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33.王都

新編始まります!!


「ーーあ、『言伝ことづての鳥』だ!」


 ある日の昼下がり。


 窓をコンコンとつつく音に、私はふと顔を上げた。

 見れば、可愛らしい二羽の小鳥が、私が気づくのを今か今かと待ち侘びながら、くるくると空中を飛び回っている。


 私は急いで読みかけの本を置き、その子達を自室に迎えいれた。


「差出人は、多分あの2人だと思うけど……っと」


 ーー軽く指で触れると、白の小鳥達は淡く光を放った後、それぞれ2枚の手紙に変化した。

 

 そう。

 この『言伝の鳥』は、遠くの人に言葉を伝えるための魔法具なのだ。所謂、手紙の役割を果たしてくれている。


 (この子達も、錬金術師が創ったんだよね?……なんでみんな、錬金術師を煙たがるかなあ。こんなに素敵なものを創れるのに!)


 そんなことを思いながら、手紙を開く。

 やはり差出人は思い描いた通りの2人ーーリステアード殿下とクリスだった。

 2人とも、建国祭で仲良くなって以来、こうして定期的に手紙を送ってくれている。


「えっと何々、ーー『王都に遊びに来ない?これからは滅多に帰って来られなくなるから、アデルと沢山遊びたいの!』」

 

 リステアード殿下からの手紙も、概ね同じ内容だった。


 (そっか。2人とも、来月には魔法学園に入学するんだ……)


 私はその手紙をなぞりながら、己の醜さを思い知った。


 (誘ってくれてすごく嬉しい。それは本当。2人とも大切な友達だもん)

 


 ーーでも。



 手紙の文字が、私の目からポタポタと零れ落ちた水滴で滲んでいく。



「そっかあ。もう、来月だもんね……」



 ーーでも私は、魔法学園の入学式を間近に控えた今でも、魔力の封印が解けないまま。




 そのことが、人知れず私の心に影を落としている。



 ◇◇◇



 ーーこの世界において。

 体内に魔力回路を有して産まれた魔法使いは、魔法学園入学までに必ず己の魔力を開花させる。

 例外は今まで報告されていない。


 私は魔力回路自体は有しているが、魔力を生み出せないよう、その回路を凍結されている。

 発電所はあるのに、そこで発電することができず、電力を生み出すことができないというイメージだ。

 封印を解かなければ、魔力が発現していないに等しい。

 この状態では、学園入学の許可など降りないだろう。


 ーー15歳の誕生日を迎えた時。

 もしかしたら封印が解けるかもしれないと期待したが、結局何も起こらず。

 

 私は、明確な期限が近づいていることに焦りを感じていた。

 

 (キャラ紹介では、『15歳で魔力を発現し、魔法学園に入学する』としか書かれてなかった。魔力を発現、というより、封印が解けたってことだろうけど……)


 誕生日で駄目なら、一体15歳のいつなのか。

 

 (封印が弱まっている気配もないし。……というか私、来月の誕生日で16歳になるんだけど……!)


 ーーそれでも、まだ1ヶ月ある。

 そう自分に言い聞かせながら、私は2人に了承の返事を書いたのだった。



 ◇◇◇



「アデルー!!こっちよ、こっち!ーーあら、見かけない顔もいるのね!」

「クリス!」

  

 ーー数日後。私はいつものように両親を説得し、ジャンと2人王都へ向かった。

 約束通り、王都に続く正門近くでクリスが手を振っている。

 

 手続きを済ませ、私はクリスと久しぶりの再会を喜び合った。


 ーーそこでふと、もう1人の約束相手であるリステアード殿下の姿が見えないことに気づく。

 

 クリスが「そういえば、伝言を預かってるわよ」と、今思い出したとばかりに私にメッセージカードを手渡した。


 ……開くと、もの凄く長い文章だった。

 

 要は、現在王宮がバタバタしており、それに付随して入学前最後となる公務の進捗が想定よりも悪くなってしまい、今日1日王宮に居なければならないという内容だった。


 どうやら、みんな揃って遊べるのは明日以降になるらしい。

 

 一先ず今日はこの3人で遊ぶことにして、クリスにジャンを紹介する。


「この人は、私の従者兼護衛のジャンだよ。クリスと同じで、今年から魔法学園に入学するんだ。ぜひ仲良くしてあげてね!」


「お嬢様は俺の親か何かですか?」


「えへへ、ごめんごめん。なんか、家族を友達に紹介すると思うと、ね!……ほら、ジャン!クリスに挨拶しないと!」


 (ーー我が子を紹介する時の親の心境みたいになっていたなんて、言えない……!)


