43.物語の始まり (第一章・完)
第1章ラストです!
「ーーアデル、退院おめでとう。それと、これを受け取ってちょうだい」
「?はい。ーーわ!?これってもしかして、魔法媒体ですか!?」
退院日の前日。
病室でのんびりと過ごしていた私は、突然手渡された贈り物に目を輝かせた。
(わあ!ついに……!!ついに私の魔法媒体が……!!)
雫型にカットされた魔法石が目を引く、とても可愛らしいデザインのペンダントだ。
ゲームの画面で数え切れないほど見た魔法媒体の登場に、自然と胸が高鳴っていく。
何度もお礼を言う私を、母はにこやかに見つめていた。
「そうよ。これは、私の母の魔法媒体だったの」
「お祖母様の、ですか?」
母は昔を懐かしむように目を細めた。
「ええ。私に娘が産まれたら、このペンダントを渡すようにと頼まれていたのよ。……きっと、お母様もアデルを見守ってくれているわ。貸してみなさい。つけてあげる」
母は背後に回って、ペンダントをつけてくれた。よく似合っていると言われて、思わず笑み溢れる。
「あ、そうだわ。折角だもの、何か魔法を使ってみたらどうかしら?」
「はい!ええと……《アルス=マギナ》!っと、わっ!」
今までの学習内容を思い出し、慣れない魔法式を組み立てる。
呪文を唱えると、魔法石に私の魔力が吸い取られていくのが分かった。
魔力を蓄え、魔法石が鮮やかな虹色を帯びていく。
(そっか、全属性だから虹色なんだよね……!わああ、綺麗……!)
魔法式が円環状に表れ、遅れて春らしい小さな花が降り注いだ。
(ま、魔法が!魔法が使えてる……!!待って泣きそう、ううう、良かった……!!)
母は私の頭を優しく撫でながら、「とても上手よ」と褒めてくれた。
そして、私に一通の封筒を差し出す。
「ーーおめでとう、アデル。頑張りなさい」
今朝届いたのだというその手紙を受け取り、中を開く。
「『アデル・シュタイナー殿。魔力の発現、心よりお喜び申し上げますーー』!!こ、これって……!!」
ーーそれは、魔法学園の入学許可証だった。
(貴殿の入学を歓迎するって……!!どうしよう、すっごく嬉しい!!ジャンプしてもいいかな!?)
「アデル?入学してもちゃんと淑女らしくするのよ?」
「は、はーい」
母の目が笑っていない。これは逆らったら駄目なやつだ。
(あはは……。ど、努力はしよう、うん)
「ーーあれ。もう1枚紙が入ってる?」
確認すると、そこには入学前試験の日程が記載されていた。
「入学前、試験……!?」
魔法学園入学まであと1週間。
まさかの試練に、私は頬をひくつかせた。
◇◇◇
窓の外から、うららかな春の日差しが降り注ぐ。
今日という日に相応しい晴天だが、私は自室で先日の試験結果を嘆いていた。
見かねたジャンが私に声をかける。
……従者は辞めてしまったが、我儘を言って入学まではうちに居て欲しいと頼んだのだ。
「お嬢様、まだ気にされているんですか?」
「……気にするよ!私の小さな火の玉、見せてあげようか!?ほら!!これが全力なんだから!」
「……」
私は手のひらに小さな炎を創り出す。どれだけ頑張っても、これが全力だった。
ーー入学前試験は、各国の試験会場で行われた。
今年は少しバタついていたようで、受験したのはつい3日ほど前のことだ。
我が国は魔法騎士団の訓練場が会場だったのだが、私は散々な結果だった。
(封印が解けたっていっても、創り出せる魔力量が少なすぎる……!!)
試験官も、段々と同情的な目で私のことを見ていた気がする。
(しかも、騎士団の誰かが、器用貧乏だって言ってたよね……!そういうの、意外と聞こえてるんだからね!!)
「まあまあ、お嬢様。今日はせっかくの入学式なんですから〜。笑顔です、笑顔!ほら、お前もですよ、ジャン」
ハンナは、鼻歌を歌いながら私の髪を櫛梳っている。
そして、「いつまで居るんですか。お嬢様が着替えるので出て行きなさい。ついでにお前も着替えてきなさい」と言ってジャンを追い出した。
「確か、三つ編みにして、この髪飾りをおつけするんですよね?あ、その前に一度制服に着替えましょうか」
「うん!」
ハンナに促され、真新しい制服に袖を通す。
白のワイシャツに、ワインレッドのネクタイ。
ブレザーのような大きめの襟が付いた紺のケープに、揃いのプリーツスカートが、ゲームそのもので思わず感動した。ケープは腰よりも上の高さまでしかないので、高級感のある革のベルトがアクセントになっている。
スカートは膝くらいの長さに調節し、長めの白靴下を履く。
そして、顔まわりの髪の毛を残して緩めの三つ編みにしてもらい、最後にオズさんの店で購入した髪飾りをつけた。
鏡台の前で、私は自分がゲームのアデルそのものの姿になっていく過程を息を詰めながら見守った。
(すごい……。本当に、私が『アデル』なんだ……!)
「まあ!とってもお似合いです、お嬢様!これは、学園に入学したら益々お嬢様のファンが増えてしまいますね……!!」
「えへへ、ありがとう!……え?何?ファン?」
ハンナが、私のファンは至る所にいるのだと言って胸を張った。
私は苦笑いを浮かべ、誤魔化すように前髪を整える。
魔法媒体のペンダントを身につけ、ふと、少しの哀愁に浸った。
(学園に入学したら、家族には当分会えなくなっちゃうんだよね……)
魔法学園は楽しみだが、それだけが寂しかった。
そのせいか、私は突然脈絡のないことを言ってしまう。
「ーーねえ、ハンナ。ハンナは今、幸せ?」
ハンナは目をぱちくりとさせた。次いで、「勿論です」と力強く頷く。
「お嬢様。私は今とっても幸せですよ。貴女や、奥様のおかげです。……もし学園で辛いことがあったら、いつでも伯爵家に戻ってきてください。私たちは、何があっても貴女の味方です」
「……うん!ありがとう!」
かつて心を閉ざしていたハンナにそう言われて、私は胸がいっぱいになった。
(ーーよし、悲しむのはやめよう!3年間頑張って、笑顔でうちに帰るんだ!)
◇◇◇
ハンナと話しながら、荷造りの最終確認をする。
今夜うちから配達してもらうので、時間はまだまだあるのだが、あれもこれもと言っているうちに、ものすごい量になってしまった。
「やっぱりこれも……、あ、あとこれも持って行こう!」
「……『それ』、本当に持っていくんですか……?」
「勿論だよ!えへへ、けっこう上手にできたと思わない?」
「まあ、確かにお上手ですけども」
そんなことを話していると、階下からジャンの声がした。
「お嬢様、終わりましたか?ーー迎えの馬車が来ています。急いでください」
「わ、ほんと!?急がなきゃ!」
階段を駆け降り、玄関へと向かう。
そこでは、大好きな家族が待っていて、口々に「いってらっしゃい」と声をかけてくれた。
「ーーありがとう!行ってきます!!」
【第一章・完】
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