2.ゲームの記憶
私はその日の夜、思い出した記憶を忘れないうちに、ストーリーの大筋をノートに書き出していった。
「基本は魔法が使える世界の青春ものだったけど……」
ーー魔法学園に入学したアデルは、学園で起こる多くの事件を解決しながら、仲間との絆を深めていく。
メインストーリー第一部では主にアデルの成長や学園の仲間との交流が描かれていたのに対し、第二部ではもはや鬱展開しかない悲惨な戦争が物語の主軸となった。
……キラキラの青春ストーリーがどうしてそうなったのか、未だによく分からない。
ついさっきまで魔法学園で楽しい青春ライフを送っていたというのに、何故突然戦争をしなければならないのか。
第二部開始後当初は、突然映し出されたオープニングムービーのあまりの血みどろさに、間違えて違うアプリを開いてしまったのかと、首を傾げたことを覚えている。
「第二部が始まってからの唯一の癒しは、平和なイベストだったよね。あれがなかったら心が死んでたと思う」
期間限定のイベントストーリーは第一部の時から定期的に配信され、季節に関わるものや、異なる学年、学外のキャラとの物語も楽しむことができた。
「懐かしいな。いつも頑張って周回したっけ。……まあ、1番頑張ったのは何かって言われたらガチャだけど」
魔法学園では野外での戦闘訓練も頻繁に行われ、そこでは自身がガチャで手に入れたキャラクター達を操作して戦った。
勿論主人公のアデルも操作可能だったが、第一部におけるアデルの魔力量はかなり低く、アデルとして戦闘面での主だった活躍はなかった。
プレイヤーがアデルを操作する際には、アイテムの使用や簡単な魔法でのサポートが中心であり、主人公の真の力は第二部でようやく解放されることになる。
……第二部での戦闘は、最早思い出したくないが。
そもそも、第一部のアデルの魔力量が低かった理由は、魔力の大部分が封印されていたからである。
本来であれば、全属性……火、水、風、土、氷、雷、光、闇の魔法を使うことができ、その魔力量も一国の軍隊に匹敵するほど多い筈だった。
第二部では戦争を止めるために遺憾なく発揮されていた力だが、その危険性から、大魔法使いであった祖父に封印されていた……ということが第一部終盤で明かされる。
「ーーでも、『先生』は、封印が解けたアデルと同じくらい強かった」
最終局面では、高レベルの仲間達と戦ってもかなり苦戦したことを覚えている。
課金してコンティニューするファンも多かったほどだ。
……第一部のアデルでは、本気を出した先生の足元にも及ばないだろう。
アデルの封印は産まれた直後にかけられているため、私は既に殆どの魔力を失った状態だ。というか、魔力が発現していないに等しいだろう。その証拠に、今まで魔法が使えたことはない。
早急にかけられた封印を解くか、魔法以外の手段も考える必要があるかもしれない。
しかし、封印の解き方については、幾ら考えてもさっぱり検討がつかなかった。
「どうしよう。いい案が思いつかない……。先に他のことを決めようかな?」
ああでもないこうでもないと呻きながらノートに書き散らすこと数十分。
ーーそうして思い出したのが、職業だ。
ゲームの重要な要素として、主人公は第二部開始後、好きなジョブを選択することができた。
聖女、騎士といった王道なものから、召喚士、商人、薬師、歌姫など、10種類もの職業から自由に選ぶことができ、その選択はプレイヤーに委ねられていた。
メインストーリーへの直接の影響はないものの、戦闘面においては非常に重要な選択となる。
戦争が始まってからは、選んだジョブに応じた魔法の習得や、ステータスの向上が期待できるのだ。
前世で最も人気だったジョブは、回復魔法や光属性の強力な魔法を使用できる聖女だった。
「うーん、でも、『聖女』はなんか違う気がするんだよね」
何となく、それでは駄目だと感じる。
理由は分からないが、胸がキュッとした。私はそれを不思議に思いながらも、必死に思考を巡らせる。
やがて閃いたのは、少ない魔力量でも努力次第で無限の可能性を秘めた、あの職業。
「……『賢者』」