4話
「昂明、今日は学校に行け。家寄ってから、送ってやるから」
「けど……」
「もう命の危険はないって言われただろ、交代で別のやつが見る。オヤジからの命令だよ」
嫌々ながらも、俺は陽夏の手を離し病室を出た。学校に行っても、陽夏の事が気になって仕方がない。1時間おきに、陽夏を見ていてくれる組員から容態の連絡が入ることだけが救いだ。昼が終わったらあと2時間。そしたら真っ直ぐ病院に向かおう。
「今日はずっと上の空じゃんよ!2日も休みやがって……今日が金曜だから来やがったな」
「ちげーよ」
パンを貪りながら、武人は前の席でごちゃごちゃ言う。1から説明するのも大変だから、妹が熱を出したことだけ伝える。
「お前妹いたんか」
「話してなかっただけ」
正しくは俺も知らなかっただけ。でも知らなかったことに罪悪感がある。
「なぁ、お前の妹ってどんなの好き?」
「んぁ?んー、そうだな〜。人形とか外で遊ぶのも好きだな。たまに付き合ってやるけど、おんぶしろってうるせーんだよ」
人形ねぇ……外で遊ぶのはまだ難しいだろうな。今度絵本とか人形とか色々買おう。小遣い足りるかな。じいちゃんに相談してみよ。
陽夏の病室に行くと、じいちゃんが来ていた。なんか黒くてごつい車があると思ったんだよ。じいちゃんは立ったまま陽夏の様子を見ている。
「じいちゃん」
「おう昂明。陽夏はだいぶ落ち着いたみたいだぞ」
「よかった」
置いたままだった椅子に座ると、布団の中から手が出された。
「どうした?」
「握って欲しいんじゃねぇか?なんだ、お前らいつの間に仲良くなったんだ?」
「いや、そういうわけじゃねぇけど」
陽夏は眠っているから俺が来たってわかんないはずだけど。手を握ってやれば、僅かな力が握り返してくる。なんだか甘えられている気がする。
「退院してからも、陽夏は昂明に任せて大丈夫だな。昂明、泊まるなら1回家に戻って着替えてこい」
「はいよー。陽夏、兄ちゃんすぐ戻ってくるから」
そう言って立ち上がろうと思ったが、陽夏の手が離れない。少し力をいれれば離れるだろうが、なんだかそれは可哀想だ。陽夏が俺を求めてるって自惚れてもいいだろうか。
「わかった、ほかのやつに準備させる。風呂はこの部屋のを貸してもらえ、飯は適当に食っとけよ」
「ありがとうじいちゃん」
じいちゃんも陽夏のためにいろいろしてやりたいみたいだ。このままいったら、陽夏のわがままは全部叶えそうだな。
陽夏が起きられるようになったのは日曜日だ。朝起きたら、陽夏がはっきりと目を開けていた。医者ももう大丈夫だと頷いた。
「陽夏、よく頑張ったな。なんか食いたいもんあるか?肉とかは無理だけど、ゼリーなら……」
怯えさせないように距離をとることも忘れ、話しかけていたことに気がついた。やばいと思って、後ろに下がろうとしたが、それは陽夏によって止められた。ベッドについていた俺の手に擦り寄ってきた。手を動かして、頭を撫でてやる。陽夏はそこで初めて笑顔を見せた。
「陽夏……」
声は聞こえなかった。でも、陽夏は確かに俺を見て俺に笑いかけた。何がきっかけかはわからないが、陽夏はきっと、俺を認めてくれたんだ。
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