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20.不穏な影

 (何、これ……)


 飛来してきた剣は、私の直ぐ側に厳然と突き刺さっている。

 刀身は、不気味なほどの黒金色。

 (つか)には何かが埋め込まれていた跡を思わせる窪みがあった。


 あまりの禍々しさに、私は得体の知れない恐怖をおぼえる。


 ……何故この剣は、私を狙っていたのだろう。

 ーーしかも、明確な殺意を持って。


 (……ゲームでもこんな剣、見たことない。アデルはメインストーリー開始前、誰かに命を狙われていたの?)


 分からない。折角ゲームのストーリーを思い出したというのに、知らないことが多過ぎる。


 ……確かにあのゲームは、謎が謎を呼び、考察班を唸らせるようなつくりをしていたが。


 もしかして、私達ファンの知らない裏設定なるものが存在しているのだろうか?


 ーーなどと考え込んでいたせいか、私はその異変に気づくことができなかった。

 突然、ステージがミシミシと不吉な音を立てて崩れていく。


 

 (しま……っ!?)



 ーー遠方からもよく見えるようにと、ステージはかなり高めの位置に設置されていた。


 どうやら、先程の衝撃で足場が崩壊してしまったらしい。

 そのことを理解したのは、既に体が宙に投げ出された後だった。



 (待って、この高さから落ちたら流石に助からない……!)



 反射的に強く目を瞑る。

 しかし、それだけで落下が止まるわけもなく。


 (っ、誰か、助けて……!)


 心の中で強く願った、その時。

 よく知った声が、私の耳に届いた。






「ーー《ヴェントゥス=レベリオ》!」






「!」




 もう駄目かも、と思った瞬間、ふわりと優しい風に包まれる。 

 私は、その魔法に覚えがあった。



 (父様の魔法だ……!)



 落下が緩やかになり、空中で体制を整える。

 助かった、とホッと息をついた。

 そのまま、ゆっくりと下降していく。


 下方で家族が顔を真っ青にしているのが見えた。

 その中で、ハンナが口を引き結び、覚悟を決めたようにブローチに手をかけるさまが目に映る。



「……お嬢様!着地はお任せください!ーー《クルトューラ=フィオレンテ》!」




 ハンナの詠唱と共に、巨大なゴーレムが出現する。


 ーーハンナが人前で魔法を使うのは初めて見た。

 王都での一件以来、トラウマになったと言っていたのに。


 (お庭のお世話も、誰も見ていない時にしか絶対やらなかったのに……。っ、ハンナ、ありがとう……!)



 後で絶対にお礼を言おう。

 


 やがて、地面が近くなる。

 


 私はゴーレム達に抱き止められ、無事こと無きを得たのだった。




 ◇◇◇



 ーーその後。


 お祖父様があの不気味な剣を引き抜こうとしたところ、剣はひとりでに何処かへと飛び去ってしまった。

 総員で攻撃魔法を放ったが、かすり傷ひとつ与えられず、皆悔しい思いをしたのは記憶に新しい。


 ……結局、剣の正体は分からずじまいとなった。

 私も、ゲームで未登場の剣に対して、どう対応すれば良いのか判断に迷っている。

 

 ーーお祖父様の結界さえも通過してしまう剣に対して、一体どう対策すれば良いのか。


 少なくとも、今の私では対抗する手段がない。


 お祖父様曰く、引き抜こうとした際に魔力がかなり弱まっているのを感じたそうなので、当分は大人しくしていると信じるほかなかった。


 収穫祭のお客様には、悪戯に不安を煽るのはよくないとし、あれはパフォーマンスの一貫だと説明した。嘘をつくのは良くないことだが、国の要であるお祖父様が太刀打ちできないと分かれば、国が混乱に陥る恐れがある。そう推察した結果の判断だった。



 ーー私は、最終日の夜、空に浮かび上がるランタンを見つめながら、心の中で祈った。




 (ーーどうか、私の望む未来に辿り着けますように)



 それが難しいということは、既に何となく予感している。

 でも、たとえどんな困難が待ち受けていようと、私は諦めるつもりはない。

 



 ーーランタンの撤収後、ミシェルさんやメイナードさん、魔法騎士団の皆さんなど、お世話になった方々に挨拶を済ませ、一先ず収穫祭は終了を迎えたのだった。





「アデル」

「お祖父様!いらしてくださったんですね!」


 収穫祭から4日経ち、私はすっかり日常に戻っていた。


 お祖父様は私を心配して、王宮魔法使いや魔法騎士団のとんでもなく偉い人を呼び寄せようとしていたが、私は丁重にお断りした。全員休暇があるのか疑わしいほどのお忙しい人達であるし、正直、お祖父様が敵わない時点でなるようにしかならないとも思う。


 (何となく、当分は大丈夫だと思うんだよね)


 両親に至っては、金に糸目はつけないと、世界中から護衛を招集しようとしていたため、どうにか説得して辞めさせた。


 (あの時は大変だったなあ……)


 ジャンやハンナも何故断るのかと怒っていたが、預言の一族の血が今は大丈夫だと告げていることを言えば、渋々だが分かってくれた。

 

「アデルや。これを受け取ってくおくれ。気休めにしかならんかもしれんがのう……」


 お祖父様がいつになく落ち込んでいる。

 弱気な言葉と共に手渡されたのは、組紐に破魔の鈴が通された腕飾りだった。


 お礼を述べた後、お祖父様に元気を出して欲しくて、笑顔で告げる。


「お祖父様も預言したと思いますが、当分は大丈夫なはずです。あまり落ち込んでいては、あちらの思う壺ですよ!」


「……。ふむ、そうか。それもそうじゃのう……」


 その後、覚悟を決めたかのようにお祖父様は私に向き直った。


「よし。こうなったら、アデルを国1番の魔法使いに鍛えて、あの剣に打ち勝って見せようぞ!」


「そうと決まれば、早速カリキュラムの見直しじゃ!」と叫ぶお祖父様に喜んだのも束の間、お祖父様の講義が来週から想像を絶する難易度に上がってしまい、私は泣きながら喰らい付くことになるのだった。

いつもお読み頂きありがとうございます!

今話では父様とハンナの呪文が出せました!


実は原作のゲームには、アデルが知らない要素も多数存在しており、この剣もそのひとつです。

いずれそれらの謎についてもお届けできたらと思います。


また、昨日で投稿を始めて1週間でした!これまで続けて投稿できたのも、読んでくださる皆様のおかげです!本当にありがとうございます!


そして久しぶりに読み返したら初期の方が拙く……(´;Д;`)

現在改稿しております。以前の文章よりも良いものになるよう、全力で頑張っております……!


※改稿にあたり、キャラの容姿の表現や、魔法の属性を一部変更しております。

ご了承頂けますと幸いです。

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