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25.お騒がせな夫人

本日2話目です!

「アデル・シュタイナーです。本日は宜しくお願い致します」


 私は当たり障りのない挨拶を返した。母と練習したカーテンシーを披露する。


 (よし、できた……!)


 安心したのも束の間、周囲の囁き声が耳に入った。

「やはり……!」「あの子が……!アリシア様と瓜二つだわ!」

 ーーといった声が聞こえてきて、少し落ち着かない気持ちになる。


「アデル様。お会いできて光栄ですわ。是非わたくしと仲良くしてくださいね」


 断る理由もないので、取り敢えず頷く。しばらくは平和に世間話のようなものが続いていたのだが。


「ーーところでアデル様、貴女の魔法属性をお聞きしても?」


「!」


「ベネット夫人」


 母が険しい顔で割って入った。しかしベネット夫人は無邪気に微笑んでいる。


「まあ、アリシア様。……貴女様の優秀な『娘』でいらっしゃるのですもの。さぞかし素晴らしい属性をお持ちなのでしょう?ふふ、勿体ぶらずに教えてくださいな」


 母がこっそりと、魔法石があしらわれた扇子を握る手に力を込める。


 (だ、駄目です、母様……!こんなところで魔法を使っては!)


 私は慌ててベネット夫人に言葉を返した。


「残念ですが、私の魔力はまだ発現していないのです」


 ーー私の魔力が封印されていることを知っているのは、家族と、信頼できる使用人、そしてお祖父様の知人である魔法学園の学園長のみ。詳しい理由については知らない者の方が多い。

 ……魔力を封印するなど、前代未聞だ。

 それほど強い魔力を有していると知られれば、私は様々な者達に狙われてしまうだろう。そのため、私の魔力については箝口令が敷かれている。


 ベネット夫人は私の言葉を聞いて笑みを深めた。隣で伯爵も笑っている。


「まあまあまあ!アデル様、お可哀想に!お身体も弱く、魔力もないとあれば、これからさぞ苦労されることでしょう。……わたくしだったら耐えられませんわ!」


 (わあ。どっちも嘘だけど、確かにそうやって聞くと貴族社会では生きづらそう)


 ーーそして、私はようやく、両親が彼らを嫌う意味を理解した。

 どうやら、人を馬鹿にするのが趣味の人達らしい。


「ベネット夫人。言葉が過ぎます。これ以上続けるようなら、然るべき対応を取らせて頂きますが」

 

 父が前に出て、私を庇った。よく見れば、扇子を開こうとする母の手を笑顔で押し留めている。


 私は、家族に愛されているんだなあと実感した。

 そのため、特に落ち込みはしない。


 (ーーというか、前世でも居たよね、こういう人)


 何だか懐かしい気持ちになる。ブラック企業に勤めていた頃の記憶が蘇ってきて、遠い目をした。


 ーーブラック企業には、様々な人間が居るものだ。ベネット夫人のような人も、1人や2人ではなかった。そんな人達を前にし続けた私が身につけた処世術は、『相手にしない』ということ。

 こういう人に嫌味を言われた時は、気にする方が損だ。相手を楽しませるだけになる。

 だから、相手にしてやる価値もないと、にっこり笑ってスルーするのが正解だ。

 言い返しても揚げ足を取ってきて面倒臭いし、その労力を費やす時間が勿体無い。


「……アデル様?何とか仰ったらどうなの?」


 しかし、直接言葉を求められたので、思っていることを正直に話すことにする。


「これから魔力が発現することを願っていますが、もし発現しなかったとしても、私はシュタイナー家の一員として、己にできることをしていくだけです」


 淡々と返答すると、ベネット夫人は可愛らしい顔を歪ませた。


「……何それ。ちょっとは悲しんだらどうなの?その生意気な目も、『お姉様』そっくり。気に入らないわ」


「わあ」


 小声だったけどばっちり聞こえた。両親もそうだったようで、遂には父まで臨戦体制を取っている。


 (だから駄目だってば……!)


 私がどう収集をつけようか考えていると、そこへ王宮の使用人がワインを勧めに来た。

 どうやら話の切れ目をずっと窺っていたらしい。

 私にはジュースを勧められたが、「大丈夫です」とお断りした。

 

 ベネット夫人は、手に取ったワイングラスをじっと見つめる。

 そして、突然足をよろめかせた。


「ああ、わたくしったら……!」


 そのものすごいわざとらしさに、思わず笑ってしまいそうになった。

 どうやら、次は物理攻撃をしかけることにしたらしい。


 (魔力があるのが自慢なら、魔法を使えば良いのに。……他の人の目があるからできないのかな?)


