている!」
「ふーん。僕には、ただ古いだけにしか思えないよ!」
その会話の後、僕は家を飛び出し、こうして一人、町外れの荒野を歩いているのだ。周囲は既に暗くなっていた。今でも、僕の頭の中には、父の言葉と自分の考えがぐるぐると巡っている。乾いた風が再び砂を巻き上げると、足元に枯れ草が絡みつき、一瞬足が重くなった。その時、ふと視界の端で何かが動いた。
月明かりの中でよく見ると、遠くで、黒い服をまとった数人の男たちが、一人の少女を追いかけているのが見える。彼女は疲れ切っており、今にも倒れそうな様子だった。男たちの服装からして、どう見ても怪しいのはこちらだ。少女は荒れ果てた大地の中を必死で逃げているが、彼女の顔には焦りと恐怖が滲んでいた。
「はぁ……これは、どうするべきかな」
僕はため息をつきながら、とりあえず伝統の『念話』で少女に語りかけることにした。こんな王道的な展開、前世で見たアニメかドラマのようだ。だが、この状況下で、助けない選択肢はないよなぁ。
『大丈夫、助けるから』
彼女が驚いたのが遠目にも分かる。そりゃ、いきなり頭の中に見知らぬ声が響けば無理もないだろう。
――でも、相手は複数人。しかもなかなか強そうだ。そこで、僕は念話を使って遠くにいるフォレスティアの協力を得ることにする。
2話まで読んでいただき、ありがとうございます。
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