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10.どうしよう

 シュタイナー伯爵家の領地は、王都から遠く離れた田舎町に位置するワインの名産地だ。

 税収の大部分をワインが占めており、毎年10の月には、領主が主催となって豊作を祝う収穫祭が執り行われている。


 この収穫祭は5日に渡って開催され、シュタイナー伯爵家領地の一大イベントとして有名であった。


 当日、町は紫色に染め上げられ、屋台も所狭しと建ち並ぶ。

 普段は市場に出回らないような高級ワインも入手できるとあって、他の町や他国からの観光客も多い。 

 また時間によっては、豪華絢爛なパレードや、魔法使い達による見世物(ショー)も楽しむことができるのだ。

 

 ーーそして何と言っても、メインは最終日の『豊穣の舞』だろう。

 収穫祭最後のイベントとして、今年一年の恵みに感謝し、来年の更なる豊作を祈る舞が奉納される。

 舞い手に選ばれた巫女には、多くの幸福が訪れるとも言われており、領地の若い娘は皆選ばれたいと願っているのだ。


 私も去年、広場の大きな舞台で葡萄色の衣装をはためかせて舞う少女を見て、感嘆のため息を溢したものだ。


(あんなに大きなステージで踊るのは大変そうだったけど、すっごく綺麗だったのを覚えてる。また今年も見れたらいいな)


 私は収穫祭について思い出し、自然と笑顔になった。先程よりも自信を持って返事をする。


「お任せください、母様!心を込めて皆様のおもてなしをさせて頂きまーー」


「勿論それも大切なことだけど、アデルにやって欲しいのは、『豊穣の舞』なの」


「……え?」

「まあ!お嬢様、おめでとうございます!」


 後ろでハンナが歓喜の声を上げるが、今の私にはそれに感謝する余裕がない。


 だって、私はーー



 ◇◇◇



「お嬢様が今年の舞い手に選ばれたんですか。おめでとうございます」

「ありがとう……」

「顔と台詞が合ってないですよ」

「うん……」

「?……ハンナさん、お嬢様はどうされたんですか?」

「それが私にもさっぱり〜」


 おつかいから帰ってきたジャンに報告すると、ジャンもハンナと同じくおめでとうと言ってくれた。そして、何をそんなに嫌がっているのかと、不思議そうな顔をする。


(確かに、普通の女の子だったら喜んでたと思う。名誉なことだし。あの衣装可愛いし)



 ーーでも。



「……なの」



「え?」「お嬢様、何と仰いました?」



「私、踊りとかそういうの、苦手なの!!」


 そう告げて、私は顔を両手で覆った。

 2人は、「あー」と言ってから、納得したように深く頷いたのだった。


 



 ーー私は、いずれ全属性の魔力を操る、チートな存在。勉強や運動についても、主人公のポテンシャルと地道な努力でカバーできつつある。


 でも、何故か、踊りに関しては壊滅的に駄目なのだ。

 

 勿論伯爵令嬢として致命的なため、母によって、地獄の猛特訓を受けた。そして母が匙を投げた。


 自分でも、何故こんなにダンスが下手なのか分からない。音楽にのって、ステップを踏む。頭では理解しているのに、体はチグハグに動いてしまう。


 母は、「これはもう、一種の呪いね」と呟いた。


「母様が1番、私のダンスのセンスを知ってるはずなのに、どうして……」 


「苦手なところを苦手なままにしない。奥様の教育方針の一つでは?」

「スパルタ過ぎるよ……」


 私のガラスの心に、ジャンの言葉が突き刺さる。


「まあまあ、お嬢様。奥様は決して、お嬢様憎さで仰ったのではありませんよ。お嬢様なら乗り越えられると思われたから、ご提案なさったのでは?」


 ハンナに慰められるが、心は沈んだままだ。


「でも、下手すぎて葡萄の神様に怒られないかな?来年、うちの領地が不作になったら私のせいかも」


「葡萄の神様?まあ、何を仰っているんです、お嬢様。神様はアーデルハイト様お一人でしょう?お嬢様と似たお名前の女神様です。ですから、きっと悪いことはなさいませんよ」


 ハンナが微笑む。どうやらハンナは熱心な信徒のようだ。


 ……そう言えば、この世界はどの国でも女神アーデルハイトを信仰していた。他の宗教もあるにはあるが、神と名を冠して良いのは、女神アーデルハイトだけだと記憶している。


「そう思う?女神様、許してくれるかな……?」

「勿論です」


 少し元気を取り戻していた、その矢先。


「怒らないと思いますけど、練習はした方が良いと思いますよ。あの舞を楽しみにされてる方は多いんですから」


 ジャンに正論を説かれ、私は「その通りです」とか細い声で呟いた。

いつもお読みくださっている皆様、ありがとうございます!


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