序章
俺は青木創太、32歳。
一流ではないけれど、それなりの大学を出て区役所に就職した。職場の人間関係も問題はなく満足した生活を送っていた。
彼女はいなかったが、それを補って余りあるほどに育成ゲームにのめり込んでいた。
なんで急に自分語りを始めたのか、それはこの後の話でお分かりいただけるだろう。
1月9日、新年始まって早々に銀行に来ていた理由は簡単で、宝くじの換金である。なんて頭で考えていないと落ち着かないくらいにはパニックになっている。
チャンスセンターから銀行に着くなり、直ぐに奥の部屋へと案内された。担当してくれた人は何か説明してから居なくなってしまった、その説明の内容すら緊張で覚えていない。
「青木様、失礼します。こちらが、当選金7億円が入ったキャッシュカードと高額当選者にお渡ししているハンドブックになります。」
担当の人からハンドブックの説明があった。
中身は他人にむやむに教えるな、仕事はやめるな、みたいな内容だった。本当に存在してたのかハンドブック。
「説明は以上になります。何かご質問はございますか?」
「ありがとうございます。特にありません。」
気付いたら説明も終わっていた。思わず表情が緩む。実感が湧いてきたのか浮かれながらキャッシュカードを受け取り銀行を後にした。
それにしても宝くじなんて本当に当たるんだなー
そんなことを考えながら駅まで歩いていた。そんな時声をかけられた。
「すいませんお客様、先ほど忘れ物があったのですが」
「ありがとうございます。忘れ物ですか?」
話しかけてきたのは銀行の担当者だった。その手には重そうな袋が、でも忘れ物なんて心当たりがなかった。とその時だった、『ゴンッ』と鈍い音が聞こえると同時に頭が焼けるように熱くなった。
「「「キャーッ」」」
通行人の悲鳴が聞こえ、目の前には赤い液体のついた袋を手にした銀行員がいたが、余りの痛みに倒れ込んでしまった。
クッソ救急車!
119番に連絡しようとスマホをポケットから出そうとしたが指先に力が入らなかった。
そういえばあの女どこ行ったんだ?朦朧となる意識の中、思考の海に沈んでいく。
どこ行きやがった!ていうか財布もない。あそこにはキャッシュカードが入っているのに。
ああ、そういうことかあの銀行員が全部持っていったのか。
頭に登った熱が冷めた気がした、そして俺の意識は途絶えた。