【幕間】side.???
「……はあ。くそ、今日はいつもより発作が長いな……」
魔法学園内に与えられた自身の研究室で、僕は深いため息をついた。
未だに痛む胸を押さえながら、今日……いや、もう昨夜になってしまったが、何故人助けなんてらしくない真似をしたのだろうかと考え、自嘲する。
(そもそもは、奴が先に出世したせいだよな……。まあ、それは普通におめでたいことだけどさ)
ーーそろそろ新入生が入学してくる時期なので、僕は本当に、ほんっとうに忙しいのだが、学生時代の友人とのふざけた賭けのせいで、遠い地までわざわざ足を運んでワインを買う羽目になった。
購入したワインを手に、仕方ないからその日のうちに届けてやるかと王都に向かい、よくわからない事件に巻き込まれた結果、今に至る。
……まあ、どちらかというと自分から首を突っ込んだのだが。
(いや、だってこれ見よがしに『何かあります』っていう結界があったら、普通気になるだろ)
気づかれないように小さな穴を開けて中を覗いてみると、暗殺者共が女の子を取り囲み脅迫していた。
更には血まみれの青年が居て、うわあこれは絶対に面倒くさいぞと回れ右をしかけたのだが。
ーー少女と青年の命、どちらかを選べと迫っている場面が、視界の端に映った。
流石の僕も、あれを見てイラっとした。
あんな小者の分際で彼らの命を弄んでいるのかと思うと、何故か許しがたい気持ちになった。
(……おかしいな。僕は善良な人間なんかじゃないんだけど)
恐らく、最終的に僕の心を動かしたのはあの女の子だ。
死ぬ直前に言い返していて中々格好良かったので、何となく助けてやろうかと思ったのだ。
助けたこと自体は後悔していないが、彼女が再度気絶する直前に残した言葉が、妙に引っかかる。
(僕を幸せにするって言ってたよな。……意味がわからない。何でそうなった?)
初対面の人間に言う台詞ではない。新手の冗談かと思って笑い飛ばそうとしたが……少女の嘘偽りのない真っ直ぐな瞳に、僕は一瞬気圧されてしまった。
(……あーー。やめやめ。余計なことは考えずに、さっさと仕事を終わらせて早く寝よう)
眠気覚ましのコーヒーで喉を潤しながら、僕は手元の書類をパラパラとめくっていく。
「さて。今年はどんな子が入ってくるんだったかな……っと」
(うわ。去年もそうだったが、やけに王族や高位貴族が多いな。……ここ数年はそういう年なのか?まあ、だからと言って別にどうもしないけど)
その中の何人かに目を留める。
詳細を確認して、口元に自然と笑みが浮かんだ。
「ーーへえ。今年は中々、面白そうなのがそろってるじゃないか」
そして、先程の少女に関する調査書を見つけ、目を見張る。
昨夜魔力が発現したばかりなのに、流石学園長は仕事が速い。
(ーーアデル・シュタイナー。魔力は遅咲きで、16歳の間際で開花。属性は……全属性!?)
「しかも、あのジークフリート・シュタイナーの孫か……」
ーーやっと、色々なことがピンときた。
(……なるほど。道理で『あいつ』が気にするわけだ)
どうせこの少女に、女神の面影でも重ねているのだろう。
「ーー君が僕を幸せにするって?……は、やれるものならやってみろよ」
どうせ今は、世界を滅ぼすまでの暇つぶしでしかない。
ーーそうだろう?
オルフェウス。
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