斥 候
愼治は斥候に来ていた。
斥候とは、敵を見張る役目で、活動は闇夜に紛れてすることが多かった。
敵と遭遇すれば、攻撃される恐れがある。
草むらに隠れ、駐屯地の様子を探る。
輸送船でハルピンから小湯山までやってきていた。
「万里の長城があるから、向こうから目につきやすい」
小銃をかまえながら、教育係の丹羽が舌なめずりをしながら愼治に話しかけた。
「いいか、見つかるなよ。見つかれば乱射される」
「はっ」
見つかるなよ、といわれても、周囲には草もなければ建物もない。
どうやって隠れればいいのだろう。
近くのコーリャン畑(トウモロコシ畑)の陰に身を隠すほかなかったが、どうあってもこれでは……。
「確実に的になりますね」
佐倉で戦友となった石塚が話しかけてきた。
「このまま様子をみましょう。危ないことはしたくない」
「う、うむ、そうしよう」
のそりのそりと匍匐前進をする。
カチャカチャと背中に背負った銃剣が鳴るときもあったが、止まりながら敵陣へと近づく。
どうにか、斥候を終えて奉天まで戻れた。
とはいえ、命からがらの『お出かけ』だったためか、軍服はぼろぼろだった。
「えらい目にあったようだなあ。無事でよかった」
谷崎上等兵が繕った服を用意してくれた。
「上等兵殿がお縫いになられたのですか」
「裁縫は得意になったよ、兵隊になってからはね」
「ありがとうございます」
愼治は、親切な上等兵のことを、心底信頼していた。
彼が見ている写真をのぞき込むと愼治は、あっと声を上げた。
「ど、どうしたんだ」
驚く上等兵に、愼治は、
「あ、会いました」
と答える。
「会ったって、誰にだい」
不思議がる谷崎上等兵に、愼治は答えた。
「じつは……」
いきなり満州に移動しましたね。
いつもいきなりが、あーるぐれいなのです!
さて、愼治が出会ったというその人は誰なのか。