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28.王子様

殿下登場回です!

「ずっと、貴女とお話してみたいと思っていました」

「ま、まあ。光栄です、殿下」

「どうか私のことはリステアードとお呼びください。……貴女のことは、アデルと呼んでも?」

「はい、ぜひ……」


 ーー私は今、上手く笑えているだろうか。

 



 あの後。

 殿下は硬直したままの私に苦笑しつつも、私の手をそっと掴み、それはもう眩い笑顔で有無を言わさずこの場へと引きず……エスコートした。


 そうして殿下に(いざな)われ、気づけば共に円舞曲(ワルツ)を踊っている。


 私達の他にも、ダンスホールには音楽に合わせて色とりどりのドレスの華が咲き誇っていた。


 現在(いま)は、陛下への挨拶も無事に終わり、貴族達の社交界の時間ーーつまりはダンスの時間だ。


 建国祭では社交界デビューがまだの未成年であってもダンスを楽しむことが許されているため、ダンスホールの隅では幼い子息子女による可愛らしいダンスも散見される。


 (いいなあ。私もできればあっちに混ざりたかった。こんなダンスホールのど真ん中で踊ってると、とにかく目立ってしょうがない……!)


 私は元々、人前で脚光を浴びるのは得意ではないのだ。

 しかし、この国の王子を隅で踊らせるわけにもいかない。

 そう思って何とか羞恥心を堪えているが、殿下を隙あらば狙っている野心家の皆様から今までよりも更に鋭い視線を頂いた。そろそろ身体のどこかに穴が空いてしまいそうだ。


「視線が気になりますか?」

「……はい」


 母様といい、皆心が読めるのだろうか。それとも、私があまりにも分かりやすいのか。


「ふふ、皆アデルに見惚れているんですよ。ーーダンス、お上手ですね」

「そう仰って頂けて安心しました。ですが、皆が気にされているのはリステアード殿下の方かと」


 殿下は柔和な笑みを浮かべ、私の考えを否定した。

 社交辞令かとも考えたが、殿下の瞳に嘘の色はない。


 (……そんなに私って注目されているの?)

 

 ーー今まで建国祭に出席していなかった癖に、王子とファーストダンスを踊るなんて信じられない…といったところだろうか。そもそも普通に私を訝しんでいる人もいるのかもしれない。病弱(設定)なのに元気に踊っているじゃないか、とか。それに、私の家族はみんな有名人(?)だ。付随して私の動向も注目されているのだろう。


 (よくよく考えてみると、気にするなっていう方が無理があるかも……!?)


 私は色々諦めて、大人しく殿下のリードに身を委ねる。

 そして、目の前の現実から逃れようと、ゲームの記憶に想いを馳せることにした。




 ーーリステアード・アレクセイ・フォン・カレンデュラ。


 カレンデュラ王国第三王子で、年齢は私と同じ12歳。

 魔法学園では同級生だ。レアリティは勿論SSR。

 

 こうして実際に会ってみると、同い年には見えない落ち着いた立ち振る舞いや、サンシャインイエローの髪にアクアグリーンの瞳という色合いも相まって、童話の中から出てきた王子様みたいだと思った。


 (……まあ、本当に王子様なんだけど)


 少し長めの前髪は片側のみ耳にかけていて、どこか年齢にそぐわない色香があった。

 常に浮かべている優しい笑みと、指先まで洗練された美しい所作は、きっと彼にとっての武装なのだろう。


「ところで、ご存知ですか?女神アーデルハイトについて現存する記録は少ないのですが……聖女として降臨する前は、人間達が創る文化を眺めることや、天上に咲く美しい花を愛でることが数少ない娯楽だったそうです。世界を救済し命を落とす直前には、色とりどりの花が咲き誇る場所で眠りにつきたいと言葉を遺したそうですよ。それもあり、聖女亡き後、我々のような人間が国を興すにあたっては、みな国名に花の名を冠することにしたのだと言われています」


「まあ。リステアード殿下は物知りですね」


「ありがとうございます。神話が好きで、ついつい調べてしまって……。気づけば詳しくなっていました。アデルは何か趣味はありますか?」


「ええと、何でしょう……」


 趣味は勿論たくさんあるが、別のことを考えていたせいか、直ぐに言葉が出てこない。


 (スマホゲーム……って、これは言っちゃダメなやつだ)

 

 ーーそして、思考がゲームに引きづられていく。

 

 前世において、リステアード殿下は男女問わずファンが多かった。

 メインを飾るキャラだということもあるが、彼にはどこか人を惹きつける魅力があるのだ。

 ……ファンからは爽やか王子だの、天然たらし王子だのと呼ばれていたが、ファン曰く一応褒めているらしい。

 キラキラの笑顔に撃ち落とされた女性は数知れず、彼女達は大体、「おかしい。初見は別推しだったのに、何故か沼に落ちてた。もう出て来られない」だとか、「悔しい。何で好きになったんだろう。結婚したい」といった発言を繰り返していた。殿下恐るべし。

 タイムラインが流れる速度に、思わずちょっと怖くなったほどだ。

 因みに、私がゲームを始めたのも殿下推しの友人に布教されたからである。

 ある意味、魔性の人間は私ではなく殿下だろう。



「アデル?ーーあれ、聞こえてないのかな」



 ……彼は腹黒ではないが、その純粋さと優しさは、ある種の傲慢さを秘めていた。

 勿論、本当は裏切り者だとか、そういうわけではなく。


 ーー後に初代王の再来と謳われるほどの強さを持つが故に、人に優しくする余裕がある。

 例え人に裏切られようと揺らぐことのない強靭な精神を持つが故に、人を信じることができる。


 それはきっと、人の上に立つ者にとって、得難い素質なのだろう。



 (……と、いけない!集中しちゃってた!)




 反省も束の間、リステアード殿下が、その優しさで黙っていてくれたであろう言葉を私に投げた。





「ーー私は、貴女と婚約するのだと思っていました」





「っ!?」


 思わずリステアード殿下の足を思い切り踏みつけてしまう。


「も、申し訳ございません……!」


 リステアード殿下は微笑みながら、「大丈夫ですよ。アデルは天使のように軽いのでよく分かりませんでした」と言った。

 なんて紳士?なフォローなのか。一周回ってちょっと怖いけど。


「ふふ、すみません。少し意地悪を言ってしまいましたね。心ここに在らずといった様子でしたので、つい」

「っ、打ち首だけは!どうか!お許しください!」


 リステアード殿下が、「打ち首とは?」と首を傾げる。

 私のミスに関しては特に気にした様子もなく、ホッと息をついた。

 けれど人として最低だったので、何度も謝罪の言葉を述べた。


 殿下は頷いた後、突然声を顰めた。


「……そろそろダンスも終わりますね。ここでは人目につくので、詳しいことはまた後で話しましょう」

「え?何をーー」


 軽やかにターンをした直後、殿下は私の耳元に唇を近づける。

 内緒話をするかのように、小さな声で私に言った。


「アデル。貴女は両親に狙われているんですよ。......シュタイナー家と王族を繋ぐ架け橋として」

いつもお読みくださっている皆様、ありがとうございます!

ブックマーク、評価、いいね全て嬉しく拝見しております!なななんと100ptを超えました!ありがとうございます!!!嬉しすぎて実は昨日4話プロットを書きました!まだ推敲中なのですが、早くお届けできるように頑張ります!

こっそりお伝えすると、このあとの展開にドキドキしてます。

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