21.波乱の予感
「ーーところでアデル。貴女王族に興味はある?」
「はい?」
ーーそう聞かれたのは、確か私が8歳の時だったと思う。
ある日の午後。
母とティータイムを満喫していた最中、突然よく分からない話が始まった。
「王族に興味って……。母様、それはどういう意味ですか?」
質問の意図が掴めず、頭に疑問符を浮かべる。
(興味?うーん、あるといえばあるような、ないといえばないような……)
そもそも、私は王都を訪れたことさえない。
収穫祭以前は、パーティーに招かれても病欠を理由にお断りしていた。……マナーやダンスがあまりにも不安だったためだ。両親は気にしなくていいと言ってくれたが、上達するまで参加したくないという私の意思を尊重してくれた。
例の事件の後は、私の身を心配した両親が頑なに遠出を許さなかった。あの剣が再度襲来することはなかったので、最近は緩和されているが。
母は私の問いには答えず、柔らかく微笑む。
「難しく考えなくて良いのよ。例えば、そうね。王家の方々と関わりを持ちたいと思う?」
私は目をぱちくりさせた。
ーー建国に携わったとされる各国の王侯貴族達は、魔力が強い傾向にあるという。
そのため、ゲームのメインキャラはロイヤルな家系の者が多い印象だった。王族のキャラも多数登場していたのを覚えている。
もしかして母は、今後そのような高貴な方々と会う機会が多くなると伝えたいのだろうか?
(王家主催のパーティーがあるとか?)
しかし、関わりたいかと言われると、何とも言えない。
私は正直に、「よく分かりません」と答えた。
母は「そう」と頷いたきり、別の話題に切り替えてしまったので、私はその会話について深く考えることはなかった。
◇◇◇
「私も遂に12歳かあ……」
そうつぶやいて、ベッドに寝そべる。母が見たら怒るだろうが、今は1人なので許して欲しい。
ーー私の顔立ちは、段々とゲームのアデルに似てきている。
ジャンもそうだ。身長が一気に伸びて、更にイケメン度が増している。屋敷のメイドからも多数告白されていると聞いた。
着実にメインストーリーの開始が近づいていると感じるが、私の魔力は未だ発現しないままだった。そのことに少しだけ不安を抱いてしまう。
しかし、嘆いてばかりでは何もできない。
今まで通りできることをやるしかないのだ。
己を奮い立たせ、私は日々勉学に励んでいった。
お祖父様のスパルタ教育により、魔法の基礎は学び終えて、今は応用編を勉強している。
更には、何故だが両親の指導のもと、領地経営の勉強も開始された。
母曰く、将来どんなヒモを連れてきても良いように、だそうだが、母は一体何を心配しているのだろうか。
ジャンとこっそり練習していた護身術?は、例の事件の後、晴れて家族公認となった。
お祖父様や父様も指導に加わるようになり、私は確実に強くなっている。……護身術の域を超えているような気もするが、その事実からは目を逸らすことにした。
今日は特に勉強の予定が入っていないので、ベッドの上でゴロゴロと転がりながら何をしようかと考える。
(このままお昼寝とかしちゃってもいいかな……!)
普段であれば許されない行為をしてみようかと胸を弾ませるが、部屋の扉を叩く音が聞こえてしまった。
「お嬢様、いらっしゃいますか」
「はーい!でも絶対開けたら駄目だよ!」
「……さては、ネグリジェから着替えずに自堕落に過ごしていましたね?」
「な、何で見てないのに分かるの!?」
やれやれと呟くジャンに顔を引き攣らせながらも、私は部屋着に着替え始めた。
◇◇◇
階段を降りると、既に両親とハンナが待っていた。
何だか暗い雰囲気が漂っている。嫌な予感がして、私の方から口火を切った。
「父様、母様。どうされたのですか?」
しかし、両親は言葉を濁す。私は不思議に思いながらも、両親の言葉を待った。
やがて母が、意を決したように口を開く。
「あのね、アデル。実はーー」
「ーーどういうこと!?」
私の嘆きに、ハンナが頷く。
「まさかお嬢様が王家から婚約を申し込まれていて、それを奥様が断っていたとは思いませんでしたね〜。しかも、『病欠が嘘なのはバレている。不敬罪に問われたくなかったら顔を見せに来い』と言われてしまったなんて……ご愁傷様です」
ハンナはどこか疲れた顔をしていた。王宮で婚約者から一方的に婚約破棄されたという過去のせいで、王宮にはあまり良い思い出がないのかもしれない。
ジャンに助けを求めようと目を向けるが、何故か遠い目をしていた。私の視線に気づき、「無理です」と答える。
ーー王家の紋章が描かれた書状には、来月の建国祭には必ず参加するようにと書かれていた。
わざわざ玉璽が押されていたのが圧を感じて恐ろしい。
「ぜ、絶対怒られる流れじゃない!?ううう、どうしよう……!」
両親は、最悪お祖父様に頼んで何とかしてもらうと言っていたが、お祖父様を国との間で板挟みにするのは申し訳ない。
「そうだ、ジャンとハンナも着いてきてよ!」
「「嫌です」」
我ながら名案だと思ったのだが、2人に笑顔で拒否された。
特にハンナには、言うべきではなかったかもしれない。
私は項垂れながら、どうやったら欠席できるか考える。
しかしどれだけ考えても良い案は思いつかず、建国祭の日が近づいていった。
建国祭編スタートです!遂に領地を飛び出します!
アデルは12歳になりました……!!
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長期連載の覚悟を決めたので、これからの展開も楽しみにして頂けると嬉しいです!