安直作家の一日
有楽町律子は作家。
とは言え、全然売れていないし、書店にも彼女の本は並んでいない。
たまたまある雑誌の小説賞を受賞したため、何となく作家業に入ったお気楽女である。
もちろん、専業ではない。
平日は新橋の会社に勤務するOLである。ブレイクダンスはできないが。
それでも、ごく稀に仕事の依頼が来る。
短編を書きませんかと、デビュー作を掲載した雑誌の編集者から連絡があった。
律子は二つ返事で承諾し、まずはプロットを練る為に大型書店に行った。
いろいろと資料になりそうな本を漁る。
しかし、どうもピンと来ない。
しかたなく、家路に着く。
自分の部屋に篭り、ボンヤリ過ごす。それでも何も思い浮かばない。
「あ」
ふと思いつく。でも思い直す。これは以前誰かが書いていた。
暢気な性格だが、人と同じ物は書きたくないなどというおこがましい事に拘っている。
骨格が似ていても、内容が違えば問題ないと編集者にも言われたが、題名すら被るのは嫌だと思うので、なかなか作業は捗らない。
「おお」
またふいに思いつく。書き始めてみる。
また手を止める。全部消す。
そんな事を繰り返しながら、律子は何とか短編を書き上げた。
意気揚々として編集者に連絡する。
すると編集者は、
「申し訳ない。差し替えがあって、有楽町先生の短編はなしになりました」
と言った。
普通なら文句の一つも言うのだが、お気楽な律子は別に何も言わない。
なら、投稿サイトでアップしようか。
などと思う程度である。
こうして日本一安直な作家の一日は終わる。
めでたし、めでたし。