6話
家に帰ると、陽夏は疲れていたのか俺のベッドでぐっすり眠っていた。音を立てないように制服から着替える。クリスマスみたいに枕元に置いといてやろうかな。あ、いやでも、陽夏は怖がりだから目が覚めて知らないものが置いてあったらびっくりするか。
うーんと悩んでいると、もぞもぞと布団が動いた。どうやら、陽夏が目を覚ましたようだ。
俺の影を捉え、一度体をビクつかせたが、俺だとわかるとすぐに手を伸ばしてきた。前までこんなことしなかったのに、ずいぶん好かれたな。
「ただいま陽夏、起こしちゃってごめんな」
構わないというように首を横に振りながら、陽夏は俺を抱きしめた。さっきまで寝てたから、陽夏の体はいつも以上にポカポカしていた。
「そうだ、陽夏にプレゼントがあるんだよ」
一度離れて、カバンからプレゼントを取り出す。ベッドの上にそれを載せると、困ったように俺を見つめる。ああ、開け方に困ってんのか。
「その赤い紐引っ張ってみ。そうそう、そんで上の蓋を持ち上げるんだよ」
箱を開ければ、俺の作った人形が3つ寝そべっている。陽夏は1番不格好なものを取り出す。俺は余ったふたつを持った。
「はじめまして陽夏ちゃん!僕たちとお友達になって!!」
らしくないと思う。でもなぜか体が勝手に動き出した。これで陽夏が何の反応も見せてくれなかったら、俺がバカみたいだ。
2つの人形を両手に持って左右に振ると、陽夏は同じように人形を振って見せた。その顔は楽しげに口角を上げていた。これ、成功でいいのか?陽夏、喜んでるよな?
「陽夏ちゃん、僕たちと遊んでくれる?」
陽夏は首を縦に振らず、俺の首元に抱きついた。なんだか湿り気を感じる。まさか、泣いてる!!?
「え、ちょ陽夏!?ごめん!俺なんかしちゃった!?」
「何泣かせてんだよ」
「兵助!!やっぱ俺のせい!?」
泣く時すらも声を聞かせない。それに苦しさを感じる。陽夏が、今なにを思って泣いているのか、陽夏は何をすれば喜ぶのか、俺にはわからなかった。
「はよっす昂明、妹ちゃんの反応はいかが?」
学校に行けば、顔を合わせて早々に武人に尋ねられた。喜んでもらえたとは思うが、その後泣かれてしまったと話すと、武人にしては珍しく考え出した。
「ん〜、俺の大雑把な弟妹たちとは違ってそうだな。アイツらが泣くのはだいたい喧嘩した時と駄々をこねる時だ」
「人形は嬉しかったけど、やっぱり不格好すぎたのか!?」
「なわけないでしょ」
机に肘をつき、頭を抱えていると、ここ数週間で聞きなれた、篠宮の声が降り注いだ。
「そんなわけねぇって……じゃあなんで?」
「嬉しかったんでしょ、泣くほど」
「嬉しかった?」
篠宮が言うには、自分のなかで気持ちが溢れ出し、うまく言葉に出来ず、思わず涙が出た、ということらしい。
「アイドルとかのコンサートで泣いてる子いるでしょ?そんな感じよ」
「いや、それはちょっと違うんじゃね?」
うまく言葉に出来ない。もしかしたら、篠宮の言う通り、陽夏は必死に俺に喜びを表していたのかもしれない。だって、抱きつく前は人形を見て笑っていたし、いつもよりきつく抱きしめられたし、何より、震えていなかった。
陽夏は喜びとか、そういう気持ちを伝える手段がまだわかっていないんだ。だから俺に必死で抱きついて、何とか自分の気持ちを伝えようと頑張ってくれていたんだ。
「俺、妹のことまだ全然わかってないみたいだわ」
「なになに〜、いいお兄ちゃん気取りか?」
「いいんだよ、これからなるから」
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