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陸軍と海軍のよもやま話  作者: earl gray
3/6

ある親子との出会い

 それから数日して、郵便が届いた。

 安達の時と同じ、赤い紙だった。

「ついにきたか」

 手紙を広げるとこう書かれてあった。

 

 佐倉ノ連隊区へ 入営スルコトヲ 命ズル 

 日付ハ 〇月×日マデ 日時ヲ 守ルコト


 愼治はため息をついた。


 彼はひとりだったので親から譲り受けた、この印刷所をやめて兵営所へ行くしかなかった。

 荷物をまとめていると、重い気持ちになった。

 死んで帰れというのが習わしだ、生きて帰ると恥になるのか。だが俺は、死にたくはない。

 そう思っていた。

「それじゃあ、いってきます」

 隣近所に頭を下げながら歩いた。

「とうとう行ってしまうのかい。印刷所がなくなるのは寂しいねえ」

 おばさんが涙ながら言う。このおばさんは愼治が子供時代から世話をしてくれていた。

「きっと、勝って帰るよ」

「そうだよ、日本の戦況が敗退のほうへいくもんかね。がんばってくるんだ」

 はやり始めていた『露営の歌』を歌いながら見送ってくれた。

 町のみんなが口々に、勝って来いよ、だの、お国のためだと言いながら。

 

 愼治は駅まで歩き、佐倉までの道のりを急いだ。

 

 汽車に乗ると小さい子供を連れた若い母親と相席した。

「おじさん、兵隊さんになるの。ぼくもなるんだ。お国のために働くことがどれだけ大切か、よく知ってるからね」

 少年は胸を張って愼治に話した。

「わたしも軍需工場へいくんです」

 暗い面持ちで若い母親が言った。

「これから先は男も女も国のために頑張って生きなければ。そのためには富岡の製糸工場へ行くことだって厭いませんわ」


 佐倉へ着いた愼治は、出会った親子のことを思い、兵営所の大きな門をくぐった。




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