14.2人の騎士
「も、もう流石にもう食べきれない……!でも、美味しかった……!!」
「ですねぇ……」
「……ちょっと水もらって来ます。ハンナさん、お嬢様を見ていてください」
「は〜い……」
ーー干し葡萄入りのデニッシュに、フィナンシェやパウンドケーキ。瑞々しい白葡萄を使用したゼリーケーキや、ムースのタルト。
更には、前世の屋台でもよく見かけた焼き鳥や綿菓子に、りんご飴によく似た葡萄飴。
他にも、まだまだ沢山あった。
広場に設置された飲食ブースで、3人で分け合いながらとにかく食べ進めること1時間。
ようやく完食し、机に突っ伏す。
……量には苦しんだものの、みんなの好意自体は嬉しかった。
応援の気持ちが伝わってきて、期待に応えたいと強く思う。
自然と、緊張して沈んでいた心が、前を向いた気がした。
◇◇◇
ジャンが持って来てくれた水で喉を潤したところで、次の予定を頭に思い浮かべる。
「そういえば、そろそろショーの時間だよね?早く場所を取りに行かないと!」
意気揚々と声を上げると、ジャンは心得たとばかりに頷いて、懐から魔法道具を取り出した。
「……こちらジャン。今からお嬢様がショーを見に行かれます。ええ、配置の通りに。お願いします。それでは」
前世でいうところの、トランシーバーのようなものだろうか。
ジャンは、私の護衛を勤めてくれる人達と連絡を取ってくれていた。
(私が我儘を言って、一般席で見たいって言ったからだよね……。ううう、ごめんなさい)
ーーショーを観覧するにあたり、一応伯爵家専用VIP席なるものが存在するのだが、そこでは例年、仰々しい椅子に座って、少し離れた場所から見なければならなかった。立ち上がったり、盛り上がった際に歓声を上げたりすることはできない。
去年まではそれで寂しい思いをしたため、今年は両親を説得し、一般の人たちが見る場所での観覧許可をもぎ取った。
しかし、その分私の護衛の数を増やすことになってしまい、非常に申し訳なく思っている。
「ごめんね、ジャン。仕事を増やしちゃって」
「別に、これくらいはたいした仕事じゃないんで」
ジャンはそう言いながら、魔法道具を仕舞った。
ーー護衛に来てくれるのは、魔法騎士団の見習い騎士達らしい。元々ショーに出る予定はなかった者達が、お祖父様経由で護衛の依頼を引き受けくれたそうだ。
魔法騎士団には魔法学園卒業生の中でも屈指の実力者が集っており、見習いといえど、その強さは折り紙つきだ。
(そんなすごい人達に来てもらうなんて、やっぱり申し訳ない……!)
……と、考えていたところで。
「あれ、確かジャンもショーに参加するんだったよね?私達と一緒に居ていいの?」
お祖父様に誘われてショーに出る予定だと聞いていたが、違うのだろうか。
心配する私を他所に、ジャンは涼しげに応えた。
「大丈夫ですよ。俺はギリギリまでお嬢様を護衛するよう言われているので」
ジャン曰く、ショー自体が2時間弱と長めで、ジャンはその後半に出演するとのことだった。そのため、多少遅れても問題ないらしい。
「じゃあ3人で行こう!ショーは毎年広場でやってたよね?あれ、でもまだ何の準備もされてないような……?」
前方のステージに視線を向けるが、特に何も準備されていないように見えた。
すると、ジャンが「ああ」と声を上げた。
「舞の練習が忙しかったので、伝えそびれていました。今年は、水上ショーをやることになったんですよ」
そう言って、少し罰の悪そうな顔をする。
ハンナが、「そんな大事なことは早く言ってください、このすっとこどっこい!」と言っているが、私はショーのことで頭がいっぱいになっていた。
「すっごく面白そう……!」
キラキラと目を輝かせる私を見て、ジャンが少しだけ気恥ずかしそうに目を逸らした。
◇◇◇
シュタイナー家の領地は内陸に位置しているが、実は大きな湖を有している。
一説によると、魔王と女神が戦った際にできた窪みに、雨水が溜まってできたのだとか。
よくある昔話だろうが、女神様?の声を聞いたことがある身としては、もしかしたら本当かもしれないと思った。
「あ、来た来た。こっちっすよ、お嬢さん!」
「……」
「!」
湖まで足を運ぶと、大きな声で私を呼びながら手を振る2人組がいた。白を基調とした魔法騎士団の軍服を纏っていることから、彼らが私の護衛だと推察する。
「初めまして!俺はミシェル。こっちの無口なのはメイナード。今日はよろしくお願いしますね!」
「……よろしく」
ミシェルさんは、にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべており、社交性の高さが伺えた。柔らかそうなオレンジ色の髪と瞳が、本人の雰囲気によく合っている。童顔なのか、見た目では成人していないようにも見えた。
メイナードさんは、ミシェルさんほど人付き合いが得意そうではないものの、すらりとした高身長と、隙のない佇まいが、騎士としての強さを醸し出している。メイナードさんは、シルバーの長髪を低めの位置で結んだ、漆黒の瞳の美青年だ。
2人とも、まるで誂えたかのように制服がよく似合っている。肩口に縫い付けられた純白のマントが風に揺れて棚引くのも格好良い。
私達も挨拶を返し、護衛してもらうことに対してのお礼を言った。
その後、ふと謎の既視感を感じて首を傾げる。
(ん……?この2人、どこかで……?)
2人とは初対面の筈だ。見覚えがあるとしたら、それはゲームの中でに他ならない。
(ーーあ!もしかして、魔法騎士団のイベントの……!?)
ブックマークやいいねをしてくださった方、ありがとうございます!
とても嬉しく、感謝致しております!
よろしければ、評価や感想なども頂けますと、より励みになります……!
これからもどうぞよろしくお願い致します!╰(*´︶`*)╯♡