12.答え
「す、すごい……!」
両親から外出許可を貰い、私達3人は領地にあるアーデルハイト教の教会へとやって来ていた。
白亜の教会は、こうして外から眺めるだけでも美しく、厳かなその佇まいに、私は自然と姿勢を正してしまう。
木製の扉を潜ると、中央には巨大な女神の像が君臨していた。
女神は、この小高い丘に位置する教会から全ての人を見守っていると言わんばかりの、慈悲深い笑みを湛えている。
更には、ステンドグラスの窓から差し込む温かな光が、女神をより一層神々しく照らしていた。
(わあ、ゲームに出てきそうなくらいの美人だ……!)
女神アーデルハイトがもしガチャに実装されていたら、間違いなくSSRだっただろう。
ーーなんて、不謹慎なことを考えるのは良くないと思い直し、私は女神様に真剣に祈りを捧げた。
(女神様、お願いします!どうか、収穫祭で無事豊穣の舞を踊ることができますように……!)
心の中で強く願う。
祈り終わって目を開けると、私の横ではジャンとハンナがまだ瞳を閉じていた。
どうやら、2人のお願いは長そうだ。
私は続けて、もう一つのお願いもすることにした。
(まだ出会えてない、私の最推しを、幸せにすることができますように!)
ここ最近は、舞の練習で忙しく、正直あまり最推しのことを考えられない日もあった。
しかし、何故か今ふと頭の中に浮かんだのは、彼の姿だった。
(女神様は、恋をしたことはありますか?私の好きな人は、少し年上なんですけど、脈はあると思いますか?)
心の中で女神様に問いかけてみるが、答えはない。それはそうだ。相手は神様なのだから。
ーーその時、ふと。
頭の中に、声が響いた。
(ーー誰のために舞うのか。それをよく考えること)
「え?」
「お嬢様、教会で大きな声を出したら駄目ですよ」
「う、うん、ごめんなさい」
ジャンに咎められたが、驚き過ぎて、心臓がバクバクと煩い。
(い、今の声、何!?)
幻聴?いや、はっきりと聞こえた。
(め、女神様、なのかな?)
この世界では、神様が直接返事をくれるのだろうか。それとも、私が主人公だから?
ぐるぐると頭の中で考える。
(な、何で女神様が?怒って……はなかったよね。ええと、何のために舞うのかよく考えろってーー)
それは勿論、女神様に向けてではないのか。
……しかし、何故だかしっくりこない。
(でも、『豊穣の舞』なのに。……豊穣?)
そして、気づく。女神様はもしかして、これを伝えたかったのだろうか。
(私が、踊るのはーー)
私は、一つの結論を導き出した。
◇◇◇
「驚いたわ。別人みたいに上手くなってる」
練習を見に来た母が、私の舞を見て目を見開いた。
(ジャンとハンナも褒めてくれたし、私、今度こそかなり上達したのでは……!?)
私は、達成感で胸がいっぱいになる。地獄の練習を続けてよかった。
それに、何よりーー
(女神様のおかげかも)
あの日、女神様?に声をかけられて考えた。
私が何のために踊るのか。
女神様に舞を奉納するのが目的なのは、そうだけど……。
何より、葡萄を育てた領民のみんな、そして、お祭りに来てくれた人たち。彼らに楽しんでもらうために、私は舞いたい。
そう思った時から、不自然な動きとやらが解消された気がするのだ。
正解かは分からないが、これが、今の私が考えた精一杯の答え。
(女神様はきっと、私に舞の本質を見失わないようにって伝えてくれたんだよね。……ありがとうございます、女神様!)
どうやら、女神様は心の広い素晴らしい女性のようだ。
いつかまた、お礼を言うために教会に行こう。
心の中でそう決めていると、母に突然抱きしめられた。
「……良かった、アデル」
「母様?」
母の声が震えている。私は、そんなに母を心配させていたのだろうか。
「アデル、私の可愛い娘。どうか、母様を置いていかないで」
ーー置いていく?
何故母は、そんなふうに思ったのだろう。
よくわからないが、私の答えは決まっている。
「母様、私はどこにも行きません。だって、私の夢は、大好きな人をお婿さんにもらって、ここで幸せに暮らすことですから!」
「……そうね、そうだったわね」
母は、もう一度私を強く抱きしめた。