7話
「ただいま〜陽夏!」
最近は、1階まで降りてきて俺を出迎えてくれる。そんな陽夏を抱きしめて自室まで戻るのが日課。陽夏は嬉しい時、悲しい時、とにかく自分の気持ちがいっぱいになると、俺に抱きついてくる。だから俺も陽夏に会えて嬉しいとか、陽夏が大好きって伝えたい時には、同じように抱きしめる。
未だに陽夏の体は小さくて、運動部でもないくせに無駄に力のついた俺の体だと、簡単に抱き上げられる。
「今日は何してた?兵助とは仲良くできた?」
今日は曽野さんが休みだから、1日兵助といたはずだ。あいつ、顔が怖いからな、陽夏にビビられてないといいけど。まぁこの家に優しそうな顔した奴なんていないけどさ。
「兄ちゃんな図書館でいいもん借りて来たんだ」
陽夏は未だに喋らない。武人たちに相談して編み出した対応策は、絵本を読み聞かせることだった。陽夏が話さない原因が、言葉を知らないのか、話し方を知らないのか、それは分からないが、俺がたくさん喋って、色んなことを教えてやれば、そのうち可愛い声で、兄ちゃんって言ってくれるはずだ。話せないままだと、不安で小学校にも行かせてやれない。行きたくないなら、じいちゃんが何とかしてくれるだろうけどさ。
ソファに座り、膝に陽夏を乗せる。目の前で絵本を開いてやればカラフルな絵に興味を示した。
「武人っていう俺の友だちがおすすめしてたんだ。妹が大好きな本なんだってさ」
絵本は1匹の黒い狼と、1匹の白うさぎの話だった。最初は食べる側と食べられる側で襲い怯えの関係の2匹だが、ある日、狼が怪我をしてうさぎに助けられる。そこから2匹の友情が始まるのだ。
『シロ、お前はどうして俺といてくれるんだ?』
『クロ、私は知ってるんだ。君が本当はとっても優しくて、とっても寂しがり屋なこと。だから、私は君といたいんだよ』
狼のクロは、うさぎのシロのことが大好きだった。いつも一緒にいてくれる事に感謝を伝えたいが、不器用なクロにはそれが出来なかった。そして、2匹は旅に出る。互いの群れを離れ、2匹だけで。
2匹は、空が広くて、きれいな花がたくさん咲いた丘に行く。
『クロ、私とずっと一緒にいてくれるかい?』
『もちろんだ、シロ』
2匹は約束をして、幸せに暮らしましたとさ。
本を読み終えると、陽夏は俺の服の裾を掴んで、じっと見つめてきた。なんとなく、言いたいことがわかる。コツンとおでこを合わせ、なるべく優しい声で話しかけた。
「兄ちゃんも、陽夏とずっと一緒にいるぞ。もう1人にしない。陽夏が俺の事必要なくなるまで、ずっとそばにいるからな」
ちょっと痛いけど、ぐりぐりとおでこを押し付けてくる陽夏が愛おしい。子供らしくふっくらしてきた頬も、丸い目も、俺と血が繋がっているとは思えないくらいに可愛い。陽夏が笑ってくれんなら、俺はなんでも出来る気がする。
「そうだ、陽夏の絵本を作るか」
陽夏は絵を描くのが好きだ。俺の部屋にも、陽夏のくれた絵が飾ってある。字は書けないかもしれないが、陽夏の描いた絵に、俺が……いや俺に文才あるかな…………。
「とにかく!陽夏は、絵を描いてくれるか?」
陽夏が大きく頷く。どうやら、引き受けてくれるみたいだ。
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