18.収穫祭最終日
収穫祭初日は、大盛況の中幕を閉じた。
その評判は人伝に伝わっていき、翌日からは更に大勢の観光客が領地へ押し寄せることになった。
私はというと、ミシェルさんやメイナードさんを案内しながら再び収穫祭を楽しんだり、主催で忙しい両親のお手伝いをしたりと、充実しながらも忙しない日々を過ごしていた。
ーーそして、迎えた最終日。
私は、ジャンとハンナに見守られながら、最後の練習に勤しんでいた。
「アデルや。よく頑張っておるようじゃの」
「お祖父様!」
レッスンルームの扉が開き、お祖父様が顔を覗かせた。お祖父様は魔法騎士団の皆さんと収穫祭を楽しんでいたので、会うのは収穫祭が始まってからは初めてだ。
私は先日の感想を伝えようと、足早に駆け寄る。
「お祖父様、ショーでは素晴らしい魔法を見せてくださってありがとうございました!すごくすごく楽しかったです!」
「ふぉっほっほ。そう言ってくれると頑張ったかいがあったわい。ーーのう、ジャン」
お祖父様がどこか楽しそうな笑みを浮かべながらジャンを見た。ジャンが涼しい顔で「そうですね」と答えたきり黙っていると、お祖父様はさらに笑みを深めた。
ーー私はそんな2人を見ながら、例の預言について思い出す。
「……あの、お祖父様」
「ーー預言のことじゃろう?」
流石はお祖父様。私の言いたいことはお見通しらしい。
「それがのう、儂も今回の預言には頭を抱えておるのじゃ」
「!」
あのお祖父様が、頭を抱えている?
一体どんな不吉な予言なのかと、思わず身を固くした。
ーーお祖父様曰く。
私が豊穣の舞を踊ることで、最悪の結果から逃れられる。
但し、別の禍に十分注意せよ
……といった内容の預言をしたと言う。
「アデルを怖がらせてしまうかと思っての。言うか言うまいか迷っておったんじゃ。……危険を伴う可能性がある以上、はやく伝えておいた方が良かったかのう」
(お祖父様……)
お祖父様の、私を思う気持ちが伝わる。
私の心に、温かな火が灯った。
ーー私は、アデル。
元から、多少の危険は覚悟の上だ。
「教えてくださってありがとうございます、お祖父様。大丈夫です。必ず、豊穣の舞を成功させてみせます!」
決意が伝わるように、とびきりの笑顔で、お祖父様に宣言する。
「アデル……」
お祖父様は、少しだけ目を伏せた後、私の手に何かを握らせた。
「これは?」
「破魔の鈴じゃ。儂の魔法をかけてある。悪しきものからアデルを守ってくれるじゃろう」
見れば、確かに可愛らしい鈴が掌の上で転がっている。
「ありがとうございます、お祖父様。私、頑張りますね!」
ーー私の返事に呼応するように、金色の鈴がシャランと鳴った。
◇◇◇
「よし、完璧です!」
ハンナが、満足気に額の汗を拭った。
私が纏っているのは、鮮やかな葡萄色を基調とした動きやすいエプロンドレス。袖はシースルー素材となっており、蔦模様の白刺繍が可愛らしかった。髪はおろし、小さな花飾りを多数散りばめてある。
お祖父様から頂いた鈴は、ハンナが葡萄色のリボンに縫い付けてくれ、手首や足元で涼やかな音を鳴らしていた。
最後に、薄紫色のベールを纏う。
「……お嬢様、お気をつけてくださいね」
お祖父様の話を聞いて心配になったのだろう。ハンナが泣きそうな顔をする。
「魔法騎士団の方々が広場周辺を巡回してくださるそうです。ステージ近くには先代様、客席にはミシェルさん達も居ます。何かあれば直ぐに声を上げて逃げてください」
ジャンは、警備の最終確認をしてくれていた。
「2人ともありがとう!ーーいってきます!」
私は笑顔でそう言って、ステージへと向かった。
ーー練習してきた日々を思い出し、上手く行くと自分に告げる。
(大丈夫、たくさん練習した。みんなも守ってくれる)
女神様への答えの通り、今ステージを見てくれる人たちのために、踊るんだ。
合図とともに、私は最初のステップを踏み出した。