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4.従者と夢

 その後、私は母に家庭教師をつけてほしいとお願いした。

 

 ーーいずれ始まる学園生活では、『先生』や仲間との交流を大切にしたい。

 その結果学業が疎かになるのは避けたいため、今のうちからコツコツ学んでおこうと思ったのだ。


 父はまだ早いと言いたげだったが、母の離婚宣言のおかげか大人しく頷いた。

 体調が回復次第、手配してくれるらしい。

 

 私はその言葉を受け、一先ず療養に専念したのだった。



 ◇◇◇



「〜♪ 」

 前世を思い出した日から5日後。

 体調は順調に回復し、ようやく外出する許可を得た。

 家に閉じこもっているのは少し苦痛に感じていた頃合いだったので、とても嬉しい。



 私は、今日の空と同じ晴れやかな気持ちで庭の小道を歩く。

 白いレースがあしらわれた日傘を気まぐれにくるくると回すと、時折差し込む暖かな日差しが気持ち良くて、思わず目を細めた。


 軽く散歩をして体力をつけようと庭の散策を決めたのだが、間違いなく正解だった。



「ご機嫌ですね、お嬢様」


「!」


(び、びっくりした……!見られてたんだ!?)



 少し離れた場所から声をかけてきたのは、癖のある柔らかそうな鳶色の髪に、曇り空のような瞳の少年。

 私より少し年嵩の彼は、今年から私に仕えている従者である。



 ーー名前はジャン。家名はない。



 切れ長で少し眠たげな瞳に、高い鼻筋。

 どこか冷たい印象を受けるが、将来美形になることが確約された顔立ちだ。このゲーム、美男美女が多すぎる。



 ……そう、言わずもがな、彼もゲームのメインキャラクターの1人だった。

 


 レアリティは最高のSSR。

 メインストーリー初期から登場している人気キャラで、彼を推すファンも多かった。

 そして、ゲームでは従者用の燕尾服を纏った姿ではなく、まさかの制服姿で登場する。


 (ジャンは確か、アデルより5歳年上。それなのに、アデルを心配した父様のせいで、同級生として一緒に入学するんだよね)


 アデルが兄のように懐いていた少年だが、彼の正体はとある暗殺ギルドに所属していた元暗殺者だ。

 任務に失敗して行き倒れていたジャンを父が拾い、娘の従者にしたという。

 娘を溺愛する父の采配とは思えないが、どうやら、父によってシュタイナー家に危害を加えないという契約魔法をかけられているらしい……ということがメインストーリーで明かされるのだ。

 ジャンは、取り敢えず生きていれば何でもいい、と考えていたようで、大人しくアデルの従者の枠に収まっていたとのことだった。

 黒幕説が囁かれていたが、黒幕はジャンではない。私の最推しである。



 まだ仲良くはなれていないが、こうして話しかけられるくらいなので、特段嫌われてもいないのだろう。

 私はジャンに向かって満面の笑みを返した。

 

「うん!最近、とっても良いことがあったんだ!」

「そうですか、それは良かったです」


 こちらがびっくりするほど、少しも良かったと思っていない顔だった。

 言葉は丁寧だが、目が全く笑っていない。まるで、前世でブラック企業の社員だった頃の私の様……とまで考えて、まさか伯爵家の労働環境が辛いのだろうかと不安になった。


「ジャン、最近仕事はどう……?何か辛いこととかない?」

「何ですか急に。特にないですよ。『前職』と比べるまでもなく良い人達ばかりですし、仕事自体も大変と言うわけではありませんから」


 それを聞いて安心したが、やっぱりどこか腑に落ちない。

 まだ10歳だというのに、どこか大人びた雰囲気を纏っているのは、壮絶な過去のせいなのだろうか。


 (私がこれくらいの歳だった頃は、もっと毎日が楽しかったと思うんだけどな。将来の夢も、まだ会社員とかじゃなくて、お花屋さんとかだったし)

 

 私はふと気になって、ジャンに尋ねた。


「ジャンには将来の夢ってある?」


「夢、ですか?」


 きょとん、とジャンが年相応の表情を浮かべた。

 少し考え込んだ後、途方に暮れたような顔をして、私に問いを返す。


「……お嬢様は?何か見つけたんですか?」



「うん!錬金術師になって好きな人のお嫁さん……あ、違った、好きな人をお婿さんに貰うの!」



 自信満々に答えると、ジャンが口をあんぐりと開けた。


「思ったのと全然違った……!」


 (そ、そんな驚く……!?しかも何その顔、初めて見たんだけど……!)


 とにかく、ジャンの敬語が崩れるほど、私の答えは予想外だったらしい。

 なんだかおかしくて、声を上げて笑った。ジャンの片耳が少しだけ赤く染まる。


 ポーカーフェイスを崩せたことを喜ぶと同時に、ジャンにはまだ将来の夢がないのだと察して、どこか切ない気持ちになった。


 ーージャンにもいつか、夢が見つかるといいな。


 (……まあ、これから人生長いんだし、いつか見つかるでしょ!うん、きっと大丈夫!)


 こういうのは本人が考えるべきことだ。私があまり心配するのはよくないだろう。


 私は気持ちを切り替え、思う存分庭を散策するため、軽やかに足を踏み出した。

前話から引き続き新キャラ登場です。

ジャンにも幸せになってほしい……(´;ω;`)


アデルの両親も大好きなので、度々登場させたいです!


ブックマークありがとうございます!

次話も直ぐお届けできるように頑張ります!!

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