【幕間】side.アリシアⅠ
ーーねぇ、アデル。
母様は、貴女の夢を応援するわ。
だから。あの人のことは私に任せて。
◇◇◇
言い争う声が耳に付いた。ウィリアムの書斎からだ。
(あの人は……。病み上がりの娘に対して何をそんなに怒っているの)
呆れながら書斎に近づく。すると、扉を開かなくてもその内容が聞き取れた。
高熱が続いた日にはどうなることかと思ったが、娘は将来の夢を思い描けるほどには回復したらしい。
思わず安堵の息をつくが、その間にも2人の口論は加速していく。
それにしてもーー
(錬金術師、ね。私は素敵な職業だと思うけれど……)
ーーウィリアムは、そう簡単には許さないだろう。
今でこそあのような性格だが、出逢った当初は今とは全くの別人だった。こんな傲慢で面倒臭い男、誰が結婚するものかと思っていたほどだ。
かつての彼であれば、アデルの言葉に耳を傾けることさえしなかっただろう。
(充分丸くなった方なのよ。でも、アデルを守るために、絶対に許可を出さないつもりでしょうね)
それもひとつの愛で、優しさだ。
ーでも、そんな優しさで守られた夢で、あの子は幸せになれるのだろうか?
(私はそうは思わないわ、ウィリアム)
ーー母が亡くなった直後。
国を守護する父に面と向かって逆える者は少なく、矛先は自然と私に向かった。父に再婚を勧めるために、私を貶めることにしたのだ。
口さがない者から、私が男児ではないと指摘される度、胸が苦しかった。私の存在が父の足枷になっているのかと思うと、どれほど悔しく、申し訳なかったことか。
それもあって一時期は女領主を目指していたのだが、結局私に為政者の才能はなく、その道は諦めてしまった。
でも。
結果はそうだったとしても。
女性が家を継ぐことに風当たりが強い中で、父はその夢をずっと応援してくれていた。無理だから、苦労するからやめろとは一言も言わなかった。
夢が叶うことはなかったが、その過程で得た知識や経験は、消えることのない私の財産だ。
私は、結果が全てだなんて思わない。
懸命に努力して得たものは、必ず自分の糧になる。
(私は、娘の夢を阻むことだけはしたくないのよ)
やけになっているのなら話は別だが、聞こえてくる声からは真剣な思いが伝わってくる。
あの子は、既に覚悟を決めているのだ。
(それなら、私達は親として応援しなくては。そうでしょう、ウィリアム)
ーーそして、力は弱いものの、私も預言の一族の1人。
娘の夢を応援しても、悪いようには感じない。
(それに、本当は貴方が1番、世間体なんて言えた義理ではないくせに)
あの人の所業を思い出して、1人苦笑する。
少し呼吸を整えてから、私は娘に加勢するためドアを開けた。