表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/49

18.収穫祭最終日

 収穫祭初日は、大盛況の中幕を閉じた。


 その評判は人伝に伝わっていき、翌日からは更に大勢の観光客が領地へ押し寄せることになった。


 私はというと、ミシェルさんやメイナードさんを案内しながら再び収穫祭を楽しんだり、主催で忙しい両親のお手伝いをしたりと、充実しながらも忙しない日々を過ごしていた。



 ーーそして、迎えた最終日。

 私は、ジャンとハンナに見守られながら、最後の練習に勤しんでいた。


「アデルや。よく頑張っておるようじゃの」

「お祖父様!」


 レッスンルームの扉が開き、お祖父様が顔を覗かせた。お祖父様は魔法騎士団の皆さんと収穫祭を楽しんでいたので、会うのは収穫祭が始まってからは初めてだ。

 私は先日の感想を伝えようと、足早に駆け寄る。


「お祖父様、ショーでは素晴らしい魔法を見せてくださってありがとうございました!すごくすごく楽しかったです!」


「ふぉっほっほ。そう言ってくれると頑張ったかいがあったわい。ーーのう、ジャン」


 お祖父様がどこか楽しそうな笑みを浮かべながらジャンを見た。ジャンが涼しい顔で「そうですね」と答えたきり黙っていると、お祖父様はさらに笑みを深めた。


 ーー私はそんな2人を見ながら、例の預言について思い出す。


「……あの、お祖父様」

「ーー預言のことじゃろう?」


 流石はお祖父様。私の言いたいことはお見通しらしい。


「それがのう、儂も今回の預言には頭を抱えておるのじゃ」

「!」


 あのお祖父様が、頭を抱えている?

 一体どんな不吉な予言なのかと、思わず身を固くした。


 ーーお祖父様曰く。

 私が豊穣の舞を踊ることで、最悪の結果から逃れられる。

 但し、別のわざわいに十分注意せよ


 ……といった内容の預言をしたと言う。


「アデルを怖がらせてしまうかと思っての。言うか言うまいか迷っておったんじゃ。……危険を伴う可能性がある以上、はやく伝えておいた方が良かったかのう」



 (お祖父様……)


 お祖父様の、私を思う気持ちが伝わる。

  

 私の心に、温かな火が灯った。


 ーー私は、アデル(主人公)

 元から、多少の危険は覚悟の上だ。



「教えてくださってありがとうございます、お祖父様。大丈夫です。必ず、豊穣の舞を成功させてみせます!」


 決意が伝わるように、とびきりの笑顔で、お祖父様に宣言する。


 「アデル……」

 

 お祖父様は、少しだけ目を伏せた後、私の手に何かを握らせた。


「これは?」

「破魔の鈴じゃ。儂の魔法をかけてある。悪しきものからアデルを守ってくれるじゃろう」


 見れば、確かに可愛らしい鈴が掌の上で転がっている。


「ありがとうございます、お祖父様。私、頑張りますね!」


 ーー私の返事に呼応するように、金色の鈴がシャランと鳴った。



 ◇◇◇



「よし、完璧です!」


 ハンナが、満足気に額の汗を拭った。


 私が纏っているのは、鮮やかな葡萄色を基調とした動きやすいエプロンドレス。袖はシースルー素材となっており、蔦模様の白刺繍が可愛らしかった。髪はおろし、小さな花飾りを多数散りばめてある。

 お祖父様から頂いた鈴は、ハンナが葡萄色のリボンに縫い付けてくれ、手首や足元で涼やかな音を鳴らしていた。

 最後に、薄紫色のベールを纏う。


「……お嬢様、お気をつけてくださいね」


 お祖父様の話を聞いて心配になったのだろう。ハンナが泣きそうな顔をする。


「魔法騎士団の方々が広場周辺を巡回してくださるそうです。ステージ近くには先代様、客席にはミシェルさん達も居ます。何かあれば直ぐに声を上げて逃げてください」


 ジャンは、警備の最終確認をしてくれていた。


「2人ともありがとう!ーーいってきます!」



 私は笑顔でそう言って、ステージへと向かった。







 ーー練習してきた日々を思い出し、上手く行くと自分に告げる。


 (大丈夫、たくさん練習した。みんなも守ってくれる)


 女神様への答えの通り、今ステージを見てくれる人たちのために、踊るんだ。

 

 合図とともに、私は最初のステップを踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