10話
これか?いや、これか?
子供服の店で曽野さんと俺で陽夏の服について頭を抱えていた。陽夏が可愛すぎてなんでも似合ってしまう。車を出してくれた兵助は、店の外か周辺にいるはずだ。まぁ護衛だから当たり前か。
「陽夏はどっちが好きだ?」
人が多くて怖いのか、陽夏は俺の左手をぎゅっと掴んだまま。黄緑色の7分丈のTシャツ、同じ形のピンクのものを見せれば、陽夏はしばらく悩んで黄緑色の方を指さした。
「こっちね!おっけー」
ワンピースにパーカー、ズボンスカート、靴。目に入った店に片っ端から入っては買い、入っては買いを続けた。靴には兵助も口を出してきたのが面白かった。
「もう結構夏服出てるなー」
「すぐに暑くなりますからねぇ」
曽野さんも若くはないのに、陽夏の服を選ぶことに夢中で一時的な疲れ知らずのようだ。それでも、陽夏のために1度休もうと、フードコートに向かっていた時だ。
「陽夏?」
陽夏の名を呼び、前に立ったのは小学校高学年ぐらいの男の子。日に焼けているのか、肌が少し黒い。陽夏はそんな男の子を見つめると、はっとしたように声を出す。
「ちー、ちゃん」
陽夏は俺の手を離し、ちーちゃんと呼んだ少年の元へ飛びついた。ちーちゃんはそれを抱きとめ、嬉しそうに笑う。なんだあいつ……
「同じ孤児院の子だ。今は普通の家庭に引き取られてる。同じ日に親父が助けた奴だよ」
兵助が手元のスマホを操作しながら、小声で告げてくる。どうやら、情報をチェックしているのだろう。それを聞いて、少し安心……できない。陽夏、距離が近くないか?兄ちゃん寂しい。
「陽夏、お友達か?」
「うん!」
「そっか。初めまして、陽夏の兄ちゃんの昂明。よろしくな」
膝に手を当てて、なるベく陽夏による。無意識のうちに威嚇しようと俺の本能が暴れているが、今はステイだ、落ち着け俺。
「陽夏、兄ちゃんいたんだな。俺、藤原千隼!にしても陽夏、また話せるようになったんだな!よかった〜」
また?またと言ったかこのガキ。つまりこいつは、俺より先に陽夏の声を聞き、俺より先に陽夏と仲良くなったというのか?いや、わかってる仕方の無いことだ。仕方の無い……?なんだかその言い回しは好きになれない。
「他のみんなも楽しく暮らしてるよ。俺みたいに新しく親が出来たやつもいれば、前のとこよりずっといい孤児院に行った奴もいる。もう、怖い思いしなくていいんだ」
「うん」
千隼くんが陽夏の頭を撫でている。もしかしたら、ずっとその役目は、彼のものだったのかもしれない。そう考えると、嫉妬のような思いが消えていく。
陽夏が曽野さんの方へ戻ると、千隼くんは今度は俺に声をかけてきた。
「昂明って、ほんとに陽夏の兄ちゃん?」
呼び捨て!?俺結構歳上なんですけど!?
「ああ、ちゃんと同じ親から生まれた兄妹だよ」
「陽夏の家族……?なら、なんで、なんでもっと早く助けに来てくれなかったんだ……」
その怒りはもっともだ。確かに、俺は陽夏の存在も知らず、喧嘩して怒られて、普通に暮らしてた。
「陽夏は小さい頃からずっと怒鳴られて殴られて……声を出したらまた怒られるから怖くても必死で口塞いで」
言いたいことが沢山あるんだろう。千隼くんはまとまりがないことを口からぼろぼろこぼしていく。同時に、陽夏があんなことになっていたのは、やはりあの環境のせいだったのだとわかる。他の子たちも辛かっただろう。
「陽夏は一番小さいから、怖いことは上手く耐えられないんだ。俺たちじゃ守りきれないからっ!もっと早く俺たちを助けてくれれば良かったんだ!」
「ごめん」
それ以外は、口から出ていかない。何を言っても、自分の無知を否定するようで、罪を認めないようで、怖くて口に出せない。
「俺たちじゃなく、お前らがあそこにいれば良かったんだ!お前らが苦しめば良かったんだ!」
「それは言い過ぎじゃないか?」
「兵助……」
俺は否定し始めた兵助を止めようとした。しかし、兵助は千隼くんと目線を合わせ、俺のことは完全に無視だ。
「お前は……」
1度、顔を見た事があるのか、千隼くんは兵助のことを知っているようだった。恐らく、孤児院に乗り込んだ時に、兵助を見たんだろう。
「お前よりでかい体してるが、昂明もまだガキだ。ガキ1人で裏社会と戦うなんざ無理な話だ。それに、比較する訳じゃねぇが、こいつも親に捨てられてここにいる。こいつなりに必死に生きて、今ここにいる。今度は妹のために必死になってやがる。慣れないことして、馬鹿みたいに慌てて、妹が笑えるように全力で…」
フォローしてくれてんのかな?時々はいる悪態は聞かないことにして、俺は、1歩下がったところでその会話を聞いていた。
「けど、お前らをすぐに助けられなかったことは詫びる。だがそれは昂明のせいじゃねぇ。八つ当たりするにしろ、責めるにしろ、俺に言え。組の門叩いたってお前には怒らねぇよ。お前らに一生恨まれる、それが俺たちのけじめだからな」
千隼くんは、もういいと言って去ってしまった。呆れとか諦めではなく、恐らく兵助の言葉を自分の中で納得させたいんだ。彼が間違っているとは思わないし、俺らにも責任はある。どんなに謝ろうが、罪滅ぼしのために動こうが、あの子たちの時間は帰ってこない。残るのは虚しさと悔しさ。
千隼くんはきっと優しくて賢い子だ。だから彼が自分の不幸を悲しみをずっと溜め込んでいたはずだ。彼がその募った感情を出していけるその現実が、少し嬉しい気もする。
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