1話
よろしくお願いいたします
俺の母親は、とある組長の娘だったらしい。だけど、ヤクザとか極道ってのが嫌いで、17歳の時に家を飛び出した。6歳上の付き合ってた男の元に行ったらしい。そんで1年後、おぎゃあと生まれたのが俺、阿川昂明。そして3年後、俺は捨てられた。家に置き去りにされたらしい。両親は揃ってクズだった。借金を作り、俺を置いて逃げて、俺は鳳仙組組長、鳳昂吾に引き取られた。
じいちゃんは両親の借金を返済する代わりに、俺をじいちゃんの息子とするように両親に言った。すぐに頷いた両親はさっさと俺を養子に出し、俺はじいちゃんの孫ではなく、息子になった。
そうして、鳳昂明が誕生したのである。
「昂明、お前また喧嘩したのかよ」
「うっせーな、俺からじゃねぇし」
「オヤジに迷惑かけんなって言ってんだろ?」
「負けてねぇからいいじゃん」
反抗していたら殴られた。頭がめちゃくちゃに痛い。俺を殴ったこの男は、鷹場兵助。俺が10歳の時にじいちゃんに引き取られ、俺の事実上兄貴になった。まぁ、護衛とか教育係とか色々言い方はあるが、俺は兄貴だと思ってる。俺の5歳上で、組内じゃ1番歳も近くて話しやすいしな。
俺は、中学生になったあたりからやたらと絡まれるようになっていた。小さい頃から組の男たちに鍛えられていたから、負けることは無かった。しかし、喧嘩をすると兵助に怒られる。正直、どんなやつの拳より、兵助の拳の方が痛い。兵助に殴られるのが嫌だから自分からは喧嘩をしないのに、どこから広まったのか、色んなとこの腕自慢が俺に喧嘩をふっかけてくる。
相手にしないでおいたら、じいちゃんのことバカにされるし、だったらのしてやろうと思ってるだけだ。
「昂明、ガキ同士の喧嘩なら俺の拳だけで許してやるが、どっかの組に喧嘩しかけるんじゃねぇぞ」
「俺から喧嘩を売ったことなんかねーよ」
今まで何回も怒られた。兵助だけじゃなくて、じいちゃんにも他の組員にも。
なかなか複雑な状況で育っても、ひねくれ者にならずにすんだのは、この組にいる皆のおかげだと思う。
そんな俺も、高校1年生になった。そこまで評判の悪い学校に行ったわけじゃないのに、どうしてこうも……
「俺の弟が世話になったみてぇだな、ちょっとツラ貸せや」
「なんの定型文だよ、あんたの弟なんぞ知るか、どけ」
まだ入学して5日だぞ、俺の青春邪魔すんなよ、また友達できねぇじゃん。
小中と合わせて、俺の友達はただ1人、高校にまで着いてくる変人。
「なはは、相変わらずだな昂明!」
「笑うな武人、俺はこんなの望んでない」
こいつだこいつ。阿部武人。小学校のとき、席が近いからって話しかけてきた奴だ。意気投合したわけじゃないけど、なんだかんだ一緒にいる。腐れ縁ってやつか?
「今日はじいちゃんに早く帰れって言われてんだよ。まじで勘弁してくれ」
「ほら、昂明ちゃんは用事があるんだって、どいたどいた」
「お前喧嘩できないんだから黙っとけよ」
2人で言い合いをしていると、目の前の男たちがイラつき出した。こりゃさっさと片付けて帰るべきだな。
「おいコラ昂明、今日は早く帰れっつっただろ」
「あ、兵助…」
「兵助さん!お久しぶりっす!」
「よう武人。送ってやるからお前も車乗れ、通りみちだろ」
「あざーっす」
なんで迎えに来てんだよ。兵助が来たことでまた存在を無視された男たちはまたイラだち、今度は兵助に向かっていった。
「あ?んだてめぇら」
兵助はもう鳳仙組の組員だから、カタギの人間に手を出すことはない。だから、声と視線で威圧する。そうすれば、相手は怯んで動けなくなる。
「帰んぞ」
「ういー」
無事に家に着き、じいちゃんの部屋に向かう。なんか話でもあんのかな。
ただいまと言いながら、扉を開ける。そこには1人掛けのソファに座るじいちゃんと、向かいの2人掛けソファに座る小さな女の子がいた。
「は?」