表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

壷から生まれた壷聖女!

 今日は王都の近くの畑で、初聖女お仕事の日です。

 私が喚ばれた理由は分かった、聖女の仕事内容も理解! あとは実際に見て見ないと分かりません!

 だって、小説なんかで見てきた聖女の仕事とちょっと種類が違うんですもの。

 そんなわけで、気合いを入れて、お出掛け用の壺だって磨いちゃいます。

 この程よい狭さ、包まれる感じ。召喚前に一人暮らししていた我が家(駅まで徒歩十五分一階のテナントにコンビニがある1Kクローゼットなしロフト付きのドアに膝がぶつかる狭いトイレ)に似てて、とっても落ち着く。

 

 曲線を多用した、天井と壁がひと繋がりに見える室内。その壁や柱は細かい彫刻や装飾が余すところなく施され、それはもう、畏れ多くてなるべく触れたくないなって程。

 そんな場所のインテリアは、勿論それ相応。

 使い込まれた飴色の~なんて素朴なテーブルなんて無く、真っ白金縁ピッカピカ! ソファも体が埋もれちゃうふかふかさ(体が小さいから体験できないけど)で、ベッドは勿論天蓋付き!

 現代で例えるなら、後期バロック様式とかそんな感じですね。ごめんなさい美術の成績可も無く不可も無くなので、適当に言ってます。

 そんな部屋のそんなテーブルの上に、武骨な素焼きの壺と私。

 もう流石になれたけど、たまにふと自分の場違い感に泣きそうになります。

 壺の中だけが癒し空間です。


「もえ? 中か?」


 ふと、壺を覗き込んできたのは私の護衛騎士のルークさん。

 突然ですが、世界の童話とかの王子様の挿絵を想像して下さい。はい、出来ましたか? そうです、ルークさんはそんな感じの美形さんです。

 

「中でーす! もう出発ですか?」


 よっこいしょっと壺から這い出すと、露骨にドン引きされました。

 ルークさん、折角お美しいご尊顔なんですから、もうちょっとこう、ね?

 ルークさんは引きつった顔のまま、私を壺の中にしまい直す。

 うん、もう出発みたいです。

 家の鍵の心配も、電気の消し忘れもストレートアイロンのスイッチの切り忘れもない、なんて楽な生活!

 一人でお出掛け出来なくなったのは、ちょっとツライですけどね。

 

 壺ごとルークさんに抱えられ、お部屋を出発。

 さっさと廊下を抜け、メインの大回廊も、これまたさっさと早足で。

 メインの大回廊は一般に開放され、開かれた王宮と呼ばれているこの王宮。

 途中、その大回廊で何人もの着飾った令嬢が、ルークさんをめざとく見付けて話しかけてくる。

 いつもここでこうやって足止めされちゃうんですよね。ルークさんも今はニコニコ対応してますけど、そこの角を曲がったら歯軋り舌打ち祭りですよ。ほら、舌打ちした。


 そんなこんなで、やっと畑に着きました!

 近所と聞いていただけあって、馬でちょっとお散歩に来たくらいの感覚です。

 さっそくルークさんは、畑の脇に壺を降ろす。

 久しぶりの外の空気! 土! でも、小さくなったからか、土の解像度高くて虫とかと遭遇したら発狂しちゃいそう!

 今日はお試しですし、さっさと畑にいる女神様の眷属さんを探さないと。

 キョロキョロと見渡し探してみると、遠くの方にぼんやり光る場所が。

 ふっかふかの土の上を一生懸命移動してみると、そこには丸々と太った手足の短い何か、服や帽子を身につけているようにも見えるけど、よくよく見れば体と一体化している謎の人型の生物。

 緑色の子もいれば、オレンジや赤の子もいる。

 そんな不思議な生物が、へそ天で大の字だったり、涅槃のポーズや平泳ぎのポーズなど、点々と転がって落ちている。

 たぶん、これが女神様の眷属さん達だと思うけど、思っていた以上にしょんぼりメソメソしてる。

 体もうっすら光ってはいるけど、なんとも頼りない光り。


「あのぉ、女神様の眷属さんですか……?」


 勇気を出して話しかければ、眷属さん達はゆっくり顔を上げた。


『……女神様の匂いする』

「女神様から、みなさんを元気づけてあげと言われて来ました、聖女の萌衣です!」


 一人また1人と顔を上げた眷属さん達は、畑の脇に置かれた壺を見付けると、ぱっと嬉しそうに飛び上がった。

 

『女神様だ! 女神様だ! 嬉しい、歌おう踊ろう! うーーっはー!』

「うたっ……え!?」


 突然フリフリと踊り出した眷属さん達に囲まれ、パニック寸前! 

 でも、元気づけてあげてって事は、一緒にやってあげなきゃなんだよね……うん。

 眷属さんのマネをして、横を向いてお尻をぷりっと突き出す! そしておもむろに手をバタバタ振って~……。


「フッパカパカピッ! ホッパカパカへッ! ウーへー~……パカピッ!(涙目)」


今度は反対を向いてもう一度!


「フッパカパカピッ! ホッパカパカへッ! ウーへー~……パカピッ!(ヤケクソ)」


今度は正面向いて腰をフリフリ!


「フッパカパカピッ! ホッパカパカへッ! ウーへー~……パカピッ!(満開の笑顔)」


 全力でやりきり、眷属さん達もニッコニコ!

 ピカピカに輝き眷属さん達が元気になると、そのピカピカが畑全体に広がっていく。

 成功、したのかな?


「……もえ、大丈夫か? やっぱりまだ休んでいた方が良かったか?」

「ふぇ?」


 振り返ると、過去一ドン引き顔のルークさんと目が合った。

 そういえば、眷属さんの姿と声は、聖女にしか……。

 じゃあルークさんには、私が一人で畑の真ん中で喋って歌って踊り出したようにしか見えないって事で……。

 

「畑の浄化、終わりました……」


 泣くもんか!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