1-1 逃亡中の王女
生暖かい風が頬をなでるたび、じっとりとした汗が全身に滲む。薄暗い月明かりの中、荒野を駆け抜ける私の足音が、乾いた音を立てている。かつては豊かな自然に溢れていたこの地域も、日に日に赤く大きく、熱を増す太陽に焼かれ、荒れ果てた大地が広がっている。
先日まで誇り高く王女として振る舞い、この世界でなかなか幸せに生きていたはずの私が、今は全てを失い、追われる身となり、逃げ続ける日々――そんな現実が信じられない。
『王国の誇りは……私が守らないと……』
そう自分に言い聞かせるが、既にほとんど力はない。足が重く、息が詰まるように苦しい。太陽の女神ソルが狂い始めた世界の中を、今はただ走り続けるしかない。
背後には、ソルディアス教団の団員たちの足音が確実に近づいてきていた。彼らの黒いローブは風にたなびき、まるで不気味な影のように私を追い立てる。彼らの足音がどんどん私に近づいてくるのが分かる。
「王女様! そろそろ無駄な抵抗はおやめなさい! 頑張ったところで、あなたにはもう何も残されていない」
背後から教団員の冷めた声が響き渡る。その声が私の意志をさらに奪い、諦めたくなる。私の呼吸はさらに乱れ、胸をかきむしりたいくらいに苦しい。教団員たちは敏捷性の高い鎧を身に着け、高度な魔法を操る精鋭たちだ。それに対して、私の光の魔法はもう何度も彼らの魔法結界に遮られ、少しの数を減らすことさえできていない。そろそろ魔力の限界が近い。
「もう、無理かもね……」
頭は重く、身体は鉛のように重い。目の前に見える荒涼とした風景も、歪んでいるように見える。ここでの私の人生ももう終わりかな。次もどこかに……
そんな時ーー
『大丈夫、助けるから』
突然、頭の中に見知らぬ青年の声が響き渡った。穏やかで落ち着いた声だ。驚いて足を止め、周囲を見渡すが、誰もいない。まるで、私の心の中に直接語りかけるような声。でも、その声には不思議な安心感があった。
「誰……?」
戸惑う私に、さらに驚くべきことが起こる。目の前の小道に突如、丸太が転がり込み、教団員たちが派手に躓いて倒れ込んだのだ。
思わず立ち止まり、目を見開く。教団員たちは慌てて立ち上がろうとするが、続けざまに拳二つ分程度の大粒の石が次々と飛んできて、彼らの横顔をえぐる様に、全ての石が正確に命中した。まるで見えない手が石を操っているかのような正確さだ。
完全に不意を突かれた教団員たちの多くは、仲良く揃って横向きに倒れ、昏倒してしまった。
「こんなことができるの……?」
威力のみを見れば決して強力な魔法ほどではないが、薄暗い月明かりの下でこれほど正確に投石ができる人間がいるものだろうか。私は驚愕し、立ち尽くしていた。
遠くから、一人の青年がこちらをじっと見ているのが見えた。まだ彼の表情ははっきりとは見えないが、その瞳には冷静な光が宿っていた。
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