3-5 イグナリス王との謁見
イグナリス城は、その壮麗さと威厳に圧倒される場所だった。広大な庭園は色とりどりの花で埋め尽くされ、白い石の壁は太陽の光を受けて眩しいほどに輝いている。
大きな城門がゆっくりと開かれ、中に入ると広大な回廊が続いていた。僕も中に入るのはこれが初めてだ。高い天井には豪華なシャンデリアが吊るされ、壁には歴代の王や英雄たちの肖像画が並ぶ。そのどれもがイグナリスの歴史と栄光を象徴しているようだった。
「わあ、すごい……」
エリナが小声で感嘆の声を漏らす。ルミナス王国の厳粛な城とはまた違った華やかさと開放感に、彼女も驚いているようだ。だが、案内役の侍従の後について進むたびに、僕の緊張感がじわじわと増していく。
「おいシン、緊張してないか?」
エネルが肩を叩いてきた。
「いや、だってさ……王様に会うんだろ? そりゃ緊張するよ」
「お前、命懸けの戦いには冷静なのに、こういうのは苦手なんだな」
その軽口で少しだけ気が楽になり、有難い。
大きな扉の前で立ち止まる。金の装飾が施された扉は、イグナリスの王の権威を示すように威圧的だ。侍従が軽くノックし、中から威厳のある声が聞こえるとゆっくりと扉が開けられた。
「さあ、こちらへ」
侍従に促され、僕たちは中へと足を踏み入れた。
アストライウス・エス・イグナリス――イグナリス王国を治める王。彼は広々とした謁見の間の中央、豪華に装飾された王座に堂々と座っていた。金色の刺繍が施された真紅のローブをまとい、襟元に王家の紋章が刻まれた白いシルクのシャツを着ている。その姿はまさに王者の威厳に満ち、まっすぐな眼差しで僕たちを見下ろしていた。若干挙動不審な僕たちに、王はまずこう言った。
「いつも派手に、生きておるかな?」
割と軽い感じだった。
「シン・ユニマグナス……ユニマグナス家の者だな。長年、君の家がこの国にもたらしてきた知恵と忠誠には、感謝しておるぞ。そして、ルミナス王国のことはすでに耳にしておる。エリナ王女よ、辛い旅路であったこと、心よりお察しする」
王の声は寛容で、その奥に秘められた慈悲深さが感じられる。エリナは静かに頭を下げ、緊張した面持ちでその言葉を受け止めていた。
「王よ、エリナ王女をどうか匿っていただきたい。そして、ソルディアス教団のクロノアを討伐するために兵力をお貸し願いたいのです」
僕は深く一礼し、慎重に言葉を選びながら訴えた。
それを聞いたイグナリス王は思案するように、静かに目を閉じた。しばしの沈黙の後、王は難しそうな顔をして目を開き、再び僕たちに視線を向けた。
「その件についてだが……余も色々と思案はした。この国も相応のリスクを背負うことになる……」
王の表情は厳しい。
「我が国の兵の命も、民の命もかけがえのないもの……」
ーー駄目なのか?ーー
「そういうことを全部ひっくるめて考えて、結論としてはオッケーということにした」
ーーいいんかいーー
「クロノア……ソルディアス教団に与している彼女は、かつて、この国にも名を轟かせた騎士だった。敵に回れば、非常に危険な存在だ。放置すれば、イグナリス王国の未来をも脅かすことになるだろう」
王は言葉を区切り、深く息を吐く。そして、王の鋭い目が僕たちに向けられた。
「シンよ。エリナ王女を匿い、兵を貸そう。イグナリス王国の威厳にかけて、クロノアを討ち、エリナ王女を守る!」
ちょっとふざけたところもあるけれど、きちんと威厳を示すべきところは押さえている、頼れる王だ。
「オルト・ヴァレンス、異論はあるまいな?」
王が声をかけたのは、王の側に控えていた騎士団長、オルト・ヴァレンスだ。彼は堂々たる体格を持ち、重厚な鎧に身を包んでいた。イグナリス王国を象徴する白銀の鎧が、彼の強さと威厳を一層引き立てている。長く結った黒髪が後ろに流れ、真っ直ぐな眼差しをこちらに向けた。
「もちろんです、王よ。この国の平和を脅かす脅威は取り除かなければなりません。全力で討伐いたします」
オルトは一片の迷いもない声で答えた。その場にいた全員が、騎士団長の言葉に安心感を感じた。
「ありがとうございます、王よ、オルト殿」
僕とエリナが深く頭を下げ、感謝の意を伝えると、イグナリス王はこう締めくくった。
「皆、派手に、生きよ!」
こうして、僕たちはオルト騎士団長が率いるイグナリス王国の精鋭部隊とともに、クロノア討伐の準備に取りかかることになった。王国の強大な力を借り、僕たちは強敵クロノアとの戦いに備える。それが、僕たちに課された次なる使命だった。
派手な魔法を重んじる国なので、こんな王様にしてみました。
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