5.思わぬ来訪者
美しい花々を愛でながら、広大な庭を歩いて行く。
ーーシュタイナー家の領地が緑豊かであること自体は、前世でも情報として知っていた。
しかし、ゲームでは詳細に描かれていなかった部分であるため、ここまで素晴らしい庭園があるとは思わなかった。
(ゲームの余白を知ることができるなんて、嬉しすぎる……!!前世の私は、きっと、沢山良い行いをしたんだね……!!ありがとう!!)
あまり思い出せないが、前世の自分に感謝する。
(前世の私が見たら、泣いて喜んで心のスクショを撮りまくったんだろうなあ)
ーー前世を思い出したとはいっても、それはあくまで記憶であって、主人格とはなり得なかった。
意外にも、精神は幼い子供の体に引き連られているようなのだ。
それでも多少の影響はあるようで、今の私は多少大人っぽい子供、という性格になっていた。
(元のアデルの性格に、前世の知識や思考がプラスされたような感覚なんだよね)
ジャンは考え込む私に何を思ったのか、注意するように声をかけてきた。
「お嬢様。病み上がりなんですから、あまり走らないでくださいよ」
「はーい」
……走り出しそうに見えたのだろうか?
私の適当な返事を受け、ジャンは訝しむように眉を寄せる。次いで、わざとらしく溜息をこぼした。
「庭なら何度も来ているでしょう。何をそんなにはしゃいでいるんだか……」
私はやれやれ、と首を振った。大袈裟に身振り手振りも加えてみる。
「ジャン、分かってないね。良いものはいつ見ても良いものなんだよ」
「はあ、そうですか」
ジャンのやる気のない返事に、そっちも大概じゃないかと思いつつ、これ以上話を広げたらボロが出そうなので黙っておくことにした。
しばらく2人無言で歩く。
「あ、蝶……」
目の前でひらひらと、鮮やかな色彩の蝶々が舞っている。ピンクと水色のグラデーションが幻想的だ。
手を伸ばしてみたが、揶揄うように私の周りで螺旋を描いた後、何処か遠くへ飛んで行ってしまった。
私は、今まで歩いてきた小道を振り返る。庭には、名前の知らない美しい花も咲いていた。
(私、本当にこの世界に生きてるんだなあ)
……散歩をすると決めたのは、それを確信するためでもあった。
部屋に居た時は、もしかしてこれは長い夢で、私の妄想ではないかと考えることもあった。
しかし、こうして外に出てみると、この世界は生きていた。天国でもなく、現実なのだと確信を得る。
私の妄想だとしたら、こんなに細かく花の描写なんてできないだろう。
それに、登場人物とは選択肢を選んで会話するのではなく、私の意思と言葉で会話ができる。
私は、ゲームのようでゲームそのものでもないと感じた。
ーーこの、美しく残酷な世界を守りたい。最推しも勿論幸せにしたいけど、この世界まるごと守って、ハッピーエンドを迎えたい。
(そのためにも、これから頑張らないと)
覚悟を新たにして、前を向く。
爽やかな風が、私を祝福するかのように吹き抜けていった。
◇◇◇
それからまたしばらく歩いていると、私の目に、麦わら帽子を被った作業服姿の男性が映り込んできた。
どうやら水属性の魔法を使って花々に水やりをしているようだ。水飛沫が反射して、キラキラと輝いている。
老齢なこともあって、この素晴らしい庭をつくった庭師だと見当づける。声をかけようと小走りで近づいた。
ジャンも仕方ないな、という顔で私の後を追いかけてくる。
「あの……!」
「ん?」
「っ!?」
私の声に振り返った顔を見て、思わず息を呑む。
(……ちょっと待って!?何でこの人がここに居るの!?)
私はその人物に向かって、大きな声で疑問を投げかけた。
「な、何をされているんですか!?お祖父様!!」
私の悲鳴のような声を聞いて、「急に走らないでください」と言いかけていたジャンも絶句した。
「ふぉっほっほ。勿論、可愛い儂の孫に会いに来たんじゃよ」
「のう、アデル」と言ってウィンクしたお祖父様は、私の魔力を封印した大魔法使い。
ゲームで起こった戦争で、その命を削り民を守った英雄である。
お祖父様登場です!
これからは試しに予約投稿も使ってみようと思います。上手く投稿できてるかドキドキします(^^;)
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