たまごを茶葉で煮ない国に留学した姉へ
中学の放課後に両親と合流して訪れたレストランは、台南市屈指の人気店という噂に違わぬ素晴らしい物だったの。
夕食のコース料理はどれも美味しかったけど、中でもロース肉の排骨は最高だね。
付け合わせの茶葉蛋が半熟だから、卵黄を潰して味変出来ちゃうのも有り難いよ。
「珠竜ったら、卵黄を絡めた排骨が気に入ったのね。」
「烏龍茶と八角の効いた茶葉蛋が、カラッと揚がった排骨とよく合ってね。お姉ちゃんが日本の学食で食べたっていう味噌カツ温玉丼も、これに近い外見だったけど。」
苦笑する母に応じながら、私は日本の堺県立大学に留学した姉について考えていたんだ。
私より五歳上の姉は王美竜といって、眼鏡をかけた利発そうな容姿に違わず勉強の出来る優等生だったの。
だけど人間味に満ちた気さくな人柄で、私とは放課後に夜市で落ち合って一緒に買い食いするような仲だったんだ。
夜市では茶葉蛋をよく奢ってくれて、姉自身も結構な頻度で食べていたっけ。
とはいえ茶葉蛋は八角とお茶で煮た茹で卵だから、そんなに高い物じゃないんだけどね。
お小遣いの限られている中高生でも気軽に買える安価な軽食だけど、気は心だよ。
そうして姉との思い出を振り返っていると、「日本に留学中の姉が茶葉蛋を食べたくなったら、一体どうするのかな?」って考えがふと脳裏を過ったんだ。
「ねえ、お父さん。こっちと違って、日本のコンビニには茶葉蛋なんて置いてないよね?」
「そうだね、珠竜。お父さんが駐在員だった頃には無かったよ。」
父に頷きながら、私は思考を巡らせた。
日本は台湾と違い夜市が少ないし、あっても茶葉蛋を出す店は少数派だろう。
台湾料理店に行く手もあるが、茶葉蛋だけ単品で食べるのは流石に無理がある。
残る手段は自炊かな。
まあ、日本で茶葉蛋を食べる機会の有無をメールかSNSで聞けば分かる事だけど…
私のスマホに受信通知が入ったのは、それからすぐだった。
間髪入れずに返信が来た事を考えると、今夜は姉も友達と遊び歩かずに下宿へ直帰したのだろうね。
‐日本で買うと高いから、自分で作ってる。京番茶や丹波茶で作る茶葉蛋も、なかなか乙な物だよ。
そんな文面のメールには、姉お手製らしき緑茶に浸かった茶葉蛋の画像が添付されていたんだ。
どうやら姉は、日本で上手くやっているらしい。
そう思えるメールに、私まで嬉しくなっちゃったんだ。
日本茶で作る茶葉蛋なんて、台湾から日本に留学した姉ならではのレシピだよ。