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3-3 念話の力、無敗の騎士

「僕の魔法、念話は、ただ相手に言葉を伝えるだけじゃない。言語をさらに抽象化した『思考』を、直接相手の頭の中に送り込むことができるし、相手からその返事を受け取ることもできる。つまり、話す言葉が違う相手とも意思疎通ができる」


 念話のこのポイントは、別の国の、言葉の通じない相手と交渉できるという点では役に立つ。


「それから、思考や過去の記憶のイメージ、さらには魔力まで相手に送り込むことができる。例えば、相手が協力してくれれば、その人の魔法の力を念話経由で引き出して使うこともできるんだ。これが、僕の能力の特徴さ」


 エネルが興味深そうに聞き入り、腕を組みながら頷く。


「なるほど。戦闘の時、俺の攻撃をかわしたのはその能力のおかげか」


「そう、僕はフォレスティアの予知能力を借りて、数秒先の未来を読むことができる。それだけじゃなく、相手に協力してもらえれば、他の能力も念話経由で引き出せる。但し、念話経由で効果が得られるのは、相手に特殊な力を付与したり、能力を強化するような魔法だけだ。それ以外の物理的に攻撃するような魔法は、純粋な魔力としてしか取り出せない」


 つまり、念話経由で効果があるのは一見地味な魔法だけ。と、僕は心の中で付け加える。


 エリナがその言葉に納得したように頷き、続けた。


「なるほど……だから、皆の力を合わせる意味も、より高まるということですね。シンの力を中心に、皆が集まれば、世界も救える気がしてきます!」


 エリナにそう言ってもらえると、僕も少し希望が持てる気がする。ここで、この話を静かにに聞いていたエネルが、再び口を開いた。


「しかし、大きな問題がひとつある」


 彼の声は重々しかった。


「教団には、『ソルディバイン』と呼ばれる最も強力な五人の高位司祭がいる。そいつらがゼノルスの片腕として動いているんだ。俺が失敗した以上、次に来るのはその中の一人――クロノアだ」


その名に、エリナが反応した。彼女は息を飲み、驚いたような顔で僕を見る。


「クロノア……」


 エリナの声には、深い悲しみと懐かしさが混じっていた。


「クロノア・レヴァンティス。彼女は、かつて私の故郷ルミナス王国の最強の騎士だったの。でも、教団側についてしまい、彼女はもう、以前の優しさを失ってしまいました……」


 エリナの目が曇り、一筋の涙が頬を伝う。彼女の言葉は切ない響きを帯びていた。僕は彼女の悲しみに寄り添えるよう、冷静に続けた。


「クロノア・レヴァンティスという名は、僕でも知っている。無敗の騎士として、イグナリス王国でも知名度は高かった」


 クロノアは騎士としてのあらゆる試合で勝利を収めており、一度も負けたことがないと聞く。また、かつてルミナス王国への侵略を試みた他国の奇襲攻撃を、たまたま発見したクロノアが単騎で殲滅したという逸話もある。僕らが憧れる英雄、グラヴィス・ノクターンにも匹敵する存在だ。その名前が持つ重みは、場の空気を一気に重くした。


「クロノアは、剣術に優れた騎士であると共に、強力な、時間操作の魔法を使います」


「ああ、あの力の前には俺も全く勝てる気がしねえ」


 エネルでさえ素直に力の差を認める最強の騎士。そして、時間操作の魔法――それがどれほど恐ろしいものか、僕にはまだ想像もつかないけれど、彼女の力に対抗するには、相当な準備と戦略が必要だということは明白だった。


「……戦力が足りない。今の僕たちだけでは、クロノアに勝つのは無理だ」


 自然と、言葉が口をついて出た。だが、その瞬間、一つの案が頭をよぎる。


「だから……イグナリス王国の力を借りよう。僕たちだけじゃどうにもならないが、王国の兵力があれば、クロノアとも対峙できるはずだ」


 エネルも考えた後、頷いた。


「確かに、クロノア相手には、イグナリスの軍くらいを仕向けないと釣り合わねえかもな」


 考えれてみれば、これはそれほど奇抜なアイデアではない。元々エリナがここに亡命してきた理由も、おそらくイグナリス王国の助力を期待してのことだったに違いない。僕がエリナに目を向けると、彼女はしっかりと頷いた。


「僕の父親、ゲンは王とも繋がりがある。父を通して、王にお願いすれば、エリナを匿ってもらい、クロノア討伐のために兵を貸してもらえるかもしれない」


 普段は父に頼ることを避けている僕だが、今はそんなことを言っている場合じゃない。クロノアに勝つためには、どうしてもイグナリス王の力を借りなければならない。


「そいつはいい、それで決まりだな」


 他力本願な方法ではあるが、他に良い案は思い浮かばない。満場一致だ。


   ◇ ◇ ◇


 ユニマグナス家に急いで戻り、親父にこれまでの出来事をすべて説明した。僕の話を聞いた親父は、事態の深刻さをすぐに理解し、厳しい表情を浮かべながらもすぐに念話を通じてイグナリス王に連絡を取ってくれた。なんと、イグナリス王はすぐに直接話を聞いてくれるそうだ。この人脈の強さについては、親父を尊敬せざるを得ない。

 僕たちは馬車を借り、イグナリス王国の中心に向かった。

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― 新着の感想 ―
コネクションをフルに使おうというシンの考え方が、素晴らしいですね。パパの力に縋るのは嫌でしょうが、他人も絡むとなれば別ですよね。致し方ないという、本人としてはところでしょうか。今回もとても面白かったで…
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