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4-5 戻らない過去

 クロノアの瞳から、溢れる涙が止まらなかった。過ちの記憶が一気に蘇り、自己嫌悪と後悔が押し寄せているようだ。普段は感情を表に出さない彼女でも、今はどうしようもない。


「エリアス様、アメリア様……そして、レイフォード……」


 念話経由でも伝わってくる強い感情。かつて自分が心から敬愛し、大切に思っていた人たち。それなのに、自分の手で壊してしまった人たち。


「エリナ・シア・ルミナス様……もう、謝ることさえ叶いません。私にはもう、あなたに顔向けする資格もない。どうか……ここで私を終わらせてください」


 クロノアの声には、あまりに深い悲しみが滲んでいた。しかし、エリナは静かに首を横に振ると、柔らかながらも芯のある声で応えた。


「それはいけません。とても苦しいのですね。でも、過去には戻れません。それでも、クロノア、あなたには、まだ成すべきことが残されているはずです」


 エリナの言葉には、強さと優しさがあった。


 今まで静かに成り行きを見守っていたオルト騎士団長は事の次第を理解したようだ。


「クロノア、ここでお前の命を奪うと言ったこと、撤回する。たが、お前は我々の同胞の命を多く奪った。イグナリス王国に連れ帰り、聖騎士裁判にかけることとする」


「ああ、それで構わない。……私は、あまりにも多くの血を流してしまった。教団に拐かされていたとはいえ、全ては私自身の意思で行ってきたことだ。私の罪は決して消えることはない」


 クロノアはそれを、まるで望んでいるかのように、潔く受け入れた。エリナが不安そうな顔でオルト騎士団長を見る。その心を見透かしたようにオルトは囁いた。


「大丈夫。経緯は理解した。彼女の命を奪うようなことにはならない。何せ、裁判長はイグナリス王だからな」


 ーー確かにそれなら大丈夫そうだ。


 話がうまくまとまりそうになったので、僕は思い切ってクロノアに提案してみることにした。彼女の力は今後の僕たちにとってとても貴重なものになる。


「君は、かつてエリナを守る誇り高き騎士だった。君の力は僕たちにとっても必要だ。どうか、これからも力を貸して欲しい」


 クロノアはその申し出に驚いた様子を見せたが、すぐに首を横に振った。


「少しでもエリナ・シア様のお役に立ちたいという気持ちはあるが、私はこれから罪を償うために行かねばならない。君たちに同行することはできない」


 オルト騎士団長もそれには難しい顔をしている。僕は説明を付け加えた。


「共に戦うことはできなくても、必要な時に、僕に念話経由で力を貸してもらえないだろうか?」


 その提案に、クロノアはしばし思案したが、すぐに頷いた。


「なるほど、念話経由か。面白いな、それなら協力できそうだ」


 彼女の瞳にはわずかに希望が戻っているように見えた。


「君たちには感謝しなければならない。そして、私にも慢心による隙があったとは言え、君たちの力は認めざるを得ない」


 クロノアが一息ついてから、まじめな顔で口を開いた。何か重要なことを伝えようとしているのが伝わってくる。


「最後にお前たちに言っておきたいことがある。私はソルディバインの1人だったがーー」


 そこで僕は思わず、その先の言葉を遮って聞いてしまった。これはきっとあれに違いない。四天王とかの最初の1人が負けた時に必ず言うやつ……


「もしかして、『私はソルディバインの中でも最弱だ』とかいうやつ?」


「……」


 すると、クロノアは真顔でこちらを見つめ、数秒沈黙した。そして、少し困惑したように首を振った。


「何を言う。競ったことはないが、恐らく、私こそがソルディバインの中でも最強だろう。他には、二人がかりで私と良い勝負になるくらいの奴らと、頑丈で暑苦しい奴が一人。もう一人は……まあ、正直よく分からんが、勝てないと思うような奴はいないな。それとも、私の力では満足できなかったのか?」


 その返答に、慌てて僕は全力で首を振った。


「いやいや、全然、大満足です! てか、できればもう二度と戦いたくない!」


 本当に心の底からそう思う。彼女はまさに、一騎当千の強さだった。クロノアは少し目を細めながら続けた。


「そうか、ならそれでいい。だが、肝に銘じておけ。そんな奴らよりも、総帥のゼノルスには気をつけろ。この私ですら、容易に操られてしまったのだ。僅かな時間で人々を煽動し、一国を滅ぼすことすら、彼にとっては造作もない」


 僕はその冷静な警告に、笑いかけた表情を引き締めた。ゼノルス……その名を口にするクロノアの声が、静かに、そして重く響いた。近い未来に、僕たちはゼノルスと対峙することになるのだろう。


「だが、お前たちなら、きっと道を切り開けると信じている」


 そう言い残すと、クロノアはオルト騎士団らに連れられ、その場を去っていった。その背中には、かつての騎士としての誇りと、償いのための覚悟が宿っていた。

 僕たちは、彼女の背を見送りながら、次なる戦いへの決意を固めていた。

4章終わりです。次は第2の主役であるエリナに焦点を当てていきます。


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― 新着の感想 ―
慢心まみれだったクロノア様の自己評価はあまりあてにならないのでともかくとして。意思を即時で操れるのは何なのでしょうね、確かに。とても強敵なのかもしれません。クロノア様はしかし、利用価値のほうがあるとい…
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