19.豊穣の舞
「ううう、お嬢様、お綺麗です〜!舞もこんなに上達なさって!ああっ、何ですか今の笑顔!な、流し目まで……!?素敵すぎますお嬢様〜!」
「落ち着きなさい、ハンナ。最初からそんなに泣いてどうするの」
ーー豊穣の舞が始まった。
私は、夫や伯爵家の使用人達と、特等席で娘の成長を見守っている。
アデルは、初期とは見違えるほど軽やかな舞を披露していた。
そこに、人間離れした無機質さはない。
心からの笑顔を振りまく娘を見て、どこか心がほっとするのを感じていた。
親の贔屓目と言われるかもしれないが、アデルは今までのどの舞い手よりも美しく輝いているように見えた。
「アデル〜!お前、いつの間にこんなに上手くなったんだ!う、ううっ、何だか直ぐに大人になりそうで父様は寂しいぞ……!」
「……ウィリアム、貴方もなの」
普段からアデルを溺愛している2人は、開始早々クライマックスかのように号泣している。
手巾が足りるかしら、なんて考えていると、ステージ横に居たはずの父が、客席にやって来た。どうやら、ジャンと立ち位置を交代するらしい。
「ふぉっほっほ。アリシア、そうめくじらを立てるでないぞ。客席もハンナとウィリアムどころじゃないくらい感動しておるわい」
父の言う通り、観客はみな、アデルの舞に見惚れ、熱い視線を向けている。
「お父様……。そうね」
そこで、娘と目が合う。
私は自然と、かつて『妖精姫』と称された頃の笑顔を浮かべた。
「ーーアデル。よく頑張ったわね。母様は、とても誇らしいわ」
◇◇◇
(よし、順調!このまま最後まで……!)
緊張したのは最初だけで、始まってしまえば自然と楽しさの方が上回っていった。
客席からも歓声が聞こえ、自分の舞に自信がついていく。固くなっていた表情も和らいでいくのを感じた。
先ほどは母と目が合い、にこやかに微笑まれた。私の初期のダンスを知っている母に褒めてもらえたようで、嬉しくなる。
次はここでターン、と身を翻した。
ーーその時だった。
「っ⁉︎」
(な、何……⁉︎)
全身に悪寒が走る。
お祖父様から頂いた鈴が、まるで私の身代わりになったかのように鋭い音を鳴らして落ちた。
ーー何か、よくないものが来た。
そう感じた次の瞬間、前方の空がきらりと光った。
それはあまりに一瞬だったので、気づいたのは私だけだったかもしれない。
ーー禍々しい何かが、私に向かって、一直線に飛んで来ている。
気づいたお祖父様が結界を貼るのが見えたが、私の直感が、『それ』は結界を貫通してやって来るぞと告げていた。
(っ、避け、れる……!)
飛来物は、私めがけて飛んできている。
先ほど右足をずらしたところ、それに合わせて『あれ』も向きを変えた。狙いはやはり私のようだ。
……追尾してくるのなら、ギリギリまで引き寄せてから避けるしかない。
(大丈夫!避けれる!)
気持ちから負けては駄目だと、強く思い直す。
ーーこちらは元暗殺者直々の指導の元、日々トレーニングを積み重ねているのだ。
目を瞑っていても避けれるようにと、体を木に固定し、目隠し状態で体スレスレにナイフを投げられた時には、死ぬかと思ったけど……!
まさかその経験が今生きようとは。ジャンに後で感謝しなければ!
「私はまだ死ぬわけには…いかない、から……っ!」
ーー来た!
間一髪、体を逸らす。
次の瞬間、耳を劈くような轟音が響き、私の横に何かが突き刺さった。
煙が晴れて、その存在を視認する。
(剣……?)
ーーそれは、漆黒の剣だった。
◆◆◆
魔法学園における貴重な1週間の秋休み。
いつも通り勉強でもして過ごすかと考えていたところ、カレンデュラ王国出身の友人に、自国の祭りに一緒に行かないかと誘われた。
断ろうとしたが、あの有名なジークフリート・シュタイナーの産まれた地であり、彼自身も祭りに参加すると聞いて興味を持った。
そのせいか、友人に半ば押し切られる形で、この収穫祭とやらに足を運ぶことになったのだった。
「あの女の子、一生懸命で可愛いな!」
「へえ」
僕のやる気のない返事に、友人が「見てないだろ!」と声を上げた。
「ほーら!いいからお前も見てみろって!」
「……分かったから押さないでくれる?」
仕方なく前方の少女を見る。豊穣の舞とやらを懸命に踊っているのを確認し、「……ふーん、悪くないんじゃない」と呟いた。
「は?それだけ?」
「それだけって何?他に何を言えって?ああ、あの子を見てると若干胸が苛つく気がする」
「苛つくってなんだよ!?」
ーー何だよと言われても、自分でもよく分からない。
『いつもの発作』とはどこか違うような気がするが、何故か同じくらい胸が痛かった。
そして、次の瞬間。僕は驚愕に目を見開くことになる。
「は……?」
ーー何で、『あれ』がここにあるんだ?
今回も大事な話です!
お待たせしてしまいすみません、表現に少し迷っておりました……(´;Д;`)
自分が納得できるまで書き直しました!
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