 誤魔化すように肘でジャンの小脇をつつきながら促すと、ジャンは「……よろしくお願いします」と見るからに固い挨拶をした。

 

「ジャン?緊張してるの?」


「……貴族のご令嬢にお会いするのは初めてなので」


「ん??一応私も伯爵令嬢なんだけど?……ちょっと!ジャンってば!無視しないで!?」


「ふふ、2人ともとっても仲が良いのね。何だか嫉妬しちゃうわ。ーー私はアッシュフィールド公爵家が娘、クリスティーナよ。こちらこそ、これからよろしくね」


 クリスはひとしきり笑った後、ジャンに向けて淑女の礼をした。

 ジャンが「ほら見ましたか、お嬢様。普通のご令嬢はちゃんと口元に手を当てて笑うんですよ」と言ってきたので、私は微笑みを浮かべながら淑女の連続肘つつきを披露した。


「貴女達本当に家族みたいで面白……コホン、素敵だわ。ーーところで。失礼だけど、ジャン貴方本当に同級生なの?何だか随分と年上に見えるような気がするのだけどーー」


「さ、早速だけど、王都を案内してほしいな!」


 私はクリスの鋭い指摘を受け流しつつ、強引に彼女の背中を押して、王都の大通りに足を踏み入れたのだった。




 ◇◇◇


 

 ショッピングやオペラ鑑賞等を一頻り堪能した後は、ふと目についたお洒落なカフェに立ち寄った。


「ーーへぇ、『推し活』というものがあるのね!何それ、とっても楽しそうだわ!もっと詳しく聞かせてちょうだい!」


 私とクリスは、美味しいケーキを堪能しつつ、様々な話に花を咲かせた。


 ジャンは私の横で、コーヒーカップにゆっくりと口をつけている。砂糖やミルクを一切入れないところが彼らしい。

 ……店内が女性ばかりなせいか、ちょっと居心地が悪そうだ。


 (ジャンごめん。ちょっと待っててね……!)


 ーー私とクリスは、どこをどう脱線したのかは不明だが、何故だか『推し活』の話に移っていた。


 (多分恋バナをしてたから……その流れだったような?)


 私が考え込む間にも、クリスは興味津々に柘榴の瞳を輝かせて私の言葉を待っている。

 

 前世については上手くぼかすことにして、私は深く頷いた。


「うんうん、すごく楽しいんだよ!バッグに推しのグッズを飾ったり、友達と鑑賞会をしたり……!イラストとか文章を書くのが好きな人は、本を出したりもするんだ!あ、あと、誕生日に推しを崇める祭壇をつくる人もいるね」

「?アデルの『推し』はアーデルハイト様なの?」

「いや違うけど」


「祭壇というから女神様のことかと思ったわ」と言いながらも、クリスは私の話を嬉しそうに聞いていた。


 クリスは新しいものや、面白いものが好きらしい。だから私のことも大好きだと言っていた。


 (それは素直に喜んでいいのかな……?まあ、深く考えないようにしよう)


 他にも、色々な『推し活』の話をした。途中、「アデルったら、そんな素敵なことどうやって知ったの?」と聞かれたので、私は特技?の微笑みという誤魔化しの技を駆使して乗り切った。


 すると突然、クリスが頬に手を当てながら意外な発言をした。


「『推し』を模したぬいぐるみとやらなら、私にもつくれそうだわ。あと『コスプレ』も楽しそうだしやってみたいかも」 


「え!?クリス、つくれるの!?」


「あら、言ってなかった?私、裁縫が得意なの。ーー今日のドレスも、私がデザインしてつくったのよ」


 その言葉の意味を咀嚼して、私は驚きの声をあげた。

 

 今日のクリスは、黒を基調とした華やかなドレスを纏っていた。フリルをふんだんに使ったデザインに、瞳と同じ柘榴色のリボンが可愛らしい。


 まさかこれをクリスが1人で縫ったのだろうか。


 (言われるまで全然気づかなかった!もはやプロのクオリティでは……!?)

 

「え、じゃあもしかして、そのヘッドドレスも……!?」

「ふふ、そうよ」

「わあああ、すごい!!」

 

 初めて知った友人の才能に感心していると、折角だから私も一緒にやってみないかと誘われて、一瞬口元が引き攣った。


「あら、嫌だった……?」

「いやいやいや!嬉しいよ!嬉しい、けど!私そういう令嬢らしいことは苦手で……!母様のマナーレッスンだって、いまだに『62点』なんだよ!?」

「令嬢らしいって……。貴女は立派な伯爵令嬢じゃない。大丈夫大丈夫、数をこなせばできるようになるわ!……それよりも62点ってなあにそれ怖い」


 クリスの説得を受け、私は何故だか裁縫にチャレンジすることになった。

 

 (正直、興味はすっごくあるんだよね……!!が、頑張ろう!)


 ーーそうして楽しくお喋りをしていると、ふと視線を感じた。

 私を値踏みするような、嫌な視線だ。

 

 (ん……?何だろう?)


 クリスとジャンに伝えるが、2人は揃って首を傾げた。


「視線?私は特に感じないけど……?それって、アデルが可愛いから、どこぞの貴公子が窓から覗いていたとかじゃないの?」

「俺も感じませんでした。……まあ確かに、お嬢様は黙っていればモテるかもしれませんね」


 クリスはともかく、元暗殺者のジャンがそう言うなら、私の気のせいなのだろうか。

 ジャンの足に蹴りを入れようとして避けられつつ、私は「ごめん、気のせいだったかも」と2人に謝る。


「……でも怖いわね。早く次のお店に行った方が良いかもしれないわ」

「そうですね。ーーお嬢様、行きましょう」


 2人に促され、私は言い表せない不安を感じながらも、カフェを後にしたのだった。

新編始まりました!

編タイトルはネタバレなので隠してます…!このまま行くか、話が進んだ後で変更しようかなと。


評価、ブックマーク、いいねくださった方ありがとうございます!すごく励みになっております!


これからもよろしくお願い致します!╰(*´︶`*)╯♡


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