15.王国の守護者
ーーゲームの期間限定イベントの中に、魔法騎士団の練習試合を見学するというものがある。
アデルは、ひょんなことから、クラスメイト達とその練習試合に参加することになり、目の前の2人とも剣を交えることになるのだ。
(しかも、2人は確か、イベントで貰える配布キャラだったんだよね)
レアリティはSR。初心者でも使いやすい性能で、無課金勢に重宝されていたことを記憶している。
ーー私は無理のない課金勢……いや、ごめん、廃課金勢だった気がするけども。
そんなことを考えていると、一つの仮説が頭をよぎった。
(……ゲームでは、2人ともアデルとは初対面だった筈だよね?もしかして、ゲームとは少し未来が変わってる?)
この世界はゲームに似ているが、ゲームそのものではない。キャラクター達はプログラミングされた存在ではなく、この世界に生きている生身の人間である。
未来が変わるのは喜ばしいはず。そう思うのに。
ーー何故だか、名状しがたい不安をおぼえた。
◇◇◇
2人は予め席を取ってくれていたようで、おかげで5人並んで席に着くことができた。
椅子は湖を囲うように並べられており、既に半分以上が満席になっている。
「お嬢さん、お嬢さん」
「はい?」
ジャンが後々席を立つこともあり、私の隣にはハンナとミシェルさんが座ることになった。
すると、ミシェルさんが待ってましたとばかりに声をかけてきた。
「お嬢さんは、ジークフリート様のお孫さんなんすよね?やっぱり将来は王宮魔法使いになるんすか?それとも、我らが魔法騎士団に入団をお考えで?勿論お嬢さんなら大歓迎っすよ!」
ーーお、おお。どうやら、中々のエリート職を期待されているようだ。
「えっと、お気持ちは嬉しいんですが、私は錬金術師を目指しているんです」
「……錬金術師?」
ミシェルさんが、一瞬だけ目を見張る。
ミシェルさんは確か、子爵家出身だと記憶している。錬金術師に偏見の目が向けられていることを知っているのかもしれない。
「そうっすか〜。お嬢さんなら、『先輩』も倒せると思ったんすけどね〜。ま、仕方ないっす。頑張ってください!」
「ありがとうございます」
ーー『先輩』というのは、もしかしてあのキャラのことだろうか?
「……おい、ミシェル」
メイナードさんが、咎めるような視線をミシェルさんに向ける。
「何、お前は無理だって思ってるの?俺は良い線行くと思うんだけど」
「……幾らジークフリート様のお孫さんといえど、こんなに可愛らしいお嬢さんが兄上に勝つのは無理があるだろう」
2人の言い争いは、肝心の私を置いて白熱していく。
そして最終的には、将来魔法騎士団で『先輩』と戦ってみてはどうかと言い始めた。
……これってもしかして、フラグってやつ?
◇◇◇
「そろそろかな?」
開演時間が近づくに連れ、ショーを楽しみにする声があちこちから聞こえてきた。席は満席となり、急遽立ち見の席まで用意されたようだ。
横に座るハンナと、どんな内容なのか予想をしながら開演を待つ。
ーーそして。
開演時間ぴったりに、突然世界は暗転した。
観衆が騒めく中、水上に現れたのはお祖父様だ。
光魔法のスポットライトを浴びながら、お祖父様がゆっくりと水面に降り立つ。
そして、高らかにショーの開幕を告げた。
「ーー皆の衆、収穫祭へよくぞいらした!」
お祖父様の登場に、客席中から興奮の声が響き渡る。
私の周りの席からも、悲鳴のような声が聞こえた。
(お祖父様、人気者だなあ……!)
その人気ぶりに、孫として誇らしい気持ちになる。
(それにしても、さっきの演出はどうやったんだろう?転移魔法で湖に移動したあと、浮遊魔法を使って水上に浮いているのかな?でも詠唱の声は聞こえなかった……)
隣のミシェルさんにそれとなく聞いてみると、私の予想は概ね正しかったらしく褒めてくれた。更には、詠唱自体は小声で行い、口上のみを拡散魔法に乗せることで、突然現れたかのように見せていたのだという。お祖父様がこのショーのエキシビションを担当するということも教えてもらった。
「今年のショーはいつもと一味違うぞ。この『女神の湖』で、魔法騎士団の若い衆が、多くの魔法を披露してくれることじゃろう!」
ーーみんなの期待が高まっていくのを、肌で感じる。
「では、早速始めようかの」
お祖父様は、その期待に応えるかのように、呪文を紡いだ。
「ーー《ゲニウス=レグヌム》」
お読み頂きありがとうございます!ブックマーク、評価、いいね、どれも非常に嬉しく拝見しております!
平日はどうしても執筆の時間を確保するのが難しい日もあるのですが、皆様から頂いたエネルギーで頑張っております!
やっとお祖父様の呪文が出せて嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!