3話
急にこんなところに連れてこられて不安だろうな。よく考えたら、今まで一緒にいた子供たちと離れ離れになったんだし。心細くて怖いだろう。
医者と共に来た看護師が陽夏ちゃんを洗い、服も替えてくれたらしい。陽夏ちゃんは白いワンピースを着ていた。細い手足。きっと歳の割には小さいはずだ。武人には弟と妹がたくさんいるけど、一番下の奴でももっとでかい。あの子は4歳だったけど、もう一回り大きい。
「陽夏ちゃん、俺と友だちになってくんない?俺さー、友達少ないんだよ」
反応は帰ってこない。少し一人にしようと、とりあえず部屋を出た。
夕食より少し前、曽野さんが用意してくれたお粥と果物を持って陽夏ちゃんの部屋に行った。返事はなかったけど、静かに部屋に入る。部屋が暗いが、何となく陽夏ちゃんの姿の影が見える。だが、様子がおかしい。キッチンにお盆を置いて、部屋の電気をつける。
1番に目に付いたのは、床に倒れ込んだ陽夏ちゃんの姿だった。
「陽夏ちゃん!?」
寝ているだけとも思ったが、明らかに呼吸が荒い。近寄って体に触れると、想像以上に体温が高い。熱を出している。
「へ、兵助!!兵助ぇ!!!」
俺はパニックになり、陽夏ちゃんを抱き上げて、靴下のまま全力で走り、兵助を呼んだ。
「かなりの高熱です。栄養が足りず、体力も不十分です。今日は24時間体勢で様子を見る必要があります」
陽夏ちゃんはすぐに病院に運ばれた。体が赤くなったり蒼くなったり、陽夏ちゃんはずっと苦しそうだった。昔から組で世話になっている病院の個室で陽夏ちゃんは治療を受けることになった。
「じいちゃん、俺今日は泊まってっていいかな?」
「ああ、好きにしろ。わしの代わりに頼むぞ。鷹場、お前も残ってくれるか?」
「もちろんです」
広い個室だ。ソファも簡易ベッドもあるから2人は泊まれる。兵助には悪いけど、俺一人だとまたパニックになるからいてくれると助かる。
時々、看護師と医師が点滴を変えたり、様子を見に来たりと、病室内はずっと騒がしい。兵助は寝れないのなわからないがずっと起きて付き添ってくれている。陽夏ちゃんの呼吸が止まっていないか心配で、俺はベッドの隣に椅子を置いてじっとしていた。
深夜2時を回ったころ、陽夏ちゃんが右手をピクリと動かした。その手はベッドに置いていた俺の手に重なる。 頬は真っ赤なのに、手は蒼白い。それにとても冷たい。温めるようにその小さな手を包み込んだ。
「兵助、陽夏ちゃんさ、小せぇよな」
「ああ」
「この子、俺の妹なんだぜ」
「ああ」
「陽夏ちゃんがいったい、何したってんだよ」
「……」
ただ生まれてきただけ。何も悪いことなんかしていない。痩せた体、弱りきった心。俺がこの子を守らなきゃ。俺が幸せに過ごしている間、この子は十分苦しんだ。ならその2倍、10倍、100倍、俺はこの子を幸せにしてやらなきゃ。
俺はもう一度、陽夏ちゃんの手をぎゅっと握った。
「陽夏ちゃん、陽夏……兄ちゃんに任せろ、陽夏のこと守ってみせるからな」
うっすらと陽夏が目を開いて俺も見た気がした。
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