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22.メイドと過去

「ねえハンナ、この問題なんだけど……」

「はいはい、どれですか〜?」

「ここまでは理解できたんだけど、この次からが分からなくて。何でこの式になるの?」


 ーー私は今、お祖父様から出された課題に取り組んでいた。

 途中までは何とか自力で解けていたのだが、この『魔法理論』に関してはどうしても答えが導き出せない。問題は、2つの事象を組み合わせた魔法を使うためには、どのように魔法式を変換すれば良いのか、というものだ。

 問題集付属の回答を確認したが、お祖父様によるものすごく高度な解説が羅列されており、さっぱり意味が分からなかった。これは最早研究論文の域に達している気がする。……お祖父様、どうか初心者の私にも分かるよう、優しく教えてください。


 該当箇所を指で指し示しながら尋ねると、ハンナはむむ、と眉間に皺を寄せた。


「確かに、初めて考える時は難しいかもしれないですね。ーーお嬢様、少し見ていてください」


「《クルトューラ=フィオレンテ》」


 ハンナの詠唱とともに、魔法石のブローチが淡く発光する。次いで、魔法式が円環状に描かれると、マーガレットやビオラといった、色とりどりの冬の花が舞い降りてきた。

 思わず目を輝かせる私に微笑みながら、ハンナは先程の問題の解説をしていく。


「属性型魔法の場合は、自分で魔法式を組み立てて魔法を使います。逆に言えば、呪文で魔法式が固定されず、どんな魔法文字や魔法数字も組み合わせることができるんですね。先程私は、『冬の花を咲かす』という意味の魔法式を組み立てました。まず『冬』とは何か、という事象の説明を入れます。それがこの式です。『花』も同じように式を立てます。次に、この式に対応した魔法を発現させるため、私の呪文と繋げます。この式を私の呪文に合わせて変換するんです。変換方法は……そう、この法則に当てはめて、式を変形します。2つの式から解を導いたら、その魔法数字を魔法単語に変換するためにーー」


「ま、待って!?」


 折角解説してもらっていたが、思わず声をあげてしまった。


(む、難しい!!何それ、魔法ってそうなってるの!?)


 基礎編では知り得なかった事実に驚く。


「まあ、お嬢様ったら」

 ハンナは微笑ましいものを見るかのように微笑んだ。

 

(というか、ハンナってもしかしてすごく頭がいいんじゃ……!?喋り方もいつもと違うような気がしたし……!)


 慄く私を他所に、ハンナは何でもないという顔をしている。


「確かに魔法理論そのものは難しいですが、慣れれば直ぐに暗算でできるようになりますよ〜」


 ーーゲームでは、あんなにスラスラと魔法が使われていたというのに。

 信じ難いことに、魔法は数学だった。魔法使いはみんな、こんなよく分からない計算を頭の中でしているというのか。そう考えて少しだけ絶望してしまう。


「お嬢様、非属性型魔法はもっと難しいんですよ〜?誰が使っても同じ効果が出るようにするには、さらに細かく計算しないといけないんです。だから、『創作魔法』の選択科目を取る人は少なくてですね……」


 私は話を聞きながら、問題集を埋めていく。

 全て解き終わると、ハンナがご褒美にお茶とお菓子を持ってきてくれた。

 2人でお茶をしながら、ふと、私はハンナのことを未だによく知らないのだと気づく。

 そこで、課題がひと段落したこともあり、気になることを色々聞いてみることにした。


「ハンナの魔法石って自分で選んだの?得意だった授業は?好きな行事は?……気になる人は居た!?」


 私が矢継ぎ早に質問しても、ハンナは怒らなかった。「質問が多いですね」と笑いながらも答えてくれる。


「私の魔法石は、両親からもらいました。貴族では比較的そういう人が多いですね。ふふ、初めて魔法を使った時は、自分の属性の色に染まる魔法石を見てはしゃいだものです」


 ーー魔法石は、最初は色を持たない透明な石だという。

 初めて魔力を込めた時に、属性に応じた色に変化するのだそうだ。

 ハンナは土属性の魔法使いなので、魔法石はアンバーに似たブラウンの輝きを放っている。


(でも、確か魔法石の流通経路は国家……いや、世界機密なんだよね)


 魔法石を入手する方法は、実は2つしかない。

 先祖代々受け継がれている魔法石を譲り受けるか、国が管理している魔法石を購入するか。 

 そのため、魔法石そのものを一体どこで手に入れることができるのか、普通の魔法使いでは知り得ないのだ。


 ーー魔法石を、私も早く身につけてみたいと思う。


「いいなあ……」

「ふふ、お嬢様もいつか魔力が発現したら頂けますよ。きっと直ぐです」


 私が思わず呟けば、ハンナが優しく慰めてくれた。

 

 優しい。好きだ。ハンナを泣かせる人が居たら、私が絶対許さない。

 ーーと何故か心の中で告白しつつ、ハンナに魔力の封印について伝えた時のことを思い出す。

 その際も、ハンナは深く理由を聞くことはせず、「お嬢様も早く魔法が使えるようになるといいですね」と応援してくれた。

 私は改めて、ハンナの存在に感謝する。


 その後も、得意科目は魔法薬学だとか、好きな行事は意外にも体育祭だとか、魔法学園の思い出話に花を咲かせた。


 ーーそして。


「ところでお嬢様、建国祭の準備はよろしいのですか?もうあと1週間後に迫っていますよ?」

「や、やめて!言わないで!そのことについては忘れようとしてるんだから!」

「忘れたら駄目ですよ。お嬢様の可愛らしい首がさよならしてしまいます〜」

「さらっと怖いこと言わないで!?」

 


 そして。

 ……『気になる人』には、一切触れられることはなかった。

お読み頂きありがとうございます!

いつもブックマークや評価、いいねに励まされております。本当にありがとうございます!


気づきにくい位置に更新してしまい申し訳ないのですが、番外編を幼少期編の最後に追加しました。

是非こちらも合わせてよろしくお願い致します!ジャンの過去が分かるかも!


また、もしよろしければ、下の評価ボタン☆から評価をして頂けますと、とてもとても嬉しいです。


これからも多くの展開が起こる予定です。是非引き続き作品を応援して頂けますと、とても嬉しく思います!

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