 なんて呑気に考えていたが、グラスが手から離れていくの見て、直ぐに頭を切り替える。


 (ーー遅い!)


 ジャンやお祖父様、それにあの『剣』に比べたら、欠伸が出そうなスピードだ。


 私は片手で中身が溢れないようにグラスをぱしっと掴み、空いたもう片方の手で、ドレスの裾を踏みつけて本当に転びそうになっていた夫人の腰を抱いた。私達を遠巻きに見ていた貴族達から、歓声が上がる。



「……お怪我はありませんか?」



 嫌味を言ってきた相手だが、そのまま転んで怪我をすれば良いとは思えなかった。

 なのでついつい助けてしまい、気恥ずかしくてやんわりと微笑む。


「な……、な、な……!」


「な?」


「何なのよ貴女!頭おかしいんじゃないの!?お姉様よりもタチが悪いわ!」


 ベネット夫人は顔を真っ赤にして金切り声を上げた。至近距離で叫ばれ、若干耳が痛い。

 言葉遣いが先ほどよりも乱れているが、こちらが素なのだろうか。

 ……ベネット夫人のお姉様は存じ上げないが、その人もこの夫人に苦労されているのだろうと察する。


 (それだけ話せるなら、怪我はなさそうかな?)


 私は夫人からゆっくりと手を離した。ベネット夫人は私から距離を取り、ぶつくさと呟き始める。ベネット伯爵が静かにしなさいと咎めているが、夫人は止まらない。


「ーー大体お姉様だっておかしいのよ!地味な土属性の魔法使いのくせに、王宮魔法使いへの内定をもらうなんて!ムカつくから婚約者を奪って社交界で悪評を流してやったけど……気づいたらどっかにいなくなってるし!早く戻ってきて私の世話をしなさいよ!」


「は?」


 ーーその言葉を聞いて、少し前に別れたハンナの顔が頭をよぎった。涙を堪えて、最後には「大好き」と言ってくれたことを思い出す。


 (ちょっと待って聞き捨てならないんだけど。それってもしかしてハンナのこと?)


 シュタイナーの血が、私の考えが正解であることを告げる。

 よく見れば、ベネット夫人の濃い化粧の奥に、ハンナに似た面影があった。


 私は、意外と冷静だった。人は余りにも怒りを抱くと、一周回って落ち着いてしまうらしい。


 ーー成る程。ハンナが王宮に来たがらないのがよく分かった。


 次いで、ベネット伯爵に目を向ける。優男のように見えるが、その本性が分かると気持ち悪い。

 

 (この人が、ハンナにあんな顔をさせた元婚約者……。ん?もしかして、この人、婚約者の妹と浮気したの?)


 ーー一体何がどうしてそうなったのか。倫理観はどうなっているんだ。

 薄ら寒いものを感じて、肌が粟立つ。

 その後、私は夫人に負けじと無邪気な笑みを浮かべて、母に小声で話しかけた。


「母様」

「……ごめんなさい、アデル。少し頭に血が上っていたわ。折角アデルがこの場をおさめてくれたのだもの。後で『大人の力』で何とかするからこの場では我慢しましょう。だからそんなに怖い顔をしないでちょうだい」


 母が何故か困り顔でそう言った。


 ……結局、母の許可を得ることができなかったので、この場で追及することは叶わなかった。


 代わりにとばかりに父がベネット夫妻を睨みつける。


「ーーベネット伯爵。貴方の考えはよく分かった。今までは先代の顔に免じていたが、貴方との取引は全て白紙にさせてもらうことにする」


 父はそう告げると、ベネット夫妻を置いて、私達を連れて大広間の奥へと向かう。後ろでベネット伯爵の怒鳴り声が聞こえたが、私達は聞こえないふりをした。


「ウィリアム、私は貴方の英断を尊敬するわ。心配しないで。次の取引先はもう見つけてあるの」

「流石だなアリシア。……君と結婚して本当によかった」





「ーーよくない!」




「え?」


 折角良い雰囲気になっていた両親の声を遮ったのは、確か入場口で、キャンベル公爵と呼ばれていた人物。

 よく見ると父そっくりの髪と瞳を持つ彼は、私にとって衝撃の一言を放った。



「兄上を奪った女狐め!今日こそ離婚して兄上を返せ!」


お待たせしてしまい、申し訳ございません!色々と私生活の方がバタバタしておりました!


いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!皆様のおかげで、ここまでお話を続けることができております!╰(*´︶`*)╯


新キャラも続々登場します。ぜひこれからの話もお楽しみにして頂けると嬉しいです!

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