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5-1 絆を深める時間

 クロノアとの死闘を終え、僕たちはようやくイグナリス王国の街に戻ってきた。あの過酷な戦いで得たものは、生還できた喜びや勝利の達成感というより、数百人の犠牲者たちへの深い罪悪感だった。イグナリスの誇る多くの精鋭たちが失われたのだ。その事実が僕の胸に重く響いていた。

 けれど、僕たちにはきっと次の戦いが待ち受けている。さらに前に進むためにも、一度、仲間たちとの絆を再確認する時間が必要だと感じた。


 その夜、僕たちは街の隠れ家のような小さな食堂に向かった。派手好きのイグナリス王国内では珍しく、素朴で温かな空間の中、木のテーブルには地元の食材を使った庶民的な料理が並び、ランタンの柔らかな光が部屋を包んでいる。ここは僕のイチオシの店だ。店主とは顔馴染みで、僕が前世の記憶から思い出した料理のレシピを伝えて、こっそりメニューに取り入れてもらっている。おかげで、僕は安く僕好みの味を食べさせてもらえていて、お互いにとって良い関係だ。


「ふぅ……やっと一息つけるな」


 エネルが椅子に腰を下ろし、肩の力を抜いているのが分かる。全身から戦いを終えた安堵感が滲み出ている。


 僕も彼の隣に座り、少しの間だけ気持ちをほぐそうとするが、頭の片隅ではやはり次のことがちらついていた。


「皆さん、本当にお疲れさまでした。こうして皆でゆっくりと食事をする時間が持てるなんて……」


 エリナの顔には微かな影があった。クロノアの件や、彼女を守るために多くの犠牲を払った戦い。その重みが彼女を覆っている。


「まず今は体も心も休ませることが大事だよ。僕のオススメ料理を揃えてみたから、楽しんで!」


 僕が言うと、エリナは少しぎこちなく微笑んでくれた。

 そんな中、ふとエリナの視線がテーブルに並んだ一つの料理に向かうと、彼女は目を丸くして驚いた表情を浮かべた。彼女の目に映ったのは、B級グルメ的な素朴な料理だった。粗雑な見た目が、彼女には馴染みのないものだったのだろう。


「え……これは!?」


 彼女の声には、驚きと戸惑いが交じっていた。まるで予想もしていないものを見つけた時のような、けれどもどう説明していいか戸惑っているような響きだった。


「これ、この店の名物、ベラモ焼きだよ。見た目は地味だけど、味は保証するから」


 僕は笑いながら料理を勧めた。これは僕がここの店主に教えた料理の一つで、前世の記憶にある『お好み焼き』に近い。

 エリナは期待に満ちた表情でベラモ焼きを見つめ、そっと一口を口に運んだ。


「……!?」


 その瞬間、彼女の表情が一変した。瞳がキラキラと輝き、ふっと口元がほころんでいく。


「は、わ、わ! ああ、これ、めっちゃ美味しいです!」


 まるで、もう二度と会えないと思っていた大切な誰かに再会した時のような面差しで、彼女は感激しながらもう一口、また一口と食べ続けた。彼女のキャラも少し変わっている気がする。


「え、エリナ……どうしたんだよ?」


 エネルが目を丸くして驚くが、エリナは一心不乱にベラモ焼きを食べ続けている。目には涙まで浮かんでいた。


「はわわ、ほんとにやばいです、この味。美味しすぎて……ぐすっ……美味しすぎるんです!」


 涙ぐみながら大はしゃぎで食べるエリナの姿は、王女というより、お腹の空いている普通の少女のようだった。


「姫様だろ? お城の料理の方がもっと美味しいんじゃないの?」


 僕が戸惑いながら聞くと、エリナは涙で潤んだ瞳をさらに輝かせて答えた。


「お城の料理ももちろん美味しかったです。口に入れた瞬間、思わずにっこり微笑んでしまうような美味しさなんですけど……でも、こっちの料理は、とても懐かしい感じがして、そして食べた瞬間に、口いっぱいにガツン!とくる感じです。ああ、もう止まらないです。幸せ過ぎです!」


 こんなに饒舌になるエリナを見たのは初めてだ。エネルも苦笑しながらも、楽しそうだ。エリナはもう夢中でベラモ焼きを食べ続け、その無邪気な姿が僕たちに笑顔をもたらした。


 エリナの反応は予想外だったが、このひとときで、少しでもエリナが先の戦いを忘れてくれることを願いたい。

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― 新着の感想 ―
お姫様とは言え、舌がジャンク好きでもおかしくはないですよね。美味いものは美味いのであります。なお、罪悪感については抱かなくとも。クロノアさんのせいですからね。操られていたとはいえ。あの場面は今、思い返…
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